第72話 これからの計画と方針
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いつの間にか母の眠るベッドの傍でしばらく居眠りをしていた俺だったが、目が覚めて元気に満ち溢れているその当人によって起こされることとなった。
そしてそこからが大変だった。
なにせ入院してから投薬治療などにより段々と衰弱していたはずの人物が急に血色も良くなるどころでは済まない変貌を遂げていたのだ。
それこそここ数ヶ月の入院生活のせいで十歳くらい老けたのが二十歳くらい若返ったかのような常識外れの変化である。
それくらい素人から見ても一目瞭然の変化に加えて、母自身もそれまで時が経つほどに怠くて重くなるばかりだった身体が目覚めたら急に動くようになっていたのだ。
本人曰く、まるで十代の頃のように軽く活力に満ち溢れているとのこと。
エリクサーは飲んでからしばらくの間も各種回復効果が持続するので、恐らくはそれによって減った体力がすぐに元通りになっているのだろう。
たぶんその状態なら俺がやったようにずっと起きて活動することも出来ると思われた。
このあまりに大きな変化に病院側も異常を悟ったのか、すぐに母は検査を受けることとなった。
そしてその結果は全く異常が見られず健康そのものという普通なら信じ難いものである。
確実に治らないとされていた癌はどこに消えてしまったのか。
更には病気と投薬によって機能不全を起こしかけてしていたはずの臓器などがまるで異常がないどころか、どんな検査をしても健康で問題など何もないような数字ばかりしか出ないのか。
母を担当していた医師などは驚きを通り越して若干恐怖していたらしい。
そんな病院側からしたらある意味で恐ろしい出来事でも俺達にとっては最高の奇跡でしかない。
念入りな検査の結果、命の危機など欠片もないことが確定した時の父や妹の狂喜乱舞っぷりは凄まじいものだったものである。
流石に即日退院とはいかなかったが様子を見て問題ないようなら近日中に家に戻れるだろうという結論に至り、そこで改めて家族で全快祝いをすることとなった次第だった。
「……ふう、疲れた」
そんな喜びの中、俺は久しぶりにモノリスが存在する一人暮らしをしている家に戻ってきていた。
何故実家ではなくこちらに帰宅したのか。
それは家の放置していたモノリスに問題が起きていないのか心配だったのと、なにより実家に帰ると色々と訝しんでいる父に何か知っているかと聞かれそうだったからである。
妹の方は奇跡が起きたのなら何でもいいといった感じなので大丈夫だとは思う。
もっともだからこそ俺がその奇跡に関係しているとは欠片も思っていないのか、これまでの俺の行動についてはまだ文句がある様子だったが。
(なんにせよ俺が何かした確固たる証拠なんてないんだし、しばらくは誤魔化しておこう)
いずれは話さなければならない日も来るだろうが今はその時ではない。
だって今の俺は秘密を表沙汰にした際に対応できる力がないのだから。
そう、今はまだ。
(次の月頭の報酬でステータスを現実でも発揮できるようにして、可能なら所有スキルの幾つかも制限解除しておきたいな)
そうやってモーフィアスが懸念していたこちらを妨害してくるような勢力に対抗する力を手に入れた時、俺が実は何をしていたのかを話すとしよう。
でないと俺を最低の兄と蔑んでいる妹との関係改善もままならないだろうし。
(誰の頑張りのおかげでこの奇跡が起きたのかを知ったらあいつはどんな顔するかね?)
ここ最近、妹には最低の兄とか割とボロクソに扱き下ろされているので、そこで見返してやるとしようではないか。
急降下した株を持ち直させるためにも。
「その様子だと今後もダンジョン配信者としての活動を続ける感じかい?」
「ここに来るまで滅茶苦茶苦労したんだし、ここでその力を捨てるのはあまりにも惜しいからな。それに仮にここでダンジョン配信から足を洗っても、いずれ俺のことは嗅ぎつけられそうな気がするし」
最初の頃に特級スキルを買った際にSOLD OUTと表示になったことからも分かる通り、貴重なアイテムならショップで誰かが購入したことだけなら他の奴も分かってしまうのだ。
(売り切れた商品は月初めに補充されるとは言え、それまでにエリクサーを誰かが購入したことはいずれ発覚するに決まってる)
あるいはそれはもう既に知られているかもしれない。
エリクサーは月に100本しか売られていないので、俺が買ったことにより在庫が99本に変化している。
その変化が誰にも気付かれないとは思えなかった。そしてエリクサーなんて超高額商品を購入できるのはアルバートくらいのもの。
それを知っている奴がもし、近い時期に末期の癌という不治の病に侵されたとある人物が奇跡的な回復をしてみせたと知ったらどうなるか。
もしかしたらアルバートが現実世界にエリクサーを持ち帰って使用したという推測に至る何者かがいるかもしれない。
勿論それが単なる杞憂で終われば良いのだが、それに期待して何も手を打たないのは楽観的過ぎるというものだろう。
だから仮にそういう些細な痕跡からこちらの正体を辿られたとして問題ないようにしておく。そうすればいざという時に困らないで済むだろうし。
(てか今更だけど先にエリクサーを幾つか買っておけば良かったかもな。それなら上級ダンジョンで使用したと誤解してくれる可能性も高まっただろうし)
疲労回復にはレッサーエリクサーで十分だったこと。
そしてなるべくポイントを節約する必要もあったのでレッサーエリクサーより高いエリクサーは買っていなかったのだった。
またモーフィアスから制限解除の具体的なやり方を教えてもらえなかったのもその原因の一つである。
てっきり上級ダンジョンを攻略して資格とやらを手に入れてから現実世界に持ち帰れるアイテムを買わないといけないと思っていたのだ。
だからわざわざ前もってエリクサーを買おうとは考えなかったのである。
だからこそ俺は上級ダンジョンを攻略してくれからモーフィアスに制限解除の仕方を改めて聞いたのだし。
ちなみにモーフィアスがそれを俺に教えなかったのは意地悪とか悪意があってのことではない。
どうも運営の方針としてモンスターカードなどと同じで資格を得た人物にしか制限解除などの詳細を教えられない決まりがあるらしいのだ。
(この分だとそういう隠し要素は資格を得ないと知れないものが多そうだな)
実に面倒臭い方針だが、運営がそう決めたのなら従うしかない。
一応、改善案という名目で文句を上に提出させるつもりだが、それで変わるとも思えないので諦めるしかないだろう。
「それが賢明だと思うよ。一度構築したルールやシステムに手を加えるのは手間が掛かるから、滅多なことでは上はそれはやらないだろうし」
「人の思考を勝手に読むなよ。まあでも、それならそれで構わないさ。それに見合った恩恵は貰えてるからな」
とにかくアルバートの正体が俺だと誰かに気付かれるまでが勝負だ。
それまでにどこまで力を蓄えられるか。それによって今後の行く末が左右されるに違いない。
(流石にすぐにはバレないだろうし焦ることなく準備を進めよう)
そう思った俺だったのだが、その考えに反して数日後にとある人物から疑惑を掛けられることとなるのだった。
そう、俺がかの超新星アルバートではないかという。
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