第77話 アルバートの雑談配信 その3
上級ダンジョン攻略から数日後、アルバートとなった俺は試練の塔の一階層で雑談配信を行なっていた。
ここなら魔物を倒してしまえばタイムアタックの時と同じように他の配信者もいない上に、時間制限もないので雑談するのに意外と向いているのだ
(モーフィアスの話では近日中にロッカールームで雑談配信できるようにするそうだし、それまでは我慢しよう)
なお、これは前に言っていた感想配信も兼ねている。
耐久配信は流石に疲れた?
「それは疲れましたよ。なにせ戻ってから爆睡しましたからね」
本当に? 余裕だったとか言われてるけど。
「いやいや、最後の戦いもかなりのダメージを負いましたよ」
試練の塔で一番手強かった魔物は?
「それはボスである七色の騎士ですね。次点で幽玄のデュラハンなので割と順当な感じです」
特級ダンジョンには挑戦しないの?
「今の私では攻略するのは無理なのでやりません。挑むにしても実力が伴わないと返り討ちに遭うだけですから」
なんで挑む前からそんなことが分かるの?
「最初の方の配信で私が何度も死んでいるダンジョンがあると思うのですが、実はあれが特級ダンジョンの一つなんです。その時の経験からまだ挑むのは早いと理解している感じですね」
そのダンジョンはどこにあるの? それと何て名前のダンジョン?
「名前は呪怨ダンジョンというらしいです。試練の塔と同じで未発見のダンジョンなので場所は教えません」
どうして幾つもの未発見ダンジョンの場所を知っているのか?
「それも秘密です。ただ勿論の事、不正はしてないですよ」
自分だけでそういうダンジョンを独占するのはズルいと思わないのか?
「別に私が意図的に隠している訳ではないですからね? 文句があるなら分かりづらい場所にモノリスを設置した運営に言ってください」
スキルやステータスを公開してすることはできない? ちょっとでいいから。
「少し前なら多少は公開しても良いかなと思っていたのですが、今は事情が変わってやれなくなりました」
その事情って?
「それはこの配信の最後で分かると思います。なので申し訳ないですがそれまで待っていてください」
上級ダンジョンを攻略するとアイテムを現実世界に持ち帰るようになるって本当?
「本当ですね」
もしかして実際にやってみたりした?
「ええ、回復アイテムを幾つか。今後はそれらを販売することも考えてますが、その辺りは運営と相談中です」
アイテムの販売に運営が口を出すの?
「口を出すかどうかは分かりませんが、今のところ私が何か言われたことはないです。ただ神サイト上で販売を行なえるのが私にとってはそれが一番楽なので、ダメ元でそうできないかお願いはしています。まあ個別での販売の許可も貰ってますけどね」
運営はお願いを聞いてくれるの?
「運営はダンジョン配信のためなら意外と配信者や視聴者の意見も割と聞き入れてくれるみたいですよ? ほら、今では当たり前のロッカールームが設置されたのも誰かからの要望とかって聞いてますし」
そうやって運営に要望を通せるのなんてやっぱり何か不正をしているのでは?
「そう思うなら運営に通報してみてください」
時折アンチらしき奴が敵意を込めた質問をしてくるのも関係なく拾っていく。
本来なら拾い切れない質問が大量に押し寄せきているのだから、わざわざそんな悪意のある質問を取り上げる必要などない。
だけど今回の俺はあえてそういう質問も拾い上げていた。
最後に予定している告知でより大きな反響を齎すために。
どうやったらそんなに強くなれるの?
「簡単に言えば、死に物狂いで努力したから、です。少なくとも何もせずここまでの力を手に入れた訳ではないですよ」
その努力の具体的な内容は?
「それはですね……って、ここで言ったら他の配信者に真似されるかもしれないじゃないですか。嫌ですよ、そんなの」
そこを何とか!
「いやー流石にそれを無償で公開するのはできないですよ。他の配信者は商売敵みたいなところもありますから」
秘密を暴かれた程度で抜かれるの?
「いえ、そう簡単に抜かれるとは思いません。傲慢に聞こえるかもしれませんが、今の私の強さは相当なものですから」
なら別に公開していいじゃん。本当はビビってんだろ? 雑魚が!
(お、釣れたか?)
アンチの中にはどうにかして俺の強さの秘密を暴きたい奴らがいる。
そしてその多くは自分もダンジョン配信者として活動していると思われる。
なにせ俺からその秘密を聞き出せれば自分も今のアルバートのようになれるかもしれないのだ。
今やダンジョンインフルエンサーの一人と称されるまでになったアルバートと同じように。
それ以外でもここでアルバートに喧嘩を売ることで、どうにかして知名度を稼ごうとしている奴もいるものだ。
何故そんなことが分かるのかって?
そんなのは今のビビってる云々の発言をした奴のユーザネームを見れば一目瞭然だ。
(「本当の最強のダンジョン配信者! ヒロヒコチャンネル!」って名前を隠すことなくコメントしてる時点で売名する気満々じゃねえか、この野郎)
悪名は無名に勝るという奴だろう。
他のまともな視聴者から散々叩かれているが、こんな行為をしてくる奴らがその程度の事でへこたれる訳もない。
だからこそこれまでの俺はそういう類いのコメントには決して触れてこなかったのだ。
それなのに今はこうして触れている。
その意味を分かっていない奴らは俺の思惑通りに罵詈雑言のコメントを残していく。
こんな奴より俺の方が強い!
卑怯者!
魔物だけにしか粋がれねえくせにな
コイツは魔物に強いだけ、実際に戦ったら俺が勝つって
すぐに化けの皮をやるから待ってろよ
ダンジョンの外では雑魚なくせに偉ぶんな!
調子に乗って外で襲われても知らないよ?
大半がまともなコメントでも、配信する以上は悪意のある奴が現れてしまう。
そして得てしてそういうものの方がどうしても目立ってしまうのだった。
もっともメンタル面では無敵に至るまで鍛え抜かれた俺からすれば、この程度の悪意など屁でもないが。
悔しかったら掛かってこいよ!
(はい、その言葉を待ってましたっと)
そして当然ながら罠にかかったボケカス共を許す気も俺にはなかった。
「分かりました。そこまで言われるのならその希望にお応えしましょう」
この言葉には他のまともな視聴者も混乱して様子を見せている。
基本的にダンジョン配信者同士で争うのは禁止されているからだ。
だからこうして喧嘩を売られても無視するしかない。
それが分かっているからこそ、こいつらは俺に堂々と喧嘩を売ってきているのである。
だけど残念。
そうやって安全圏から人を好き勝手挑発できるのは今日で終わりを迎えるのだ。
正確には俺が終わらせてやる。
「実は試練の塔の攻略に伴い、私は闘技場という新たな機能が解放できるようになっているんです。その闘技場は簡単に言えば、ダンジョン配信者同士で戦って強さを競うものですね」
この辺りで段々とコメントが理解し始めたようだ。
俺が何をしようとしているのかを。
「タイムアタックのように新しいイベントが追加されるんですからね。ここは一つ、大々的にそれをやっていきましょう。これまで私に向かって挑発的なコメントを残していただけた方を招待するような形でね」
その途端にそれまで散々こちらを挑発してきたコメントがパッタリと止む。
だが残念、魔王からは逃げられないのだ。
「ああ、安心してください。そういう方々の名前は既に控えてあるし、しばらくの間は挑戦された側に拒否はできないようになっているそうなので。ですから順番に、一人一人をじっくりと相手させてもらいますから」
その公開処刑の始まりを告げる言葉にまたしてもアルバートの配信は大盛り上がりを見せるのだった。
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