第86話 下級スライムダンジョンの死神の出現条件
モーフィアスと契約してダンジョン配信を行なうと決意したのが数ヶ月前。
その結果、俺がこの下級ダンジョンであるスライムダンジョンのグリーンスライムと死闘を繰り広げたのも実に懐かしい話だった。
(そんな俺が今や他の追随を許さないダンジョンインフルエンサー扱いだかな)
特級ダンジョンでの地獄のような思いをして力を得た。
そしてアルバートと活動するようになった時点でもこの下級ダンジョンの魔物など敵ではなかったのだ。
それはタイムアタックを大幅に更新したことでも証明している。
となればそれから更に強くなった今の俺の前では、雑魚がどれだけ群れで襲ってきても戦いになる訳もなかった。
そしてそれは中級ダンジョンで活動しているクリスにも同じことが言えるようだ。
クリスは手にした双剣を振るって近付いてくるスライムを切り刻み、俺は拳で振り払うことで敵の肉体を粉々にしていく。
(この程度の雑魚だとスキルを使う必要もないか。まあ当然だな)
俺もそうだが手にした武器を振るうだけ、あるいはそれすら不要なスキルを使わない形である。
そうして先に進むのを阻もうとする敵をサクサクと排除しながら先に進む。
俺もクリスも、その気になれば襲ってくるスライムの攻撃を回避して、その合間を駆け抜けていくことなど余裕で可能だった。
恐らくサクラやそれ以下の中級ダンジョンに挑戦できる程度の実力者なら誰でも可能なことだろう。
だけど今回はそうするつもりはなかったし、してはいけないのだ。
何故ならここの死神タイプの魔物の出現条件は、ダンジョンに入ってから一定時間内に決められたスライムを倒した上で複数の階層を踏破することだから。
「なるほどね。力が弱い初心者は大量の魔物を倒しながら時間内に階層を進むなんてできない。
かと言って、ある程度まで力を付けたダンジョン配信者の場合は通常のスライムのなんて雑魚の相手をしなくなるってことね」
その出現条件をダンジョンに入る前に聞いたクリスは、これまで死神タイプの魔物が出現しなかった理由に納得していた。
「付け加えると、下級ダンジョンに湧くようなスライムは経験値的に旨味も少ないし、単純な効率を考えるならボスだけ狙った方が賢明なのもあるだろうな」
それに実力が付いたダンジョン配信者の大半は中級ダンジョンへと活動場所を移してしまうのも大きな理由の一つだろう。
ちなみにスライムを大量に倒してみたとかいう内容で配信した奴も中にはいたらしいが、その場合は一つの階層で獲物を探していたことで条件を満たせなかったらしい。
そういう理由で中々この条件をクリアする者が現れなかったようである。
なお、以前の俺がそれをクリアしたのは本当に偶然だ。
圧倒的な力を手に入れたものの、ダンジョン配信者として初心者だった俺は、力加減を学ぶためもあって、まずは下級ダンジョンで経験を積もうとした。
またアルバートの力が規格外過ぎたこともあって、その力があくまでタイムアタック限定のものではないかという疑いが掛けられたこともあった。
それが間違っていることを証明するためにスライムを蹂躙しながら、けれど下級ダンジョンに挑むにはあまりに不釣り合い過ぎる圧倒的な力のせいでサクサクと先に進んだ結果、期せずしてその条件を満たしたということのようだ。
(恐らくこのダンジョンではこの条件で死神タイプと戦える実力があるかを確認してるんだろうな)
そう、以前にモーフィアスが言っていた。
どのダンジョンでも基本的に死神タイプの魔物は打倒できる力を持つ者がいない場合は出現しないと。
それはつまり大量のスライムを排除する術を持ちながら、それで疲れることなくサクサク進める程度の実力がないとここの死神タイプの魔物の相手など務まらないということだった。
「ちなみにどのダンジョンでも三回ほど同じ死神タイプの魔物を打倒できたら、その後は面倒な条件を満たさなくてもよくなるらしい」
討伐特典としてボス部屋でボスを倒した後に、任意で死神タイプと戦うか選べるようになるらしい。
やはり死神タイプの魔物は完全に裏ボスである。
「それは助かるわね。この程度ならともかく、クリアするのに時間が掛かるようなタイプの条件を何度も何度も繰り返すのは手間が掛かるだろうし」
「その代わりなのか、三度目以降の死神タイプの魔物は更にその強さに磨きがかかるみたいだけどな」
それはまだ俺も見たことがない。
だからどれだけ強化されるのかは未知数だ。
ただこれまでの運営の傾向からして、そう簡単な相手ではないのは間違いないだろう。
それどころか変な拘りとかで、更なる鬼畜難易度に仕上がっていたとしても決して不思議ではない。
いやきっと、たぶん間違いなく、そうな気がしてならない。
(なにせチュートリアルの設定もあんなのにしてた運営だからな)
それを考えればいきなり中級ダンジョンの死神タイプの魔物を狙うのは危険な可能性がある。
それもあって下級のスライムダンジョンが最適だと判断した形だった。
「そういう訳で、まずは出現条件を満たして死神タイプの魔物を三回討伐する。強化された死神タイプとの戦いなら更に注目を集めるだろうし、なんならその後にボス部屋で周回も行えば他にない配信になると思わないか?」
「その提案、乗ったわ。ふふ、やっぱりあなたは最高ね。私を含めた他のダンジョンインフルエンサーですら相手にならない、遥か先に進んでいるのが嫌でも分かるもの」
そんなこんなで俺達は大量のスライムを掃除しながら他の追随を許さない速度でダンジョンを進んでいき、あっという間にその条件を達成してみせる。
その証拠に、ある階層に到達したところで死神タイプの魔物と遭遇したのだから。
「あれが死神タイプの魔物。確かに普通の魔物とは違った、妙な気配を発しているわね」
「まあ少なくとも下級ダンジョンに出現していい魔物ではないだろうな」
戦った俺は分かっているが、あいつは中級ダンジョンに出現する魔物、あるいはそこの中ボスに近い力を持っていると思われる。
つまり中級ダンジョンで活動しているクリスでも楽勝とはいかないはずだった。
「それじゃあ予定通り、まずは私が一人で相手をさせてもらうわね」
そのことを分かった上でクリスは死神タイプと一人で戦うと決めていた。
ここで単独で勝利を掴めないようでは、強化された三度目以降との戦いなど出来る訳がないからだ。
こちらとしてもクリスの正確な実力を測れるので否はない。
(仮に実力不足で勝てなさそうでも、それならそれで考えはあるからな)
そんなことを考えている内に、クリスと死神タイプの魔物との戦いが始まろうとしていた。
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