第80話 得られた金の使い道
俺が用意したのは最低ランクの回復薬だ。
間違ってもエリクサーなどではないし、飲んでもHPをたった5回復させるだけの代物でしかない。
(それが一本で100万円とかマジかよ)
繰り返すがあれは最低ランクの回復薬なので、現実世界で使用しても効果はたいしたことはない。
一応あちらに渡す前に自分で試してみたのだが、その際では小さな切り傷などを治すのが限界だったくらいだし。
研究用にするとのことなので実際に使う訳ではなく、成分などを調べるとかに使うのだろうが、それにしたってここまでの大金を支払うとは。
(流石は世界一の大国であるアメリカだな。スケールが違う)
しかもなんならあちら、最初は100万円ではなく100万ドルのつもりで交渉に臨んでいたというのだからもはや笑えない。
「思った以上に格安な値段を提示していただけてこちらとしては助かりましたよ。値段はともかく、そちらの要求通り足のつかない現金で用意するとなると時間が掛かってしまうところだったので」
「ま、まあこれから長い付き合いになると思いますから。今回は初回だから特別サービスということで」
咄嗟にそうやって誤魔化したあの時の自分を褒めてやりたい。
てか相手の発言からして仮に億を超える値段でも支払うこと自体は問題ではないということだった。
ただの一市民、しかも社会人ですらないただの大学生からしたらあまりに桁が違い過ぎて理解不能なレベルである。
(まあいいや。何にせよ十分な金は手に入ったんだからな)
家に帰って持ち帰った一千万円の現金を見ながらそう思う。
つい最近まで明日の食事代にも割と困っていたのが冗談のようではないか。
「これなら億万長者も夢じゃないな」
「まあ余裕で可能ではあるだろうね。でもアルバートではなく君がこの金をそのまま使うとなると、少々問題があるのは分かっているね?」
確かにこれまで金のなかった学生が急に羽振りが良くなったら周りは何かあったのかと訝しむことだろう。
それにそもそもこれだけの収入を得たら税金とかどうなるのだろうか。
(魔王アルバートがまさかの脱税の罪で捕まるとか逆に面白いかもしれないけどさ)
まあそれを言うなら現住所どころか戸籍も謎に包まれているアルバートにどうやって税金を請求するのかって話になるのだが。
それにモーフィアスに確認してもらったが、用意してもらったのはこの金は本当に足のつかない裏金とのことだし。
「そんな無茶な要望にも応えてくれるなんて、流石は大国であるアメリカってところだな」
「安心していいよ。もし今後の取引相手が何か仕込んでいたとしても、君の専属となった私が対応してみせるからね」
そう、実は上級ダンジョンを攻略したこと。
そしてそれに伴って世界中でダンジョン配信がより一層活発になった功績などを鑑みて、なんと運営はモーフィアスを俺の専属マネージャーとして派遣することを決定してくれたとのこと。
だから今後はそういう搦め手を仕掛けてくる相手の対処や、配信のため必要な準備をモーフィアスが今まで以上に積極的に行なってくれるらしい。
なお、モーフィアスとしても専属マネージャーになったのは願ったり叶ったりとのこと。
「他の同僚が軒並み失敗している中で君だけがこうして圧倒的な活躍することにより、それをスカウトした私だけが明確な結果を残している形だからね。上からの評価も鰻上りだし、かなりの特別報酬も得られているのさ」
だからこそモーフィアスは今後、専属となって全力で俺をサポートすることを決めたとのこと。
そうすることが自分にとっても有益だからと。
これはある意味ではモーフィアスに利用されているような状況だが、俺だって自分の目的のためにダンジョン配信などを利用しているのだからお互い様という奴だ。
なによりモーフィアスの協力があれば、面倒事をこいつに押し付けて俺はダンジョン配信に専念できるのが最高だった。
それがなければ正体を隠して取引するのも一苦労しそうだし。
「まあでもこれで活動資金に困ることがなくなったのは助かるな」
それは食事代とかの話だけではない。
これまでの俺が近場のダンジョンにしか行けなかったのは時間も金もなかったのが最大の原因だった。
だが母の件が無事に解決したことで時間については制限がほぼなくなったと見ていいだろう。
となると問題は金のみ。
なにせこちとら一介の大学生なのだ。
実家が金持ちでもないので日本国内ならともかく、何度も海外へ渡航するための費用をそう簡単に捻出できる訳がないのである。
だが今回の取引でそのための十分な活動資金も得られたので、海外への渡航費用も余裕で用意できるというもの。
そして更に一度でも訪れたことのあるモノリスなら上級ダンジョンの攻略による特典で自室にあるモノリスからでも行けるようになるのだった。
つまり今後は海外への遠征も視野に入れて動けるようになったのである。
活動できる場所が広がったという点は今後の事を考えれば非常に大きな意味を持つことだろう。
「とは言え海外のダンジョンに挑戦するのはしばらく先になるだろうけどな。日本国内でも闘技場とかを利用すればまだまだ色んな配信が出来るだろうし」
そう、闘技場では単にアンチ共と呼び寄せて罰を与えるだけではない。
配信者同士が戦う以外でも色々と行おうとしていることがあるのだった。
「そうそう、その事だけど面白い人物からアルバート宛てにメッセージが届いているよ。それこそ君がやろうとしていることにある意味でうってつけの人物からね」
そうやってモーフィアスからそのメッセージを見せられたのは良かったのだが、一つ大きな問題に直面してしまった。
「えーと、すまん」
「あれ? 悪くないと思ったけど、お気に召さなかったかい?」
「いや、そうじゃなくてだな……そもそも内容が分からん」
モーフィアス曰くかなりの熱意の籠ったメッセージだそうだが、生憎と英語で書かれていてほとんど内容が分からない俺だった。
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