黒魔術師スケーイトの許嫁(いいなずけ)
『白夜の中のわざわい』のシリーズです。
1の『百夜の中のわざわい』見ていただくと中に出て来る人物についてよりわかると思いますが、見なくても大丈夫な様にはなっています。
R15には、なってますが保険なだけです。(と、投稿者は思っています)
世界は不安定で、魑魅魍魎が世界の至る所に居る世界。
それに対抗しうるのは、教会に仕える黒魔術師と僅かな者達だけ……。黒魔術師は禍いを見つけ、退治する事で新たなる禍を産む虚ろな存在。
それでも世界に教会がある事で、僅かながら生まれる希望をに縋り人々は日々生きている。
聖女シェルリル、傷や怪我や死ぬ運命にない人々を癒す彼女は、生きた教会の希望である。今日も彼女の奇蹟がなされる。
「おはようございます。今日も皆様に教会の奇蹟でお役に立てる事を嬉しく思います」
彼女の日課の挨拶が終わると、引っ切り無しに患者が運び込まれる。
光輝く金髪、白く美しい輝く様な肌、アクアマリンの瞳の天使の様な彼女は、教会の看板に丁度良かった。
今日も彼女は一生懸命、聖女の為の部屋で、人々の傷を癒す。
「はぁ……これだけ働けば、スケーイト様の許嫁の座は安泰ですわ」
「また、スケーイトか……」
そう言った彼女のボディーガードは、ここらで一般的な茶色い髪、茶色の瞳の無精ひげを生やしたどこにでも居そうな、男は聖女の言葉に呆れて言う。彼はその鋭い眼光だけが、この場に不釣り合い。
「ベシア、いつも全部スケーイト様ですわ。彼の魔術の刺青がなければ、薬草よりは効果がある程度だったわたくしの回復魔法では、黒魔術師様を守りきれず自分の命をとうに使っていた事でしょう。もしかしたらもっとおぞましい事になっていたかも?」
今より若いスケーイトが、彼女を指さし選んだ事で、許嫁と聖女という事で地位を手に入れた、彼女。手のひら側の右手首に付けられた若葉は、スケーイトの使う紋章。その魔術の刺青の、若葉の翠色は、聖女の恋心の様に、今も昔と変わらず瑞々しい色をしている。
彼女は、熱狂的な黒魔術師スケーイトの信者として、隙あらば彼と愛を語らいたい気に満ち溢れている。そして隙あらばスケーイトを押し倒す為の熱意と情熱があった。
「それにベシアみたいに、四六時中一緒のに居られるわけでもありませんし……少し位言ってもばちは当たりませんわ」
「俺がスケーイトと一緒に居るのは、仕事だ。今、俺がここに居る意味とそう変わらん」
ベシアは、さも心外とばかりにそう言う。
「でも、わたくしもいつもスケーイト様と一緒に居たいのです! ふふふでも、この前、信者のおばあちゃんに聞きました。そう言う時は押し倒してしまえばいいのよって。きゃー凄くないですか?」
聖女シェルリルは、子どもの様にはしゃぐのでベシアは呆れるばかりだった。
「お前が誰にでもスケーイト様大好きって、言って回っているのか?」
ベシアがそう言った時、部屋の外から彼女達に向かって話しかける者が居た。
「ちょっといいかい? シェルリル、ベシアいる?」
「ここに居ます」
シエルリルは素早く立ち上がると、ベシアの背中を押してスケーイトに差し出した。
「お前、俺を売るの早いな……」ベシアは、呆れて言う。
「前回の報告書が出てないって、司祭様が言ってるけどベシアはちゃんと出した?」
「あれか……まだまだ……」
「手伝うから今からやろう」
「悪いな。シエルリルそう言うこった」
そこで、出て行こうとした時、シエルリルがスケーイト様の袖を取った。
「今度の日曜日、スケーイト様の家へ行っていいでしょうか?」
「ああ、わかった。待っているよ」
彼は、あっさり許嫁の言葉を受け入れる。シエルリルは頬を染めて、うずくまると小さな声で「好き……」と囁いた。
☆
そして日曜日が来た。
スケーイト様は、黒魔術師の村に住んいる。でも、黒魔術師の村は交通の便が悪く彼は、教会の離れに小屋を借りて住んでいた。
それを思い出したのは、昨日の夜。
そして今、彼女は略式正装で、スケーイト様の隣で、教会のシンボルに祈りを捧げていた。
信心深いスケーイト様が教会の礼拝を欠かさない事を知って居たのに、うきうきしていた自分が馬鹿みたいだった。
今だけは、いつもと違い祈りより、その事だけしか考えられなかった……。
その後、こちらの神父様のいきな計らいで、シエルリルの前に奇蹟を待つ列が出来る。すべての人を癒せた時、日はどっぷりと暮れてしまっていた……。
「シエルリル、ありがとう、みんな喜んでいたよ」
「皆様に、喜んでいただきわたくしも、うれしいです。……ですが、とても疲れたのでスケーイト様の部屋で休ませていただけませんか?」
疲れたとはいえ熱狂的なスケーイト様信者の彼女はへこたれなかった。その時の聖女シェルリルの目は得物を狙う、野生の子猫の目だった。
まんまとスケーイトの部屋へ侵入した彼女は、スケーイトをベットの端へ座らせると、えい!とばかり押し倒した。
押し倒されたスケーイトは、髪が乱れて、驚いた顔も色っぽくて、シェルリルは心臓がドキドキした。こんな幸せな事があるのかと思い……。
スケーイトの横に座った。まだ心臓が、ドキドキしている……。身をちじめるて、それに耐えた。
腹筋を使って起き上がったスケーイトが、「どうしたの?」って聞く。
「信者のおばちゃんが、いつも一緒にいたければ押し倒しちゃえばいいのよって……今、わたくし一生忘れられない思い出が出来た気がします。今はこれ以上は、心臓が持たないかも……」
「そうなのか……なんかごめん……」
スケーイト様が、なんか申し訳なさそうに言うので、シェルリルは、髪を振り乱しながら、首を振る。
「おばちゃんの言う通りでした。スケーイト様は、なんだか色ぽくってドキドキしました。」
シェルリルは、頬を染めながらそう言うとふふふ。と笑う。
それを見てスケーイト様は、今度、日曜日以外に休みが出来たら、午後から海に行こうと言ってくれたのでした。
義務教育もない世界のお話です。
おわり
見ていただきありがとうございました。
またどこかで~!