BRAIN-2
「何故ですか、吹雪室長」
「室長って……冬華!?」
『ごめんね哀ちゃん。びっくりさせちゃった? 人の脳に直接語りかける事ができる。これが私の能力なの』
「え? ということは、冬華もホルダーなの?」
『うん。といっても、私のは生まれつきなんだけどね』
「生まれつきって……」
「吹雪室長は『ナチュラル』なんだ。生まれつきの能力者。エランの中には、極稀にそういう奴がいる。室長はテランだから、前例が無いほどのレアケースだけどな」
「冬華がテラン?」
意外だ。見た目があまりにも綺麗だから、絶対にエランだと思ってたのに。
『そんな事より永月くん。哀ちゃんはその場で待機させておいてね』
「何も出来ない奴を現場にいさせろってんですか? 下手したら死ぬぞ。気でも触れたかアンタ」
『大丈夫だよ』
「何が」
『哀ちゃんは、強いからね』
冬華の淀みにない声が脳内に響く。永月は微かに動揺したような顔で私の方を一瞥した後、にわかに信じがたいと言いたげな顔をした。
「何を根拠にそんな事……こいつ、訓練も実戦もまだなんだろ?」
「! 永月さん! 後ろっ!」
ETがこちらに気づいたようにドズンと地を踏み鳴らして方向転換する。
「チィッ!」と永月は振り向きざまに背負った鞘から刀を抜き、ETへと差し向けた。
まるでそれ自体が発光しているような、青白く光る刀。永月秋人のエナジクトだ。
「おいクソET。人が話してる時は終わるまで待てって、親に教わらなかったのか?」
冷たくそう言い放つと、「キャー!!!!」と校舎から黄色い悲鳴が上がった。
「ねえねえ! あれ永月秋人じゃない!?!?」
「は!?!? 本物じゃん!!! ヤバ!!!!」
「キャー!!! こっち向いてぇーーー!!!」
きゃいきゃいと校舎中の女子が色めき立つ。永月はそれに振り返りもせず、「チィッ! 呑気なクソガキ共が」と毒づいた。
「おいクソ新人。お前、そっから一歩も動くんじゃねえぞ」
「へ?」
「動くんじゃねえぞ?」
「は……はい」
刀を手にしながら凄まじい剣幕で睨まれ、私は身を縮こまらせながらグラウンドの隅に突っ立つことにした。
「チッどいつもこいつも良いように使いやがって……めんどくせえから秒で終わらせてやるよ」
そう呟き、永月が指先を切っ先に押し当てる。指先から溢れた赤い血が刃を伝い、柄へと流れ落ちていく。
「叶えよ。捧げよ。咆哮せよ。我が血を糧とし、己が力を解放せよ。従順に。熾烈に、そして勁烈に──そなたの力を、我に示せ」
言葉に呼応するように、刀が青白く激しく輝き、永月の身体を青いオーラのようなものが包んだ。私はその眩しさに思わず目元を腕で覆った。
すごい。テレビの中継で見たことあるけど、実物はこんなに眩しいんだ。
永月の両の瞳がまっすぐにETを捉え、刀を構える。
形の整った唇が煩わしさに耐えかねるように歪み、薄く開いた。
「じゃあ──さっさと死ね」
ダン! と永月がETへと踏み出す。
次の瞬間、ETの正面にいたはずの永月が、その巨体の背後へと着地していた。
驚いてその背中を見ると、刀はETのものと思われる青い血で濡れ、ポタポタと滴っていた。
本当に一瞬の事だった。近くにいる私ですら視認できないほどの刹那。騒がしかった校内もシンと静まり返っていた。
次の瞬間、ETの巨体がちょうど胴体の部分で真っ二つになり、ズドオンと地を揺らしながら崩れ落ちた。
永月が振り返り、ETへと歩み寄る。そしてとどめを刺すようにETの心臓の辺りを突き刺した。ETはピクリとも動かない。
それを確認した永月は巨体に突き刺した刀を引き抜き、刀に付着した青い血を忌まわしいものを見るように一瞥し、払うように振り下ろして鞘に収めた。
「キャーー!!! カッコイイーーーー!!!! ガチでメロいーーー!!!」
「好きーーー!!! 永月くーん!! こっち向いてーーーー!!!」
校舎からはさっきより数段騒がしい歓声。永月は煩わしいのか、振り返ることもせずに校舎に背を向けてパトカーへと歩き出した。
「終わった。さっさと帰るぞクソ新人」
「へ? あ……はい!」
ハッとして永月についていこうとした。その時だった。
『ガ……ア……』
背後で聞こえた声に、私達はピタリと足を止める。
振り返ると、真っ二つになったETの胴体が、元の戻ろうとするかのように引き合っているのが見えた。
永月はそれを見た瞬間に眉間にシワを寄せ、鞘から刀を引き抜いた。
「チィッ! まだ死んでやがらなかったのか!」
ETの身体がみるみるうちに元に戻り、そして形態が変わっていく。
バキゴキと関節の鳴るような鈍い音とともに身体が変形していき、一回りほど大きく、そして甲羅のような硬質な皮膚へと様変わりした。
それを見た永月の表情が一層険しいものになった。
「こいつ、もしかして変異型──まずい!」
永月が駆け出す。それと同時にETがゆっくりと身体を起こし、身体の向きを変えた。視線の先には校舎があった。
生徒達の悲鳴が響き渡る中、ガコンと口が大きく開き、何かを装填するような音がその巨体の体内で響く。
まさかと思ったその瞬間、ETの身体が白く発光し、口から光線が発射された。
どうしよう……やばい!
私は何も出来ないままぎゅっと目を閉じるしかなかった。が、破壊音のようなものは聞こえない。
恐る恐る目を開けると、校舎は無事だった。よく見ると、永月が刀を手に、校舎の前に立ち塞がるように立っていた。
どうやら永月がバリアを展開して校舎を守ったようだ。
「永月さん!」
「おい新人! コントロールXだ! さっさとしろ!」
「コントロールXって……!」
「チィッ! 室長聞いてるか! 推定ランク変更! Aだ! 至急応援を──!」
ドゴォッ。
バリアを貫通し、ETの拳が永月の身体を薙ぎ払う。永月の身体はグラウンドを突っ切り、フェンスまで飛ばされてしまった。




