第83話 アルバートという隠れ蓑
闘技場を利用して悪質なアンチなどに懲罰を与えた。
それも配信上で全世界に隠すことなく公開する形で。
その非難が殺到してもおかしくないと思っていたアルバートの行動に対して賛同する意見が多かったのは正直意外だったものである。
(「スッキリした」とか「もっとやれ」とかもはや罰を与えるのを待ち望んでるコメントも結構あるみたいだしな)
それに乗せられてやるつもりはないが、反感を抱かれるのが少ないのは素直に喜ぶとしよう。
もっともそれが皆無という訳ではない。
中にはアルバートが傲慢だとか、こんなやり方で報復するのは間違っているとか、そういうような否定的な意見も存在しているのだった。
まあ気持ちは分かる。
上級ダンジョンのボスと戦う姿を見れば、これだけの力を持つ存在が現実に現れたらどうなるのか。
そして仮にその力を使って無差別に暴れ出しでもしたら誰が止められるのかと思うのは至極当然の事だろう。
こちらにそんなことするつもりは欠片もなくとも、それを言葉だけで信用するなど無理だろうし。
それに驚くべきは日本のテレビ番組などでも新たなダンジョンインフルエンサーと称されるようになったアルバートの特集をされて始めていることだろうか。
大半はその規格外な力や活躍に注目されているようだが、中にはその力や存在を危険視するような形でニュース番組でも取り上げられているらしい。
自分の事なのでそれらのニュース番組なども確認してみたが、
(……これまた好き勝手言われてるのな)
推定月収が1億円を超えるのではないか、とかどこ情報だと言いたくなる。
こちとらつい最近まで金銭的な収入など皆無だったってのに。
それ以外でもどこぞのコメンテーターとやらが偉そうにアルバートについて危険人物だと考察を述べていた。
誰も所在を掴めていたいばかりか正体すら不明な人物なのが主な根拠らしい。
「アルバートという人物は徹底してダンジョン以外の場所に姿を現していないらしいですからね。そうやって表舞台に立てないのは、何か後ろめたいことがある証拠でしょう。警察などは彼に裏金などが流れていないか調べた方が良いと思いますよ」
ただこのようにあながち間違っていない内容の事も話しているところもあるようで、それについては苦笑するしかなかった。
確かに表舞台に立てない理由もある上に、今の俺はアメリカから多額の現金をどう考えても違法な形で貰っている。
仮にこの事実が表沙汰になれば脱税とかの罪に問われるかもしれないのである。
だけどそのことを指摘できる人はいない。
だってアルバートなんて人物は存在しないし、その痕跡を追うことも普通は困難を極めるので。
(取引してるアメリカからそれを暴露する可能性も低いし、現状ではアルバートの正体を唯一知っているサクラもこっちの味方だからな)
だから今後も俺はアルバートという隠れ蓑を存分に活用するつもりだった。
目立つこいつがどれだけ常識外れな活躍をしても、俺との繋がりに気付かれなければ日常生活を送るのに支障も出ないだろうし。
(どうにか大学卒業までは隠し切りたいな。バレたらどうなるか分かったもんじゃないし)
そんなことを考えながら俺は次の配信について考える。
リストに書かれた名前はまだまだあるから闘技場での懲罰は今後もしばらくは行なうことになるだろう。
だけどそれはあくまでおまけというか寄り道だ。
少なくとも俺が闘技場でやりたい本命は別にある。
だってそもそもこれがアルバートの初のコラボ配信とか嫌過ぎるではないか。
誰が好き好んでアンチと仲良くなりたいと思うものか。
こちらに何のメリットもないというのに。
「とりあえず次の配信で告知しますかね」
それと同時に希望者の募集も開始するとしよう。
幸いにも運営側の存在であるモーフィアスの協力のおかげで、言葉の壁についてはどうにかなる目途も付いたことだし。
「しかしどの辺りの層まで申し込んでくるかね?」
これから俺が行なおうとしているのは、これまでと違って自分の力を強化するようなことではなかった。
むしろこれまでの経験や知識を元に、他のダンジョン配信者を鍛えるというようなものである。
闘技場は他のダンジョン配信者と戦える。
それはつまり模擬戦も可能ということだった。
だから本来なら真剣勝負をしてもいいのだが、実力者がある中でそれをしてしまうといじめに様なことになってしまうのは懲罰の件で明らか。
だから最初の内は他の配信者を鍛える感じになるだろう。
なお、モーフィアスを始めとした運営もアルバート以外が力を付けてくれること自体は歓迎とのこと。
理由は単純にその方がダンジョン配信が盛り上がるからだ。
(それでアルバートと戦えるようになってくれれば徐々に真剣勝負を増やせばいいだろ)
それにそこで他のダンジョン配信者の実力を自分の身で体験することもできるのも目的の一つだ。
ダンジョン配信サークルで今後も活動するつもりだし、アルバートではなくイサキチャンネルのイサキとしてダンジョンに潜る日も来るだろう。
その日のために異常ではないダンジョン配信者達の力を色々と確認しておきたいのである。
(それにこうやってコネを作っておけば、いざという時に何か役立つかもしれないからな)
そしてそのコネの中にサクラが入ることは確定していた。
大量に送られてくると思われる応募の中から選ばれた内に一人ってことにすれば、そこまで怪しまれることもないだろうし。
そうやってそのことを配信で話した瞬間から、大量の希望者からこれまで以上のダイレクトメッセージが殺到することになるのはある意味で当然の事だった
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