キャンディークッキーチョコレート-2
「刃金……はがねっ! 刃金ぇ!」
「新人!!!」
葛西先生と永月さんが私を呼ぶ悲痛な声が聞こえる。
私は状況を理解しようと、目の前に転がっている『私』を眺めた。
ローファー、脚、そして血塗れのスカート。そこから先は、赤い血とピンク色の海。
どうやらETの鋭利な爪によって、私の上半身と下半身は切断されてしまったみたいだ。
まるで『バイオハザード』のレーザートラップでそうされたみたいに、スッパリ綺麗な切り口だ。
あまりにも現実離れした状況に、痛みすら忘れ、若干冷静になりながら、人間って、上半身だけになっても即死しないんだ。と他人事のように考えていた。
切断されたお腹からは、縄跳びできそうなくらい長いピンク色の腸と、血がドバドバとまるでポンプのように溢れ出していた。
一応起き上がろうとしてみる。
けど、何をどう頑張っても、赤ん坊のずりばい程度にしか動けなかった。
あー、これはもう、駄目かもしれないなぁ。
私は全てを諦め、地に顔を伏せた。
ズドォン。
もはや暗くなってきた視界に巨大な足が映る。私は全てを諦めて目を閉じた。
「は……ねっ! はが……!」
血液とともに抜け落ちていく意識の中、葛西先生が私を呼ぶ悲痛な声が、エコーのように聞こえる。
ごめんなさい先生。やっぱり私、何も出来なかった。
結局、先生のこと助けることも出来ず、手も足も出ずに死んじゃうみたい。
死ぬ。死ぬのか私。
こんな、胴体真っ二つになって。大好きだった人の前で、臓物を零しながら、情けなく。
恥ずかしすぎるよ。ヒーロー気取りで飛び出して瞬殺とか。これじゃ私、漫画のモブキャラみたいじゃん。
こんな事になるなら、ホルダーになんかならずに、あの時トラックに轢かれて大人しく死んどけばよかった。
何なのもう……私の人生って……一体何だったの?
ぶしゃあ。
突然黒い霧が左手から溢れ出し、私の視界を覆っていく。堰を切ったように溢れ出したその黒い霧が、私の身体を優しく包んでいった。
あれ、なにこれ、黒……くろ、い。目の前ぜんぶ、真っ黒なんだけど。
……あれ、わたし、なにしようと、そっカ、たすけ、助けヨウとシたんだ。
センセ、まもろウと……アレ? クロ、クロイ。
黒、クロ……ア……くろ、クル──狂、ウ。
視界が黒い霧に覆われ、真っ黒になった瞬間──。
ブツン。
テレビの電源が切れるみたいに、私の意識は途絶えた。
さああ。
あたたかい風が、わたしの頬をやさしくなでる。見えるのは、どこまでも晴れた青い空と、広い草原。
気がつけばわたしは、いつかのお花ばたけにいた。
のそのそ。
わたしの前を、一ぴきの動物がよこぎる。
あんまり見たことない生き物だ。なんていう子なんだろう?
てとてと。
わたしはその背中を追いかけて、しゃがんで、そっとなでてみた。
肌がざらざらしていて、なんだかちょっとかたい感じ。でも、ちょっと気持ちいかも。
のそのそと逃げるように歩きつづけるその背中を、わたしは追いかけて、むちゅうでなでた。
すると、その動物さんは、ねこみたいにころんとおなかを見せてひっくり返り、手に握りしめていたちょうちょをそっと離した。
そしてぺっとりとした目で私を見上げた。
その目がとってもかわいく思えて、私はその身体をそっと抱き上げる。
ざらざらしてるけど、あったかい。
生きてるんだ。この子。かわいいな。
なんだかとっても愛おしく思えて、わたしはその子を──ぎゅっと抱きしめた。
「……ん、」
ぼんやりと意識が浮上する。あれ、私……何してたんだっけ。なんだかとってもいい匂いがする。
目を開けると、誰かが私を覗き込んでいる。そして頭の下がずいぶん柔らかい。
あ、これ、デジャブってやつかな?
視界がはっきりする。やっぱり冬華が微笑みながら私を見下ろしていた。
「……ふゆか」
「やっと起きた。おはよう。哀ちゃん」
穏やかな声が降ってきて、前髪を撫でられる。心地よくてもう一度目を閉じそうになった、が、ハッとして起き上がる。
「待ってっ! 私さっきETに真っ二つにされて……それからどうなった!?」
「あー、そういえばそうだったね?」
「そうだったねって、そんな呑気な!」
「ごめんね。もう2週間前のことだから、今更感があって」
「え……2週間前ぇ!?」
「そうそう。哀ちゃんは瑜伽中学でETと戦った後、2週間眠り続けていたのでした」
にこりと冬華が微笑む。え、私、2週間も寝てたの!?
どうしよう連続睡眠時間記録を大更新しちゃった……って、そうじゃなくて!
「私あの後どうなったの!? 葛西先生は!? 学校は!? 永月さんは!?」
詰め寄って矢継ぎ早に質問すると、冬華はどーどーと落ち着かせるように両手で私を抑えてみせた。
「哀ちゃんの身体はエナジクトが自動修復しました。葛西先生は右腕を骨折したけど、それ以外は何とも無し。生徒も全員無事。永月くんも少し怪我してたけど、無事完治しました」
「よ……良かったぁ~」
とりあえずみんな無事だったんだ。本当によかった……脱力。
「じゃああの後すぐに応援が来て、ETをやっつけてくれたんだね?」
「? 応援なんか来てないよ」
「え?」
「だってあのETは、哀ちゃんが一人で倒したんだからね」
「え……えぇえ!?」
声を上げても冬華は微笑んだままだ。
私が倒した? あのETを? 一体どういうこと!?




