大脳的なランデブー -1
次の日の朝、私と永月は執務室に集合した。
ソファに座るように促され、私はできる限り永月さんと距離を開けて隣に座る。
何故なら永月さんが不機嫌さ全開で腕を組み、「近寄るなオーラ」を放っていたからだ。
執務室の前で会った時も、勇気を出して挨拶したのに華麗に無視された。
なんか私、めっちゃ嫌われてるんだよな。ロクに話した記憶も無いのに……なんで?
冬華の為とはいえ、この人とバディ組むの、正直めちゃくちゃ嫌だな……。
ギスギスした空気に癒やしを求め、ちらりと冬華の方を見る。
こちらに背を向けて、戸棚からティーカップを取り出したり、やかんに水を入れたりしていた。
ティーカップを持つ指先や、コンロに火を付けるだけの所作すらも、ゆったりとしていて気品が宿っている。
彼女が動く度にハーフアップに束ねた銀の髪がふわりと揺れ、タイトスカートから華奢な足首がちらりと覗く。
はぁ~。やっぱり冬華って後ろ姿まで綺麗だなぁ。眼福眼福。
その後光が差すような尊い後ろ姿を、幸せなため息をつきながらうっとりと眺めていると、冬華がトレーを持ってこちらに歩いてきた。
「おまたせ。永月くんはストレートだよね。アイちゃん、ミルクと砂糖は?」
「せっかくだから、欲しいかも……」
「じゃあこれで……どうぞ」
「あ、ありがとう」
こちらに差し出されたソーサーとティーカップは、見るからに高そうだった。万が一割ったりしたら絶対やばいやつだ、これ。
緊張しながらティーカップ持ち、澄んだ色のミルクティーを一口飲んでみる。
柑橘系の香りとミルクの風味がふわりと口の中に広がり、私は初めて飲む本格的な紅茶の美味しさに心底驚いた。
「冬華、これ、めっちゃ美味しいよっ!」
「ふふ、そうでしょ? 昨日永月くんが持ってきてくれた茶葉を、さっそく淹れてみたんだ。永月くん、いつも美味しいもの差し入れしてくれるんだよ?」
冬華が永月ににこりと笑う。永月はそれを無視するかのようにティーカップに口をつけた。
え? 永月さん。差し入れなんかするんだ。絶対しなさそうな感じなのに……なんかよく分かんない人だな。
ガラステーブルにお茶菓子の入ったお皿を置き、冬華がようやく腰を落ち着けた。
「じゃあさっそく本題に入るね。アイちゃん。永月くん。前に少し話したけど、明日から二人には、私立曼荼羅高校に潜入してもらいます」
「冬華、曼荼羅高校って一体どういう学校なの?」
「私立曼荼羅高校。都内有数の進学校で、日本最高学府への進学率が日本で最も高い学校だよ。政治家や社長なんかの偉い人もたくさん輩出してるの。実は今アイちゃんが着てる制服も、曼荼羅高校の制服なんだよ」
「あ……そうだったんだ」
改めて自分の着ている制服を眺める。白いカッターシャツに青いリボン。紺のブレザーにグレーのプリーツスカート。
目が覚めた時になんで制服着てるんだろうって思ってたけど、そうか、潜入捜査の為だったんだ。
「それで、潜入捜査って、一体私は何をすれば……」
「ここ数ヶ月、『曼荼羅高校の生徒が突然失踪する』という相談が相次いでてね。アイちゃんと永月くんには、その子達の捜索と、犯人逮捕をお願いしたいの」
「犯人逮捕って、失踪なんだったら偶然続いただけって可能性もあるんじゃ──」
「いいえ、これは間違いなく『わるい宇宙人』の仕業です」
冬華は断定するようにはっきりと告げる。
わるい宇宙人? 何それ?
首を傾げていると、永月が補足するように言った。
「要するに『エランの犯罪者』のことだ。お前も知っての通り、この国は既にエランが牛耳ってる。エランの人権を傷つけるようなマネは許されない。だから、『わるい宇宙人』と濁して呼称するしかないんだ。この呼称も、外では大っぴらには言えないがな」
「なるほど……でも冬華、どうしてわるい宇宙人の仕業だって断定できるの?」
「守秘義務があるから詳しくは話せないんだけど。失踪するまでの経緯と状況を聞いていると、今までわるい宇宙人が引き起こした誘拐事件に酷似している点がたくさんあったの。エラン──特に『わるい宇宙人』はテランを巧みに洗脳して、自分の惑星に連れて帰ってしまう事があるからね」
「連れて帰るって、一体何のために?」
「人体実験だよ」
突然飛び出してきたグロテスクな言葉に私はぎくりとし、口をつけようとしていたカップを思わず止めた。
「エランは知的好奇心が旺盛なの。自分達と地球人の身体の違いを理解するために、様々な人種のテランを連れ去っては隅々まで解剖し、その骨や臓器の構造を調べたり、脳に特殊なチップを埋め込んで、永続的に働く奴隷として飼ってみたり……私達には到底想像もつかなほどに人権を無視した、色々な使い方をしてるみたい」
確かに昔テレビで人間がUFOに連れ去られちゃう話とか見たことあるけど……あれ、本当にあることだったんだ。
「それで、その誘拐事件の犯人が、曼荼羅高校の中にいるかもしれないってこと?」
「そう。生徒に紛れているか、教師として働いているかは定かじゃないんだけど、校内にいることだけは確かだよ」
なんせ私の『女の勘』が、そう言ってるからね。
涼しい顔でそう告げて、冬華は優雅な所作で紅茶を一口飲む。
もし生徒だとしたら2年か3年に犯人はいるってことか。
私、上級生のクラスに探りを入れないといけないってこと? うう……ちょっと怖いかも。
「こちらで予測した犯人像と被害者達の情報は君達のスマホに送っておきます。ということで、二人とも明日からよろしくね」
「室長」
今までだんまりだった永月さんが声を上げる。そして冬華へ睨むような視線を投げかけながら続けた。
「俺は高校潜入には向きません」
「なぜ?」
「顔が知れすぎてます。登校したら、一発で身元がバレる」
「た、確かに……」
永月さんはETから人々を救うヒーローであり、世の全ての女性を魅了するアイドル的存在、『永月秋人』なのだから。
高校になんて行こうものなら、女子にもみくちゃにされて大変なことになるに違いない。
「それに、俺が呑気に学校なんか通ってる間にもしETが出現したら、一体誰が駆除するんだ? それだけじゃない。俺にはクソ先輩共に押し付けられたクソ事務処理とクソメディアへのクソ対応やら、やる事がカスほどある。ロクに捜査なんて出来るわけがない。明らかに人選ミスだ。他を当たってください」
永月さんは理路騒然とそう述べる。
え? 永月さんってあんなに活躍してるのに先輩に事務処理なんか押し付けられてるの? ていうか口悪すぎない?




