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エナジクト──漆黒のバーサーカーと至高の最弱ヒーロー  作者: ノミオ
第二章──覚醒と暴走、ついでに入学
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キャンディークッキーチョコレート-4


恐る恐る中を覗く。そこに入っていたのは、鮮やかな苺がたくさん乗った、純白のホールケーキだった。

ケーキの下に敷いてあるトレーを引いて、取り出してみる。そして現れた文字を見て、私ははっとした。


ホールケーキの真ん中には、チョコのプレートが乗っている。そこには「あいちゃん、おたんじょうびおめでとう」と書いてあった。


「え……冬華……これって……」


「哀ちゃん今日誕生日でしょ? 書類で確認して、用意してもらったの。哀ちゃん。15歳のお誕生日、おめでとう」


「……そっか……ありがとう、冬華」


そうだ。忘れてた。四月一日って、私の誕生日だ。


「これ、食べていいの?」


「もちろん。だってこれは、哀ちゃんの為のケーキなんだから……お皿に取り分けるね」


「ううん。このまま食べたい。夢だったんだ……ホールケーキ、一気に食べるの」


自分の為に用意されたケーキなんて、ショートケーキですら覚えがない。ホールケーキを食べるのなんて、当然はじめてだ。

鈴音ちゃんの誕生日ケーキの残りを食べたことはあるけど、こんな風に自分の為に用意されたのも、誕生日を祝ってもらったのも、はじめて。


震える手でフォークを握り、そっと一口すくい、口に運ぶ。

今まで味わったことない幸せの味が、口の中いっぱいに広がった。


「ありがとう冬華。ケーキ……すごくおいしい」


「ふふ、よかった」


「…………」


「哀ちゃん?」


「っ……う、っ……っ……」


ぽた、ぽたり。


真っ白なケーキの上に、私の涙が落ちる。一度目から溢れてしまえば、もう止まらなかった。


これは本当に、現実なのかな? もし夢だったらどうしよう。

誰かに必要とされて。感謝されて。誕生日、祝ってもらえて……。


「うぇっ……うえぇっ……」


嗚咽を上げて泣く私の背を、優しい手のひらが撫でる。冬華は私をしなやかな腕で包みこんで、そっと抱きしめてくれた。


「大丈夫だよ。哀ちゃん……大丈夫」


「っ……ふゆか……冬華ぁっ……!」


震える手で華奢な背中に縋り付くように抱き寄せて、胸に顔を埋める。


安堵感と恐怖心が同時に湧いて、ぐるぐると胸の中で渦巻き、私は冬華に縋り付いて、赤子のように声を上げて泣いた。




その後、私がホールケーキを一人で全て食べきったのを見て冬華が目を丸くし、クスクス笑った後。

私は冬華に髪を切ってもらうことになった。


冬華が姿見の前に椅子を置き、下に新聞紙を敷く。私は促されるままにそこに座った。

鋏を手にした冬華が背後に周り、前髪を一束指先でつまんだ。


「じゃあ、切っていくね」


「あ、あのっ冬華」


「どうしたの哀ちゃん?」


「私、顔の右半分に大きい火傷痕があるでしょ? 実はそれを隠すために、前髪伸ばしてて……」


「火傷痕? ああ、そういえば初めて会った時はあったね。でも今はもう無いよ? ……ほら」


「え?」


冬華の指先が厚い前髪をすくい、私の顔が鏡に映る。私は驚きに目を見開いた。

右の額から首筋にかけてあった大きな火傷痕が、綺麗さっぱり無くなっていたのだ。


「え、うそ……なんで?」


「エナジクトが修復してくれたんだろうね。身体にあった傷も痣も、綺麗さっぱりなくなってると思うよ」


改めて鏡に映る自分を見る。顔の火傷痕とは子供の頃からの付き合いだったから、なんだか不思議な感じだ。

私って本当はこんな顔してたんだ。なんか……思ってたより悪くないかも?


「すごいね……エナジクトって、そんなことまで出来ちゃうんだ」


「うん。すごいでしょ? その力を従える事が出来る哀ちゃんは、もっとすごいんだよ?」


「すごい? ……私が?」


「うん。哀ちゃんはすごいんだよ。とってもね」


冬華の澄んだ紫の瞳が私に微笑みかける。


すごい? 私って……そんなにすごいの?


自分の左手を見る。相変わらず黒い霧が紫煙のように出ていた。

そういえば、エナジクトに適合できるのって十万分の一以下だっけ。記憶は無いけど、あの強そうなETも倒したみたいだし。

もしかしたら、私って本当にすごいのかも。


そっか。私、これからは火傷痕の無い綺麗な顔で、特別な力を手にして、みんなの役に立って、感謝されて。

そんな夢みたいな人生を歩いていくことができるんだ。


嬉しい。それもこれも全部冬華のおかげだ。

あの時冬華が私を助けてくれたから今があるんだ。


私、冬華のためにこれからいっぱい頑張らなくちゃ。

冬華に喜んでもらえるように!


「じゃあ切っていくね」


「は、はい……おねがいしますっ」


シャキ、シャキン。


小気味よい音とともに、私の重苦しい髪が、足元に敷かれた新聞紙へと落ちていく。

冬華は髪を切るのがとても上手で、カットが終わってから鏡に写った自分が、今までよりずっといけてる気がして、私は自分の容姿に少しだけ自信が持てた。


「どうかな?」


「すごい……可愛くなったと思う。ありがとう冬華!」


「ふふ。気に入ってくれて良かった。あ、そうだ。6課に入るための書類、書いてもらっていい?」


「うん! 冬華のためなら、なんでも書いちゃうよ!」


「ふふ、その意気その意気。じゃあこの書類にサインして」


冬華が一枚の書類と、黒の万年筆を差し出してきた。

万年筆を手に取り名前を書こうとする。そこで私は、はたと手を止めた。


「あのさ」


「ん?」


「名前って、変えちゃダメかな?」


「変えたいの?」


「うん。私、自分の『哀』って名前……好きじゃなくて」


「変えて大丈夫だよ。改名する子、結構いるし。その書類に書く名前が、これからの哀ちゃんの名前になるから、好きな名前、考えてね」


「……分かった」


私は目を閉じて少し考える。そして万年筆を握り直し、名前を書いた。


「じゃあ、これでお願い」


「刃金アイ? 名前、カタカナでいいの?」


「うん。これでいい。だって私、冬華がいるからもうかなしくないし。それに、『愛』なんて名乗れるほど、愛について知らない……だから、アイでいい」


「そっか……じゃあこれからよろしくね? アイちゃん」


そう言って冬華が私に手を差し出してくる。

私は冬華の目を真っ直ぐ見つめ、「こちらこそよろしく」と告げて、その手を握った。

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