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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第二章──覚醒と暴走、ついでに入学
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きゅうくらりん -3


階段を駆け下り、急いでスクランブル交差点へ向かう。

案の定、不機嫌さMAXなオーラを纏った『その人』が立っていた。

私を見るなり、腕を組みながら険しい顔で睨みつけてくる。弁解の余地も無い私は、その人に向かって深く深く頭を下げた。


「永月さんごめんっ! マジでごめんなさいっ!」


「チィッ!」


私を待っていた人──永月さんは、人混みの中ですらハッキリと聞きとれる程の大きな舌打ちをする。

そしてサングラスを指先でぐいと上げ直し、背を向けてさっさと歩き出した。私は慌ててその背中を追う。


「あ、あのっ……永月さん?」


「情報共有もすっぽかして遊び呆ける奴を潜入捜査に入れるとは。この調子じゃ6課も終わりだな。捜査は俺が一人で遂行する。吹雪室長には俺から連絡しとくから、お前もう帰っていいぞ」


「いやっすいません本当に! 本当に……すいませんでしたぁ~っ!」


そう。今回の曼荼羅まんだら高校への潜入捜査はバディである永月さんとの共同捜査。

「放課後は一度集まって情報共有をする」という約束が取り決められていたのだ。

私は遊びに誘われた事に浮かれすぎて、それを思いっきり忘れていたのである。


「あ、あの永月さんっスタビ好きですか!? ほら、あのキャラメルフロペチーノってやつ! 今度奢ります!」


「甘い物は嫌いだ」


「お願いです! 冬華には、冬華にだけはっ……絶対言わないでぇ~っ!!!」


一切振り返らずスタスタ前を歩く永月さんに、半泣きになりながらついていく。永月さんは観念したように立ち止まり、大きくため息をついた。


「とりあえず、お互いに今日あったことを報告し合うぞ。そこのパーキングに俺の車停めてる。コンビニで飲み物くらいは買ってやるから、乗れよ」



コンビニに寄った後、コインパーキングに向かい、永月さんの車の助手席に乗り込む。

ひと目見て高級車と分かるピカピカの黒塗りセダンだ。内装も黒と白で統一されたシックな印象。遮音性も気密性も高くて、シートも包みこまれるような感じで座り心地が良い。ついでになんかいい匂いもするし。


すごい。これがあの国民のアイドル『永月秋人』の愛車。さすが世間の人気者ってだけある……って、あれ?


「永月さんって、今いくつでしたっけ?」


「17」


「免許って、18歳からしか取れないんじゃ……」


「エランと一部のホルダーは特例で16から免許取得を認められてる。それくらい知っとけ馬鹿」


「あー……そうなんですね?」


うう。なんだか一々言葉尻がキツい……やっぱり私苦手だな。この人。


そむくさんは永月さんのこと貧弱って言ってたけど、絶対あり得ない。

瑜伽ゆが中の時だって、たまたま調子が悪かったとかそんなんでしょ絶対。


コンビニで買ってもらったフルーツオレを飲みながら内装を観察していると、運転席に座っている永月さんがサングラスを外し、先に口を開いた。



「情報共有。そっちから先に報告しろ」


「あ、はい。今日はとりあえず入学式で、特に何のトラブルもなく、終わりました」


「チィッ!」


え!? また舌打ちした!?


「誰が小学生の日記じみた報告しろっつった? 校内で接触した生徒や教師について報告しろ馬鹿。さっき一緒にいた生徒も含めてな」


「でも、今日は本当に、担任の郷田ごうだ先生に来週の始業式の事説明してもらって、隣の席のほのかちゃんに声掛けてもらって、アキラちゃんと一緒に渋谷に遊びに行ったくらい、です」


「1年A組の担任は、確か郷田直人ごうだなおとだったな。『ほのか』と『アキラ』……杉崎ほのかと鳳凰院ほうおういんあきらのことか?」


「え、そうだけど……なんで知ってるんですか? 永月さん3年だから、今日は学校行ってないはずじゃ」


「全生徒の組と名前と顔くらい潜入前に頭に入れてるに決まってんだろ、クソバカ新人」


ぐぬぬ……なんで私、こんなにボロクソに言われなきゃいけないわけ?

瑜伽中のETは私が倒したわけだし、冬華もそむくさんも私のことすごいって言ってたし、さっきの店員さんだって応援してくれてた。

それに昨日だって警視総監室で永月さんのこと、助けてあげたんですけど?


「あ、あのぉ~」


「あ?」


「その『クソバカ新人』ってやつ、やめてもらえませんか?」


「は?」


永月さんが容赦なく私を睨みつける。ぎくりとして条件反射的に視線を下げる。だけど、俯きながらも勇気を出して抗議した。


「わ、私には、刃金はがねアイって名前があります。せめて刃金はがねって呼んでいただけると、ありがたいんですけど……」


「……お前、先輩に楯突くってのか?」


青と金のオッドアイが私を捉え……いや、捕らえて貫く。その鋭さにぞくりと身の危険を感じて、私はさすがに何も言えなくなった。


「あ、いや、何でもないです……すいません」


「だったらハナから黙ってろ、クソバカ野郎」


永月さんは苛立った様子でジャケットの内ポケットから何かを取り出す。そしてそれを口に咥え、白い煙を吐いた。

あれ? あれってもしかして電子タバコ? もしかしてホルダーって……喫煙もオッケーなの?


びっくり仰天したまま見ていると、永月さんは幾分か落ち着いた様子で問いかける。


「杉崎ほのかは、自分から声を掛けてきたのか?」


「え? は、はい。緊張してる私に、優しく話しかけてきてくれたって感じで」


「……怪しいな」


「怪しい? ほのかちゃん。テランですよ? 気さくだし、めっちゃ優しいし」


「テランだとしても、真犯人と繋がってる可能性も拭い去れない。そうでないと、テメェみたいな陰気な女に声をかける理由が無ぇだろ」


いやいや失礼すぎない!? 誰が陰気な女だ! いや、確かに陰キャの自覚はあるけど!


「で、優秀な大先輩様の永月さんは、当然有益な情報を持ってきてるんでしょうね?」


嫌味たっぷりにそう返すと、永月さんは運転席のサンバイザーから写真を取り出して私に寄越す。

写真は3人分あり、それぞれに生徒の名前が書いてあった


「目星をつけたのはその3人、2年B組の日高ひだか友尊ゆたか、2年C組の東上とうじょう風未かざみ、3年A組の鳳条ほうじょうぬえ。全員エランだ」


「もう目星を? これ……何を根拠に」


「勘だよ」


「勘?」


「エランの起こした事件に関する捜査は自分の勘──第六感が一番頼りになる。データや証拠は、勘の精度を高める為の道具でしかないんだ」


そういえば冬華も勘がどうとか言ってたな。勘を頼ってもいいなら、私でも捜査できちゃうかも?


「じゃあこれからは、この3人を中心に捜査していくってこと、ですか」


「ああ。他にも怪しい奴がいたら、そいつも追っていく」


「……分かりました」


全員上級生かぁ。上級生のクラス行くの、正直怖い……でもそんな事言ってられないか。

冬華に喜んでもらうためにも、頑張らなきゃ。


「そういやお前。この潜入捜査中はぜってーエナジクトを発動すんなよ。そういうのは全部俺がやる」


「へ? なんでですか?」


「それは……」


永月さんは言い淀み、眉間を寄せ、苦虫を噛み潰したかのような険しい表情になる。続きを待っていると──。


「俺が、めちゃくちゃにされるからだ」


「めちゃくちゃって……誰に?」


「お前に」


予想外の言葉に思考停止する。


めちゃくちゃ? 私が? 永月さんに? え……どゆこと?


全く身に覚えがなくて疑問符を浮かべていると、永月さんは軽蔑するように横目で睨みつけ、吐き捨てるように言った。


「あんだけ散々なことしておいて、よくもまぁ平気なツラして俺と会話できたもんだ」


面の皮が厚いってレベルじゃねえだろ。と永月さんが毒づく。


散々なこと? いやいや、だって本当に記憶にないんですけど。


真意を探るために永月さんを見る。その表情には明らかな軽蔑と嫌悪、そして若干の恐怖が浮かんでいた。

どうやら嘘や冗談を言っているわけでは無いようだ。


え、私本当に永月さんのこと──『めちゃくちゃ』にしたの?

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