目的地:王都 城
勇者として初めて来た王都。当初の目的通り僕は勇者になった事を多くの人に知ってもらうらしく、王都の真ん中に位置するお城に行くことになった。
このお城はこの国の王や王族、騎士団が住んでいる。その王との謁見をする事になる僕なのだが、それ相応の服装は持ち合わせていなかった為、お城の使用人の方々に服を借りて謁見の場に行きました。
大きな扉を開けるとそこには沢山の貴族の方々がいらっしゃり、盛大な拍手で僕を迎え入れてくださりました。真ん中にいる王冠を付けた方がこの国の王「マーセラル王」であり、この後僕に魔王を討ち滅ぼす命令を下す方だ。
ん?僕の他にも王様の前に立っている人達がいるな。この人たちも僕と一緒に魔王退治にいくのかな?だとしたら仲間になってくれるのかな?
マーセラル王「ここに集まった者たちはこれから魔王を討ち滅ぼす者達だ…」
右からドワーフの戦士グライオス。ドワーフの中でも筋力がケタ違いにあり、剣士の上位互換の「バーサーカー」を獲得し西の大地に生息していた土竜を一人で討伐した者。
続いて…エルフの大森林で生活しているエルフの賢者ラルール。彼女の魔力で起こす風は海も割る程の風圧を持ち、火・水・風・光・闇の全属性持ちである。
元Sランク級暗殺者の銀狼。元は国のお尋ね者だったが、生外れた力を持ち伝説の暗殺組織の幹部だった事が判明したことにより、急遽魔王討伐に任命することになった。
最後に勇者の称号を持ち、最年少でSランク冒険者に成り上がったまさに天才。自身の村が魔物の群れに襲われた際、真っ先に立ち向かい一人の犠牲も出さずに戦いを終えた。
王の側近「以上4名に魔王討伐の任を受けてもらう。」
この後は王様の側近が長い長い話をして、周りにいた貴族が意見を出し合ったりと我々に関係ないような話ばっかりするものだから退屈すぎて眠くなった。
流石にお城は結界も張られていたから他と比べたらだいぶ原型があるな。でも城の中は所々焦げた後がある。
そうそう…この王の場で旅仲間に会うんだよな。最初は全員が強いがあまりにリーダーを決めるのに時間がかかったもんだ。
グライオス「若造共、ワシの言うことを聞かんか…バカタレ!」
銀狼「いいや…お前のようなおっさんに任せられるかよ。」
ラルール「一番裏切りそうな銀狼よりかはマシだけど」
銀狼「なんだと…エルフババア!」
ラルール「いま…ば…ババアって言ったわね」
銀狼「あぁ言ったさ…エルフババアさん!」
…。こんなパーティで成り立つんだろうか。王様はどんな基準でこの人たちを決めたのだろう。この際だから僕も混ざって仲良くなろう!
ユゥ「僕は勇者のユゥ。故郷はここからずっと南のところにあるんだ。これから魔王討伐する仲間としてよろしくね!」
グライオス「なんだコイツ」
ラルール「一言も喋らないと思ってたら話せるのね。」
銀狼「馴れ馴れしい…キモ…」
ちょっとした自己紹介のつもりがここまで言われるとは思わなかった。
魔王討伐に行く前にパーティ内でやり合うところだったな、懐かしい。その後冒険者ギルドの酒場で酒の飲み会いになって最後まで酔いつぶれなかった僕がリーダーになったんだよね。
その後は宿屋にみんなを運んで介護してその次の日に魔王討伐の旅に行ったんだ。僕は勇者なので二日酔いはしなかったが、他の仲間は二日酔いで顔が険しくなっていたが、出迎える国民からは凛々しい顔つきだと褒められていたそう。
懐かしさに浸りながら僕は城の中を歩いていると…
マーセラル王「そちはユゥじゃないか?」
後ろを振り向くと霊体のマーセラル王がそこにはいました。マーセラル王と会うのは魔王討伐した後こ歓迎会以来だったので姿形がちょっと変わっていました。
ユゥ「マーセラル王…随分と小さくなられましたな。」
マーセラル王「まぁ…長い事会っていなかったからな、背がどんどん縮んだわい。」
ユゥ「貴方様をお守りできず申し訳ございません」
あの魔神が降り立った時、真っ先に現地に向かう前に城に立ち寄った。城の使用人は急いでおり、騎士団が王やその親族をお守りしていた。
騎士団長「ユゥ殿…私と近衛が王とその親族をお守りいたします。ユゥ殿は残りの騎士団100名を連れてあの魔物を討伐おねが…」
ユゥ「全部言わなくてもわかってるさ。なんせ僕は勇者だからね。」
ユゥ「ですが…あの戦いは範囲が多すぎて僕だけでは対処できないほどでした。」
マーセラル王「いいんじゃ…お主は死ぬその間際までこの国を守ろうとしてくれた…国民に代わってお礼申したい。」
マーセラル王が礼を言うとマーセラル王の周りから沢山のお城の使用人や王の親族、騎士団長が姿を現した。
騎士団長「またアンタに助けられるとはなぁ…。恐れ入ったぜ勇者ユゥ。」
第一王子「勇者殿が懸命に戦ったからこそ、我々のシンボルであるこのお城は残ったと言っていいでしょう。」
使用人「貴方様の戦いを見て勇気をもらい、魔物に立ち向かうことができました。」
王が僕のもとに近づきこう言う。
マーセラル王「この城の地下に神殿の間というところがあるのだが…そこに一人だけ生き残った者がおる。一緒に連れて行ってくれんか?」
それは衝撃であった。魔神との戦から約2年が経過しているにも関わらず、生きているものが存在していることを王は言う。僕は少し疑おうとしたが、この人たちに限ってそんな事ないと思ったので、喜んで受け入れることにした。
僕はマーセラル王と一緒に神殿の間というところに行きました。
マーセラル王「ここだ…」
ユゥ「この扉は…」
1つだけで明らかにおかしい扉がありました。扉の紋章が僕の右手の甲についている紋章と一致していたのです。
マーセラル王「ここには我々の希望を託した。ここだけは何としても守りたいからな。」
ユゥ「守りたい人ですか?」
マーセラル王「王族の血を絶やさないためにも我が娘をそなたと一緒に旅させてくれぬか」
ユゥ「僕でよければ…」
マーセラル王「娘には何もしてやれなかったから…沢山の経験をさせてくれ。」
僕は首を縦に振った。僕は扉に手をかざした。そうしたら扉はゆっくりと開き一人の少女が眠っていた。
歳は大体15歳だろうか。だとしても2年間睡眠状態だったのか。どうやって今まで生きてきたのだろうか。
マーセラル王「色々聞きたそうだな。順番に説明しよう。」
この場所は神殿の間。女神より与えられし神聖な場所であるがここで問題があり、この場所は女神に認められた者しか入ることができない。
よって魔物も入れないが我々も入れない。我々は女神に「あの加護」は与えられなかったからな。
ユゥ「あの加護とは?」
お主の右手の甲にある紋章があるだろ。あの子の左手をよく見るんだ。同じ紋章があるだろう。
ユゥ「つまり…あの子も勇者ってことですか?」
おそらくそうだろう。勇者がこの世に生まれるということは逆に魔王が復活ということでもある。だがここ数年で魔王は復活していない。
ユゥ「もしかして…」
あぁ…そのもしかしてだ。数年前に突如として現れたあの魔神が勇者が生まれた原因なのかもしれん。
ユゥ「魔神は魔王ではないことは貴方も十分分かってるのでは?」
信じがたいがそうとしか考えられんのだ。一般的に魔王は沢山の魔物を従えたり、上位の魔物であれば魔物同士連携をとれた戦い方をしてくる。
一方で魔神は未だに謎多き生物?であるが魔物を従えるのが魔王で、それをも従える事ができるのが魔神だと思うのだ。
お主は戦ったから分かるだろうが相当強かったんじゃないだろうか。
ユゥ「確かにそこら辺の魔物ではなく人形の魔物だったような。」
さよう、人型ということはそれだけ上位の存在ということだ。魔に人と書いて魔人という奴らもしくは魔王だったのだろう。
だから我が娘にも発現したのかもしれん。元々娘は王都の教会で神官をしていたのでなぁ、神様との繋がりが前からあったものだ。
ここから先は同じ勇者のユゥ…お主しか入れんから起こしにいってくれんか。そしてここ数年の経緯を話してやってくれ。
王の姿が段々薄れてきていた。大分姿を現していたからだろうか。現世に残る時間が余りないのだろう。
マーセラル王「この子を…そしてこの世界を頼んだぞ…」
僕は深く頷いた。王は誰にも見せたことがないような笑顔で去っていった。
僕はそっと近づきこの子を起こそうとした。なるほど、この空間は神殿が…女神がどうちゃらこうちゃら…とかではなくこの空間はアイテムボックスみたいなものになっている。
この部屋自体がアイテムボックスになっており、アイテムは腐る事なく永遠に姿形を保ち続けることができる。これを人間に応用したのか。まぁ…アイテムボックスに入ればずっと寝ていた感覚?みたいなのになる文献もあるのでこの子はその説が正しいだろう。
僕はそっと目覚めの魔法:「嫌な匂い」を発動させた。この嫌な匂いというのはかかった本人がこれまでに嗅いだ中で最も嫌う・近づきたくない物を頭に連想させて匂いを放つ事ができる魔法だ。この魔法で起きる確率は99.8%…約100%で起きる優れた魔法なのである。
???「ゲホッ…ゲホッ…お父様の靴下臭い!!」
ユゥ「マーセラル王…あの世で見てるか。いや…見てない方がいいか。」
まずは挨拶からだな。こんにちは、僕は勇者のユゥ。訳あって君を連れて旅する者だよ。これからよろしくね。
???「一旦整理させて…。」
悩むのも分かるよ。じゃあ君が眠っていた間の2年間何が起きていたか話そう。
ちょうど2年前に空から魔神と呼ばれる魔王の上の存在が出現して、その魔神とその魔物の軍勢が王都を襲った。僕や王都にいた冒険者・騎士団が駆けつけて戦ったんだけど激しい接戦の末王都は滅び国全体いや…大陸の殆どが灰となった。
マーセラル王は君を…王族の血を託してここで眠らせたって感じかな。
???「もっと意味分からない!」
ユゥ「王都で生き残ってるのは僕と君だけってことさ。」
???「王都は滅んだから私は貴方と旅をしないといけないって事?」
ユゥ「内容8割カットだけど大体合ってる。」
頭を抱えて悩んでいたけど話す内にだんだん穏やかになっていき、自身の事について話しだした。
名はミリアス・マーセラル…この国の第2王女。剣と魔法は並の冒険者よりも長けていて弱冠15歳にして神童と呼ばれていたそう。眠る前の記憶は空が急に暗くなってお父様達が慌てている時に私を何処かに運んで、お父様がここでじっとしているんだ…と言ったっきりそこからの記憶がない。
ミリアス「私1人じゃこの先危険だし、貴方について行くわ。」
ユゥ「話が早くて助かる。よし…そうと決まれば城内の鍛冶屋とか服屋でまだ物が残ってないか探すか。」
ミリアス「それって…窃盗じゃ…」
ユゥ「ん?」
ミリアス「冗談よ。」
僕は1人で旅するのが正直怖かった。今まであったものが全てなくなった恐怖に震えて泣いていた。だけどこうして王から託された「未来」がある。この未来はまだ消えかかっている火だが、ここから旅でこの火を業火のごとく燃え盛るくらいにすれば…王も喜ぶかな。