ギラギラ-3
「おっはよ~! 昨日の配信見た!?」
「見た見た~! おかげでちょっと寝不足かも~。ていうかやっぱ『テラン』なのにビジュ良すぎてやばかったよね!? めっちゃ推せるんだけど~!」
「分かる分かる~! むしろその辺の『エラン』より顔良いよねっ!」
「それな~!」
「ねえねえ、今日放課後パフェ食べに連れてってよぉ~」
「はあ? 昨日連れてっただろ?」
「え~? 何よもうケチッ! 『エラン』の癖にぃ~」
「ったくしょうがねえなぁ……分かりましたよ。『テラン』のお嬢様」
『テラン』
『エラン』
クラスメイト達が話している言葉の意味は、人種だ。
この世界は国籍とは別に、大まかに三種類の人種に区別されている。
1つ目は『テラン』。
地球人という意味だ。人口の割合としては約80%と一番多い人種。
人種としての地位は平均、平凡。一番真っ当に生きていける人種。
容姿も知能も平均値に近い事が多く、特にこれといった特徴は無い。
いわゆる大多数、「大衆」と呼ばれる人達に分類される。
2つ目は『エラン』。
他の惑星からやってきた地球外知的生命体。つまり宇宙人だ。
知能はもちろんのこと、容姿も非常に優れているので、テランの羨望の的である。
政治家、医者、弁護士、芸能人などの社会的に地位の高い職についており、圧倒的な資産や権力を持つ、この世界を動かしている人種だ。
人口の割合としては約5%。だけどいこの世界の全ては、エランの手のひらの上だと言っても過言ではない。
いわゆる「優等種」「ブルジョアジー」。人々を牛耳る王や女王の立ち位置。
それは学生という身分だとしても変わらない。
エランである彼ら、彼女らは、校内で常にヒエラルキーのトップに君臨している。
そしてこの世には、もう一つの人種が存在する。
私の所属する『ハーフ』。その人種のこの世界での立ち位置は──。
「おはよっ刃金さん!」
「ひっ!」
突然背後から声を掛けられて肩を叩かれ、思わず悲鳴を上げる。
振り返ると、クラスメイトの女子が立っていた。
テランの女子生徒は私の顔を見て、目を細めてにこりと微笑む。
「刃金さん。こんなところで突っ立ってどうしたの? 教室、入らないの?」
「え、あっ、わた、わたし……あっ」
「早く入ろうよ。先生来ちゃうって」
腕を強引に掴まれ、引っ張られる。たたらを踏みながら、私は教室に入った。
私が教室に入ると、それまで賑わっていた教室がしんと急に静まり返る。
ドクンドクンと鼓動が高鳴り、喉元が締め付けられるように詰まる。
「あ……あっ……、」
教室内にいる全てのクラスメイトの視線が私へと向いている。みんな真顔だった。
その無機質な視線に、胸元で握りしめた手が氷のように冷えていった。
こんなのはいつもの事だ。さっさと慣れなくちゃ。
あいさつ、そうだ……挨拶しないと。
あいさつ、あいさつ。
「お、おはっ……おはよ、う……!」
絞り出すようにそう告げ、背を丸めて俯く。
長い前髪が顔を覆い隠し、周囲の景色をシャットアウトした。
永遠にも思えたつかの間の沈黙の後、前髪のカーテンの向こうで、クラスメイトの声が聞こえた。
「おはよう!」
「おはよう刃金さんっ! 今日はちょっと遅かったんだね~」
おはよう、おはようと、みんなが明るい声で私にあいさつを返す。
前髪の隙間からみんなの笑顔を確認し、私はようやくほっと肩を撫で下ろした。
良かった。今日は『大丈夫そう』だ……よし、このまま自分の席に座ってしまおう。
教室の一番奥にある自分の席へと歩いていく最中も、みんなは私に笑顔を向けてくれていた。
こないだ先生の『指導』が入ったばっかりだもんね。だから今日はみんな、『何もしてこない』んだ。
良かった──。
みんなの視線が集まる中、自分の席に無事たどりつき、机を見下ろす。
机の上には油性ペンで「バーカ」「もう学校来んな」「低能ハーフ」など、色々書かれていた。
大丈夫、このくらいは慣れっこ。かわいいもんだ。
そう思いながら椅子を引いた瞬間、「ひっ」と小さく悲鳴が口から漏れ、思わず椅子を倒してしまった。
ガターン!
静かな教室に椅子の倒れる音が響き渡る。
倒れた椅子の座面。そこには──針先が上を向いた画鋲が、びっしりと敷き詰められていた。
「ひっ……こ、これっ……これっ……っ」
「刃金さん大丈夫~? 椅子直してあげるよ! さっ! 座って座って!」
「えっや、やっ、これっ……座れないっ……すわれないっ!」
動揺する私の腕を、何人かの生徒が寄ってきて捕らえる。
腕を掴まれた私はくるりと椅子に背を向ける体勢にされ、慌てて振り返ると、一人の生徒が満面の笑みで倒れた椅子を直し、私へと寄せてきた。
このあと起こる事態を想像して、私は青ざめながら精一杯叫んだ。
「はっはなしっ……はなしてくださいっ! いや……嫌ですっ! やだぁっ!!」
「大丈夫だってぇ。ハーフって私達テランより身体が丈夫なんでしょ? パパの会社で働いてるハーフの人、骨折しながらでも鉄骨運んでたらしいしっ♪」
「そーそー。ハーフってすげえよなぁ~! 労災の下りない炭鉱作業とか、暴力OKのフーゾクとか、俺達にはぜってー出来ねえ仕事でも文句言わずにやるらしいじゃん? 俺尊敬してるんだぜ~? まっお前がもしフーゾクで働いてたとして、その火傷痕で萎えっから、ぜってー行かねえけどっ!」
「い゛っ!」
男子生徒が私の前髪を掴み上げる。すると、長い前髪に隠された私の顔が丸見えになった。
顔の右半分から首筋までを覆う、引き攣った火傷跡。
この火傷跡は、子どもの頃に鈴音ちゃんと喧嘩になって頬を叩いてしまった罰として、おじいちゃんに煮え湯を浴びせられて出来たものだ。
すぐには適切な処置をしてもらえず、三日三晩の高熱と壮絶な痛みに苦しんだ後、ようやく病院で処置を受けさせてもらえたけど、引きっつたような赤黒い跡が、広範囲に残ってしまった。
私の顔を見た女子が悲鳴を上げる。
「きゃー! ちょっと男子! 気持ち悪いもん見せないでよっ!」
「あーすまんすまん。なあ刃金、お前の顔気持ち悪いってさぁ~。お前ってほんと配慮できる奴だよなぁ。自分のきったねー顔、幽霊みたいな前髪でちゃんと隠してんだからさぁっ!!」
「ねえねえ、それよりさっさと座らせようよ~。どうなるのか気になる~」
「それもそうだな! さっ! 遠慮なく座れって刃金!」
「「す~わ~れ! す~わ~れ!」」
教室中から手拍子とともに囃し立てるような愉快な聞こえる。
抵抗しても無駄そうだ。
諦めて項垂れると、腕を掴んだ生徒が私を椅子へと座らせようとした。あと少しで画鋲が刺さりそうになった。その時だった。
「おいお前らっ! 何やってんだッ!!!」
突然教室の入口から叫び声が聞こえる。
そちらを見ると、このクラスの担任──葛西先生がジャージ姿で立っていた。




