BRAIN-3
ガシャアン!
永月の身体がフェンスに叩きつけられる音がグラウンドに響く。
私はそれを、信じられないような目で見た。
今まで中継で永月とETが戦うのを何度も見たことある。
大抵は永月の斬撃によって一瞬で片がつくか、そうでなくても永月が圧勝するばかりだった。
そんな姿を見て、世間は口を揃えて言っていた。「永月秋人は公安第6課最強、いや、全ホルダーの中で最強だ」と。
もしかしてこのET……あの永月秋人ですら歯が立たないくらい、めちゃくちゃ強いんじゃ──。
「永月さん!!!」
フェンスに背を預けたまま座り込んでしまった永月に駆け寄り、声を掛ける。う、と呻く声が微かに聞こえた。
俯いた額からボタボタと血が落ち、グラウンドの砂を赤く染める。私は青ざめ、すぐに冬華に呼びかけた。
「冬華! ねえ冬華! 聞こえてる!? 永月さんが大変なことに……! 早く応援の人を──」
「耳元でギャーギャー騒ぐな……クソ馬鹿野郎」
「永月さん!?」
驚いて見ると、永月がよろよろと立ち上がった。
その額からは未だ血が流れ続けていて、着ているスーツもボロボロだ。
「待ってください! 怪我してるのに! 冬華に頼んで応援を──」
「今のは少し油断しただけだ。それに……応援なんて待ってる時間あるわけねぇだろ、カスが」
永月が校舎へ歩み寄ろうとするETを睨みつける。
そして額から流れる血液を指先で拭い、刃先に染み込ませ、「チッ、これじゃ足りねえか」と独りごちた。
「後処理がクソ面倒くせぇから使いたくなかったが、そうも言ってられねぇ……エナジクト──『第一解放』だ」
永月はそう呟き、刃先に指先を押し付ける。さっきよりも深く切り込んでいるようだ。
ブツンと指の腹の皮膚が切れ、ぼたぼたと血が流れ落ち、その血が刀に流れ込んでいく。
すると刀が力を得たようにいっそう輝き、永月の右の瞳に、青い炎が宿った。
「おい、クソET」
ETがその声に反応して振り返ろうとするその刹那、永月が踏み出した。
ザクン!
瞬きする暇もないほど、視認できないほどの時が経ったのか。
はたまた経たなかったのか。
その判断すらつかないくらいの刹那が過ぎ、いつの間にかETの目の前に移動していた永月が、何かを払うように刀を振り下ろす。
その刃から飛んだ飛沫は赤いではなく、青だった。
ETの硬質な背中、その皮膚に。
ゆっくりと切れ込みが入り、そして青い血が吹き出す。
『ギャアァァアアア!!!』
ETが悲鳴をあげ、段々と地団駄を踏む。どうやらかなり効いているようだ。
そして永月に向き直り、大木のような腕を振り下ろした。
ギラリと光る爪が永月へと触れようとしたその瞬間──。
「ギャーギャーうるせぇな。今から楽にしてやるよ──くたばりやがれクソ野郎」
永月が再び刀を構え、そしてETの頭上まで跳躍した。
ザシュ! ザンザンザン!
目にも止まらぬほどの斬撃の雨がETの全身へと降り注ぎ、甲羅のように硬い皮膚に深く刻み込まれる。
タン、と永月が着地する音がした直後、ETの身体中から青い血が噴水のように噴き出した。
『ギャオオオン!!!』
痛みに耐えかねたようにETは喚き、ついにその巨体をグラウンドへと横たえた。
倒れた巨体へと永月はすかさず飛び乗り、串刺しにするように刃を突き立て、柄の部分にあるスイッチを押した。
刃の部分が伸び、ETの身体に深く突き刺さる。そして引き抜くことが不可能なほどの『かえし』が現れた。
「第一解放──刺突爆雷!」
ズガアァン!
ETの身体に突き刺さった刀を起点に大爆発が起きた。
一瞬にして爆炎と砂埃が巻き起こり、視界がゼロになる。
やばい……巻き込まれる!
腕で顔を覆い、衝撃に備える。が、耐えきれない熱や破片の飛散はやってこなかった。
腕の隙間からチラリと前を見ると、まるで何かに守られるように砂塵や爆炎が遮られていた。
どうやら永月が校舎と私にバリアを展開してくれたようだ。
しばらくして爆炎がおさまり、視界が開けてくる。
そこには黒焦げになったETと、その上に立つ永月の姿があった。
「やった! ついに倒したっ!」
私は思わずそう叫ぶ。しかし次の瞬間──。
「なっ!?」
ETが起き上がり、永月がバランスを崩す。そして──。
バキィ!
ETの鋼の様な尻尾が永月の背中を直撃する。永月は受け身も取れぬまま吹っ飛び、校舎の壁へと叩きつけられた。




