ビビデバー2
「で、何なわけ? あたし忙しいんですけど~」
「うわーマジモンの永月秋人じゃん! 俺めっちゃファンでーす! イソスタ載せっから、一緒に写真撮ろうぜ!!!」
高校からほどなく近いカラオケボックス。ミラーボールがくるくる回り、部屋を照らす。
私と永月さんの前には、退屈そうに脚を組んで髪を指先で遊ばせている金髪のギャルと、茶髪のミーハーな陽キャ男子が座っている。
ギャルの方が2年C組の東上さん。陽キャ男子が2年B組の日高さんだ。
東上風未さん。
金髪白肌で少しキツイ印象のある美人なギャルだ。身長が175あってスタイルもかなり良いし、モデルみたいな雰囲気。よく社会人や大学生に間違われるとかなんとか。
日高友尊さん。
見た目からして「勝ち組リア充陽キャです」感が溢れている男子だ。交友関係が広く、全国各地に友達がいて、一般人なのにイソスタのフォロワー数が10万人超えてるとかなんとか。
「確認のために聞くが、お前達はエランで間違いないな?」
永月さんがそう問うと、2人は同意する。すると永月さんは写真をテーブルに広げた。行方不明になった生徒達の写真だ。
先月から昨日までに掛けて既に5人。学年も性別もバラバラ。共通点らしい共通点はなし。
家庭に問題を抱えてるとか、交友関係で悩んでいるとか、そういう問題を一切抱えてない子ばかりだ。
「こいつらに見覚えは?」
「いや~? 俺は知らねっすね~?」
「あたしも~」
永月さんは真意を探るように2人の顔をじっと観察する。そして写真を引き下げた。
「……分かった。もう帰っていいぞ」
「はあ? 急に呼び出しといてなんな訳ぇ? ってか時間やば。打ち合わせあるし帰るわ」
「なあ永月くん! 写真撮ろーぜ写真! 動画にする!? つーか連絡先交換しね?」
「……許可が無いから無理だ」
「え~話聞いてやったじゃん!」
「あ、あの~日高さん……そういうのは、また今度ってことで……ね?」
私が口を挟むと、日高さんはようやく諦めたように「ちぇっ」とこぼした。
「まあいいや。秋人くん、また学校でな~!」
2人がそれぞれ部屋から出ていく。それを見届けた後、永月さんはぐったりと項垂れた。
そうなる理由はよく分かる。なんとなく、こっちに対する敬意みたいなものを一切感じないというか。私はともかく、永月さんは有名人なのに。
きっとあの人達が『エラン』で、私達がホルダーとはいえ『ハーフだから』なんだろう。
ほぼ話聞いてただけだけど、私もなんか……疲れちゃった。
「そういえば永月さん。なんであんな大胆なことしたんですか? 屋上にみんなを集めるなんて」
「手っ取り早いからだ。どうせこそこそしたって、どこかしらで誰かの目が光ってる。だったら全員集めて一気に見てったほうが早いだろ。そのおかげで、今日で大体の生徒の顔は確認できた」
確かに。永月さんは歩いてるだけで周囲の注目の的になっちゃうし、地道に犯人を探し回るより効率が良いといえばいいかも。
「昨日言ってた3人以外に怪しい人はいたんですか?」
「いや。さっきの感じだと、今のところはあの2人のどちらかの線が濃厚だな」
永月さんは確信めいてそう呟く。私には全く犯人かどうかなんて分からなかったけど、永月さんはどうやら何かを感じ取ったようだ。
「そういえば、3年生の鳳条さんは来なかったですね」
「今日は登校自体してないみたいだ。調べた所、普段から週に一度登校するかしないからしい。同じクラスだし、そのうちどっかで会うだろ」
永月さんはサングラスを掛け、立ち上がる。こないだも掛けてた真っ黒サングラスだ。しかも制服姿。
身バレ対策なんだろうけど……不自然すぎて逆に目立っちゃうでしょ、それ。
「……なんだよ」
「いや、なんでも」
「立て、とりあえず渋谷行くぞ」
「へ? 渋谷って……?」
どうして急に渋谷なんか。それにお互い制服姿だし。ま、まさかとは思うけど……デート!?
到底あり得ない想像に一人でドギマギしていると、永月さんは真新しい学生鞄を肩に掛けて振り返り、「さっさとしろクソ新人」と眉間を寄せて急かす。
私は理由もわからぬまま立ち上がり、それについていった。
渋谷の街は相変わらず人で溢れかえっていた。
スタスタと前を歩く永月さんの背中が人混みで見えなくなりそうな中、私は必死でついていく。
っていうかもう30分以上歩き回ってるんですけど。っていうか人酔いしそう……もう限界!
「な、永月さんっちょ……ストップストップ!」
全くこちらを気にすることのない背中に声を掛けると、永月さんはようやく立ち止まり、面倒くさそうに振り返った。
「何遊んでんだ? やる気ねぇなら帰っていいぞ」
「いや、だから私……都会慣れてないって……それにさっきから歩き回ってばかりで、何なんですか」
「哨戒だ。要するにパトロール。潜入捜査中とはいえ、給料分は仕事しねえとな」
「パトロール……なんか警察っぽい!」
「……とりあえずついて来い。今日は渋谷を見て回るぞ」
「はいっ!」
ワクワクしながら永月さんの後をついて街を歩き回る。永月さんはサングラス越しに通行人を観察しながらも、何故か公園を歩く動物や路地裏なんかも確認していた。
なんでそんな所見てるんだろうと疑問に思っていると、ふと永月さんが自販機の前で立ち止まる。
ジュースでも買うのかな? そう思っていると。
「ニャ~」
足元で鳴き声が。
下を見ると、自販機の隅からキジトラ柄の猫が姿を現した。
「わぁ、猫ちゃんだ~」
猫ちゃんはその声に反応するように私の足にすり寄り、ごろごろと喉を鳴らして転がる。
こ、これは……撫で撫でチャ~ンスっ!
「へへへ~、かわい~ね~? こんな大都会で野良やってるなんて、キミはすごいなぁ~?」
しゃがみ込んで撫でると、猫ちゃんが私の指先を舐めてくれた。
ザラザラした舌の感触に喜んでいると、猫ちゃんが口を開く。
「ストップ」
永月さんがそう呟き、急に猫ちゃんの首根っこを掴んで持ち上げてしまった。




