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第74話 暴かれた正体と思わぬ要求

 お前は何者なのか。


 そんな質問をされた時、普通の人なら相手が何を言っているのだろうと思うことだろう。


 だって意味不明だ。

 通常ならそいつはそいつでしかないのだから。


 俺で言えば伊佐木 天架は伊佐木 天架でしかないというように。


 だから普通ならなんてことのないその質問なのだが、アルバートというダンジョン配信を行なうための仮初の姿を持つ俺にとってはどうしようもなく致命的だった。


(どうにか誤魔化せないか?)


 そう思ったが熱心なアルバートのファンだったらサクラはなんと俺が懸念していたエリクサーが上級ダンジョン攻略後に一つ売れている点までしっかり把握していた。


 それで俺の母の病気を治したのではないかということまで推測している始末。


 更にはここ数ヶ月のアルバートが配信している時間に俺のアリバイが存在する時間がなにかも分かる範囲で調べたとのこと。


 そして同一人物が二つの場所に同時に存在できない以上、そのアリバイはないに決まっていた。


(マジかよ、そこまでするかよ)


 この熱心なファンの特定力に内心で舌を巻くしかない。


 もはやストーカーではないかと思うレベルでの調査力ではないか。


 だがそこまで把握されているのなら下手に誤魔化すのは不可能。


 そう判断した俺は頭の中でモーフィアスに語りかける。


(こういう時、運営が何かしてくれるとかはないんだよな?)

「残念ながらアルバートが実は誰であるかを知ること自体は何の不正をしている訳でもないからね。それは運営でも止められない。ただしそれを周りに吹聴することで当人、つまり今回は君のダンジョン配信を明確に妨害する事態になると判断されれば話は別だ。その程度に応じて彼女には相応のペナルティが下されることになるだろう」


 となると正体がバレている以上はその点は認めて、その上でどうにかして口止めする方向しかないか。


 余計なことを周りに言えば運営から重い罰が下されるとか言って。


(と言うかそもそもサクラの目的は何なんだ?)


 わざわざ二人きりになれる場所に俺を呼び出しているところから、サクラもこの話を他人に聞かせるつもりはないように思える。


 だとすると彼女にはそうしないで成し遂げたい何らかの目的がありそうだ。


 その目的によっては、あるいは協力や懐柔することも可能かもしれない。


 そうでなくとも俺がスキルなどを現実世界で使えるようになるまでの時間稼ぎが出来ればいい。


 ある程度のスキルを現実世界に持ち帰れるようになっていれば、問題が起きても対処できることは多いはずだから。


「……仮に俺がサクラの思い描く人物と関係があったとして、そっちは何をこちらに求めるつもりなんだ?」


 そう思って俺はその質問を口にする。


 これがほとんど自分がアルバートであることを認めるような発言をしているのも分かった上で。


「否定はしないのね」

「否定も何も、そこまで把握されてるのならしても無駄だろ。それとも全てそっちの勘違いだと言えば納得するのか?」


 彼女はここまで調べ上げて今のところは他の誰もが辿り着いていない俺がアルバートという真実に辿り着いてみせた。


 しかもそれだけでなくこうして張本人であるこちらを追及までしてくるのだ。


 そこまでしているのだから納得できる答えが得られるまで止まらないだろうことは容易に予想できるというもの。


「つまり本当にあなたが、あのアルバート様なのね?」


 改めてアルバートという名前を出したその質問に俺は頷いた。


「ああ、そうだ。俺が幻影の男(ミラージュマン)とか魔王なんて異名で呼ばれるようになった、かのアルバートだよ」

「本当に、本当にそうなのね……!」

「言葉だけで信用できないのならこの後にでも証拠を見せようか?」


 最近のSNSなどで大量発生していると噂のアルバートを騙った偽アカウントなどとは違うのだ。


 本人なのだから証拠を提示することなど実に容易い。


 なにせアルバートに変身する様を見せればいいのだから。


 ダンジョン前のロビーならダンジョンカメラにも映らないし、家にある呪怨ダンジョンなどなら他の誰もいない。


 だから目の前の人物以外に見られることもなく実行できる訳だ。


「もしそちらが望むなら、俺がどうやってアルバートとしての力を手に入れたのかの経緯についても話してもいい。なんなら今後のダンジョン配信でも出来る限りの協力もしよう。だからこの事はどうか他言無用で頼みたい」

「えっと、他の人に話すつもりは元々なかったからそれは構わないけど……」


 まずはダメで元々。これで渋るようなら運営からの脅しも使おうか。


 そう思ってそんな頼みを口にしたのだが、意外な事にサクラはあっさりと了承してくれる。


 だがここで俺は安堵などしない。


 ここまで調べたのなら相当な労力を割いてきたはず。だとすればきっとこの後に何らかの要求が突きつけられるだろうから。


「……その代わりと言ってはなんだけど、お願いしたいことがあるの」

(ほらみろ)


 やっぱりだ。

 金か、それとも持ち帰れるようになったアイテムなどを求めてくるのか。


 そう思ったけど俺は相手の機嫌を損ねないためにそんな思いは表に出さない上で返答する。


「俺に出来ることなら何でも言ってくれ」


 そんな内心の思いを隠した言葉に対してサクラが出した要求は、


「こ、この色紙にサ、サ、サイン貰ってもいいですか!? あと出来れば握手なんかもしてもらえたら嬉しいです!」

(あれー?)


 なんかこちらの思ってたのとはまるで違ったものだった。

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