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第88話 クリスVS黒いスライム

 クリスからの攻撃を受けた黒いスライムだったが、それで行動パターンを変えることはなかった。


 即ち無数に身体から生やした触手を鞭のような形で敵に叩きつける。あるいはそれで敵を絡めとって拘束する攻撃をそのまま続行したのである。


(クリスの『斬撃(スラッシュ)』ではほとんどダメージを与えられてないみたいだしな)


 だからこそ黒いスライムはこのままで問題ないと考えているのだ。


 それはつまりクリスの攻撃を脅威とは感じていないことの表れでもあった。


 もし仮に今の『斬撃(スラッシュ)』で身の危険を感じたのなら、それこそ黒いスライムもスキルを使うなどそれ相応の対応をしてきただろうし。


 下級ダンジョンの魔物とは言え、特別な死神タイプの魔物なのだ。攻撃に使えるスキルを全く持っていないことはないはず。


『AGI強化・小』

『見切り』


 それに対してクリスの方は触手の勢いなどから、一度でも攻撃を受けたら不味いと判断したようだ。


 素早さを上げるスキルと攻撃を回避するためにスキルを使用して、四方八方から押し寄せる触手攻撃を全て回避している。


 それによって触手の攻撃をまたしても掻い潜ると、


刺突(スタブ)


 先程と同じように愛用のレイピアを使った攻撃を相手に叩き込む。


 ただし今度はより刺突攻撃に特化したスキルを使用して。


『連続突き』


 しかもそこで止まらず、素早い動きで鋭い突きを連続で敵にお見舞いしてみせた。


 それこそスキルの名称通りに。


 ただそれでも頑丈な黒いスライムの身体を大きく傷つけることは叶わず、連続攻撃の意味は薄かったかと思われた時だった。


 黒いスライムの肉体の周りに毒々しい紫のエフェクトが発生したのは。


 そしてそれと同時に明らかに黒いスライムの操る触手の動きが鈍る。


「よし! 死神タイプの魔物であっても毒のレイピアは効果があるみたいね」


 どうやらクリスの持つレイピアには敵を毒の状態異常にさせる特殊な効果が備わっていたようだ。


(レイピアで僅かしか傷つけられなくても、それで状態異常が発生するのなら構わなかったと)


 『連続突き』という威力よりも手数を重視して攻めたのもこれを狙ってのことか。


 毒の状態異常は一定時間ごとにHPが減る上、それ用の回復魔法を使用しない限り治らない。


 だから黒いスライムに回復手段がないのなら、このまま時間を稼ぐだけで、いずれは黒いスライムのHPは尽きる時がくるはずだった。


(ボスだと状態異常を回復させる手段を持っていることも多いそうだけど、死神タイプの魔物はどうなんだろうな?)


 その答えはすぐに判明する。


 何故なら黒いスライムは毒状態になってからすぐにスキルを発動したのだから。


『逆境』


 そのスキルの効果は、デバフや状態異常などの弱体化する効果を受けた際に、そのデバフなどの効果の分だけステータスを上昇させるというものだった。


 これにより毒の状態異常の分だけ黒いスライムには強化が入ることになる。


(だけど毒を治さずにそのままってことは、回復手段を持っていない可能性が高いな)


 だとすれば敵は強化されたとしても時間経過でHPが削れるのは変わらない。


 だとすれば時間を稼げば稼ぐほどにクリスは優位になっていくはず。


『乱舞』


 それを敵も分かっているのだろう。黒いスライムもここで一気に仕留めるために攻勢を強めるようだ。


 強化されたステータスだけでなく、スキルまで使用してクリスへの攻撃を続行する。


『AGI強化・小』

『見切り』


 それをどうにか躱そうとするクリスだが、先程よりも速く鋭い触手による攻撃はそれを許しはしない。


 そうしてスキルを使用してもなお躱し切れなかった一撃がクリスの身体へと迫る。


弾き(パリィ)


「くっ!? ……一撃が重いわね」


 それをどうにかレイピアの一撃で弾いたクリスだったが、その表情は苦悶に歪んでいるではないか。


 レイピアを持っている手にもかなりの衝撃があったのか痺れているように見えるし、そう何度も『弾き(パリィ)』で防御できる余裕はなさそうだ。


(この分だと、どっちが先に力尽きるかの勝負になりそうだな)


 黒いスライムが体に毒が回り切る前にクリスを倒すか。それともクリスがそれまで敵の攻撃を凌ぎきるか。


 そうしてそこからしばらく白熱した攻防が続き、それによりクリスの配信が大いに盛り上がっているのが確認できた。


 だがそうして大量の応援コメントという名の声援が送られることで、後に得られるDPがどれだけ増えたとしても、残念ながらこの勝負の勝ち負けそのものには何も影響しない。


「はあ、はあ」


 肩で息をするクリスは疲労の色を隠せなくなってきているので、このままだと時間経過でHPを削り切るよりも前に、敵の一撃がクリスを捉えることになりそうではある。


 黒いスライムも毒でかなりのダメージを受けてはいるようだが、それでもまだすぐに死ぬほどではなさそうだし。


重斬撃(ヘビースラッシュ)


 そんな疲労したクリスの隙を狙うかのように黒いスライムは大量の触手を束ねて、それらを二振りの剣のような形にすると、振り下ろす形で強力な斬撃を放ってきた。


 どうやら敵は完全にここで決めきるつもりのようだ。


(不味いな、二撃目が回避できそうもないぞ)


 『重斬撃(ヘビースラッシュ)』というスキルによって速度も威力も増している敵の攻撃だ。


 さっきまでも弾くのがやっとだったことを考えると、『弾き(パリィ)』を使っても敵の攻撃を弾けるとは思えない。


『AGI強化・小』

『見切り』


 それでもクリスは諦めることなくその二つの斬撃を回避しようと試みる。


 だがやはり一撃目を回避したところを狙って放たれている追撃を躱し切れそうもない。


 これは終わったか。


加速(アクセラレータ)


 そう思った俺だったが、そこでクリスは更に別のスキルを発動してみせた。


 それによりまたしても速度を上げたクリスはギリギリのところで敵の攻撃を潜り抜けてみせる。


 そればかりかこの時を待っていたかのように、上昇した速度のまま一気に敵へと迫っているではないか。


 それに対して黒いスライムは止めをさすべく強力な攻撃を放ってしまったせいで反応が遅れている。


重刺突(ヘビースタブ)

蜂の一刺し(ホーネットショット)


 そしてそれが決着の一撃となった。


 切り札を残していたクリスの攻撃をまともに食らうしかなかった黒いスライムは、毒によって削れたHPでそれを受けきることはできなかったらしい。


 クリスのレイピアに貫かれたままその肉体が光の粒子となって消えていく。


「はあ、はあ……ふう、私の勝ちね」

「おめでとう」


 そうして息も絶え絶えになりながらも勝利宣言するクリスに対して、俺は素直に賞賛の言葉を送るのだった。

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