第94話 アルバートの雑談配信 その4
今日の雑談配信はいつものと違う場所で行なう予定である。
その場所とは運営によってロッカールームの一部区画に完備された雑談配信が可能な一室のことだ。
(椅子や机だけでなく、希望すればベッドまで瞬時に用意してくれるとは至れり尽くせりだな)
これまでのロッカールームは配信の準備や着替えなどを行なうだけの場所だった。
だが俺の雑談配信を行なう場所が欲しいという希望や他の配信者からゆっくりと休憩できる場所が欲しいという要望が出されていたこともあり、そういった施設も充実する形となっているらしい。
だからその気になればここで仮眠を取ることも出来る訳だ。
もっともあくまでこれらの施設はダンジョン配信を行なう過程で使用することが許可されているものであり、そこに違反していると運営が判断したら強制的に追い出されたりするそうだが。
なにせ下手なホテルとかよりも質の良さそうなベッドが出てくるのだ。
それ以外でもシャワーがあったり冷蔵庫も完備できたりと色々と利用できるみたいだし、頑張ればここに住み込みことすら可能かもしれないと思ってしまうほどである。
(今の俺ならダンジョン配信でDPを稼いで、そのDPで食べ物だって幾らでも用意できるからな)
なんなら今の俺が住んでいる一人暮らし用のアパートよりずっと環境的には良質となるのは間違いない気がするくらいだった。
「まあそれはともかく、配信を始めますかね」
俺は雑談配信用のスペースに机と椅子を用意してもらっており、そこで机の上に設置してもらったダンジョンカメラを起動する。
「どうも、アルバートです。今日は見ての通りロッカールームに完備された雑談用のスペースから配信を行なっています」
今日の雑談配信の主な内容については、先日のクリスとのコラボについての感想などになる予定だった。
実際俺が話さなくても送られてくる質問もそれ関連の事が多かったし。
黒いスライムとの戦いはどうだった?
「配信を見てもらえば分かるでしょうが、正直楽勝でしたね。私も前よりずっと強くなってますから」
それじゃあ真なる死神(裏ボス)のリーパースライムは?
「そちらも問題はない感じです。まず負けることはないでしょう」
裏ボスと上級ダンジョンの魔物はどっちが強かった?
「裏ボスの強さが中級ダンジョンのボスくらいに感じたので、上級ダンジョンの魔物の方がずっと手強かったですね」
裏ボスの討伐で手に入ったDPはどれくらいだった?
「残念ながら単純に討伐した分は十万DPで普通の黒いスライムと変わりはありませんでした。ただ今回は初回討伐だったのでボーナス分が大きかったです」
そのボーナスってどのくらい?
「正確な数値は秘密ですが、新しい上級スキルを購入できるくらいにはなりましたね」
なにせ特典で一千万DPも手に入ったので。
裏ボスとはいえ下級ダンジョンでこれだけのDPが手に入るのは破格の報酬と言っても過言ではないだろう。
投下されたこの発言にざわつくコメント欄だが、そんな中でも送られてきた次の質問が気になった。
DP以外での特典は何があった?
「……かなり役に立ちそうなものがありましたが、その詳細については秘密です」
俺が気になったのは質問が「DP以外での特典は何かあった?」ではなかったことだ。
だってこの質問の仕方では、まるで他に何か手に入る物があるか知っているかのようではないか。
そこで質問の送り主の名前を調べてみると、直ぐに誰なのかは分かった。
なにせその人物はクリスとはまた違うダンジョンインフルエンサーとして有名だったからだ。
(ってことはモンスターカードの存在を知ってるな)
だとしたらこの質問の送り主は死神タイプの魔物からモンスターカードを得られるのかという事を暗に尋ねているのかもしれない。
こんな風にダンジョンインフルエンサーも俺の配信を見て情報収取をしている。
そのことを心に留めながらも俺は別の質問に答えていく。
下級スライムダンジョン以外でも死神タイプの魔物って出現するの?
「基本的にはどのダンジョンでも死神タイプは存在するようですよ。ただその出現条件は色々とあるようですが」
他の場所の条件とかはどれだけ知ってる?
「生憎と私が知っている条件はそんなに多くはないですよ」
独り占めしてないで教えて!
「これに関しては配信で公開しているので独り占めと言われるのは些か心外ですね。まあでも付け加えることがあるとするなら、同じ下級スライムダンジョンなら死神タイプの出現条件も大体同じみたいですよ」
下級スライムダンジョンは日本だけに存在するダンジョンという訳ではない。
と言うかそもそも下級のダンジョンの大半は世界各国に複数存在するのだった。
ダンジョン配信者は下級ダンジョンから開始して、そこから魔物との戦い方などのダンジョン配信についての基本を学んでいく。
それなのに世界で一ヶ所だけでしか下級スライムが存在しないようなことがあれば、その国以外の人がスライムとの戦いについて実戦では学べないという事になりかねない。
運営的にもそれは不味いようで、だからこそ世界各地には各種魔物と戦えるように下級ダンジョンが配置されているのである。
それって日本以外の下級スライムダンジョンでも死神タイプの魔物と戦えるってこと?
「そのようです。なので死神タイプの魔物と戦いのなら自国の下級スライムダンジョンでやってみれば良いと思いますよ」
この情報を公開するのは、そうしないと日本の下級スライムダンジョンに世界各国からダンジョン配信者が殺到することになりかねないからだ。
(別の場所でも再現可能となれば、多少はマシになるだろ)
これからも定期的にランダムカードを手に入れるために裏ボスと戦うつもりの俺にとって、日本のダンジョンに人が溢れ変えるのは好ましいことではない。
既に自分の行いのせいで多少はそうなるのが確定しているのだから、少しでも改善するようにしておいて損はないというものだろう。
死神タイプの魔物って倒せなかった場合はどのくらいで消えるの?
「それは私も知りません。でもきっとその内、誰かが検証くれるんじゃないですかね? 気になる人も多いでしょうし」
倒せなかったことがないので本当に知らないのだ。
だけどそれを正直に言うと傲慢そうに見えるかもしれないので、俺はすっとぼけてそう答えておいた。
今度その辺りを検証してみようかと思います。なのでもしいつまで経っても消えなかったら討伐を手伝ってもらうことってできませんか?
「いや私以外でも討伐出来そうな人はいると思いますよ? ほら、今ならクリスティーヌとか日本にいますし」
そんな風にどうにかしてこちらとコネクションを持とうとする質問も捌きながら、今日のアルバートの雑談配信は今日も盛況のうちに終了するのだった。
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