ビビデバー1
「あ、あの……めちゃくちゃにとは……具体的には、どういう風に……」
「もしかしてお前、記憶が無いのか?」
「……はい」
「じゃあ忘れろ」
「え!?」
永月さんはそっぽを向いてしまった。
どうしよう。めっちゃ気になる。私一体何したの?
実は永月さんにとんでもない事しでかしてたんじゃ……。
問いただしたかったが、永月さんの背中から発せられる「絶対に触れるな」という無言の圧に負けて、私はそれ以上聞くことはできなかった。
「とにかくテメェの力は借りない。今回の捜査は、俺が主体となってやる。お前は俺が命令するまで妙な動きをするな。いいな?」
「……わかりました」
「駄目です」
「…………」
話し合った結果を執務室へ行って永月さんと共に報告すると、冬華はきっぱりはっきりそう告げた。
「何故です? 何が不満なんだよ。刑事としての経験は俺の方が長い。こいつは入りたてのペーペー。どっちが指示を出す側かなんて、一目瞭然だろ」
「捜査の指示を出すのが永月くんというのは構わないと思ってるよ。でも、万が一相手と戦闘になった時は、アイちゃんに頑張ってもらわないと」
「俺が弱いから、ですか」
「うん」
冬華は微笑んだまま、またまたはっきりぱっきりと言い切った。
「永月くんは6課に来てからはET退治ばかりで、『その他の案件』に関わるのは初めてでしょ? わるい宇宙人はETと比べ物にならないくらいとっても強いよ。永月くん一人じゃ到底太刀打ち出来ないくらいにね。だから仮に戦闘になった場合は、アイちゃんを主体として二人で戦ってもらいます」
恐る恐る永月さんを盗み見る。何かに耐えるように唇を噛み、拳を握り込んでいた。
「もしそれでこいつが暴走したら……また俺に『アレ』をしろって言うんですか……」
「場合によってはそういう事になるかもね」
「……拒否権は」
「無いよ。永月警視総監からも言われてるからね。『くれぐれも秋人を死なせないように』って。だからこれは、君の生存率を上げるため。6課存続のためにも必要なことです」
「ふ、冬華……そんな言い方しなくても」
「……分かりました。失礼します」
「永月さんっ」
バタンと乱暴に扉を閉め、永月さんは部屋を出ていってしまった。
慌てて冬華を見る。穏やかな表情のまま紅茶を飲んでいた。
最近なんとなく気付いたけど、冬華って永月さんに対して厳しい気がする。
永月さん、本当に弱いのかな? だとしても、あんな言い方──。
「冬華、何もあんなに厳しいこと言わなくても……」
「しょうがないよ。だって事実だもん」
静かにティーカップを置き、冬華はまつ毛を伏せる。
「永月くんは気付いてない。気付こうとしてないの。自分の特別な能力に」
「特別な能力?」
「そう。ホルダーとして求められる能力は戦闘力だけじゃない。この先きっと、彼にしか出来ない事がたくさん出てくるはず。まずはそれに気付かせてあげなきゃいけない……たとえ嫌われ役を買ってでもね?」
冬華は困ったような笑みを浮かべて私を見上げた。
永月さんに対する冬華の辛辣な言葉は、ちゃんと意味があるってことなのかな?
「冬華ってすごいね」
「そうかな?」
そうだ。さっきの会話で私が『永月さんにしたこと』を冬華は知ってる感じだった。聞いてみようかな。
「ねぇ冬華」
「なに?」
「私ってさ……永月さんに何かしたのかな?」
「してないよ。『アイちゃん』はね」
「私はって、どういうこと?」
「さあ、これから分かるんじゃないかな?」
「これからって……」
冬華も教えてくれないんだ。私、本当に何したんだろう?
数日後、始業式の日がやってきた。
授業が終わった後、ほぼ全生徒が3年のクラスへとなだれ込んだ。「永月秋人が転校してきた」というニュースが校内に知れ渡ったのだ。
「ねえ! 永月秋人はどこ!?」
「クラスにはいない! 帰ったのか!?」
「おい! 屋上にいるらしいぞ!!!」
その言葉に先導され、人が流れていく。私もそれに紛れてついていった。屋上に出ると、既に人がひしめき合っていた。
生徒達がしきりに上を見てキャーキャーと歓声をあげている。
「ねえ永月秋人は!?」
「! ほらっ! 上見て!!」
「キャー!! 秋人くーーーん!!! こっち向いてぇーーー!!!」
私もつられて上を見る。確かに永月さんがいた。屋上の塔屋の上に立ち、集まった人々を険しい顔で眺めている。
永月さん、あんな所でいったい何してるんだろう? あんなに目立つの嫌がってたのに。
疑問に思っていると、彼は足元から何かを取り、口元に当てる。それは拡声器だった。
え、一体何を──。
『2年B組、日高友尊。2年C組、東上風未。3年A組、鳳条鵺。以上の3人は残れ。それ以外の奴らは──全員散れ』
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