第68話 求め続けた勝利
これまでの経験からも上級ダンジョンのボス戦がそう簡単にいかないことは明らかだった。
きっと苦戦は避けられないだろうし、仮に勝てるとしても長い戦いになるだろうことも。
だから俺は通常使いできる特級スキルとして『呪詛の腕』を、そして長期戦になった際に役立つであろう『鬼哭啾々』を用意しておいたのである。
その『鬼哭啾々』だが、発動条件やその効果はそこまで難しいものではない。
基本的にはその戦闘で受けたダメージを蓄積していって、それが一定以上になると発動可能になるというものなので。
そしてその効果も、それまで蓄積したダメージを倍増した上で任意の闇系統の攻撃にして敵に返すというものだ。
だから今回は『呪怨超ボーナス』の強化も上乗せするために呪属性にして返している。
なお、このスキルは隠し特性として闇系統の攻撃だとより一層蓄積するダメージが増えるというものがある。
だから俺は七色の騎士との長期戦が決まった時点から自分に呪属性の攻撃が当たるのも承知で攻撃していたのだ。
別に敵からの攻撃でなければならないなんて条件がないので、自分で自分に攻撃しても良いのである。
そうして何度もダメージを受けては蓄積するのと、回復するのを繰り返した結果、非常識なほどの威力となったのが目の前の光景だった。
なにせ翳した掌から溢れ出た黒い光は目の前の七色の騎士どころか闘技場の全てを呑み込んでみせたからだ。
宙に浮く無敵のダンジョンカメラはダメージこそ受けていないようだが、その光によってまともに映像が取ることもままならないだろう。
それの黒い奔流が数秒ほど続いて、ようやく黒い光が晴れた時は七色の騎士は消滅していた。
これは姿が見えなくなったのではない。
完全に俺の攻撃によって欠片も残さずに消滅させられたのである。
(この戦闘が始まってから受けたダメージを全て返した訳だからな。そりゃ耐え切れないだろうよ)
最後に互いの最強の攻撃をぶつけ合うような雰囲気を出しておいて、実際はその後に止めの一撃を用意していたのはある意味で卑怯なのかもしれない。
だけどそんなことは知ったことか。
今の俺にとっては勝つことが全てなのだから。
(それにちゃんとこっちの最強の一撃で倒したのだから、別に嘘は言ってないしな)
そんな誰に聞かせるでもない言い訳を内心で呟いていたら、どこからともなくファンファーレが鳴り響き渡る。勝利した俺を祝福して讃えるかのように。
そして出現したモノリスの書かれていた文章を読んで、改めて実感を得る。
(やった……俺は遂にやり遂げたんだ)
そこには上級ダンジョンのボスに勝利した俺への祝福の言葉が並んでいたのだった。
【おめでとうございます! 上級ダンジョン攻略を成し遂げたことにより、あなたは一部の制限を解除できるようになりました! また人類初の達成なので特別な報酬もご用意しております!】
その詳細は長くなるらしくモノリスで調べればいつでも見られるらしい。だから俺はその内容よりも先に今の自分の保有DPを調べる。
これでアイテムを現実世界に持ち帰る資格が手に入ることはモーフィアスから聞いて分かっているのだ。
だから残るはエリクサーを現実世界で使うために必要な2億DPのみ。
ここで特典などを合わせてもそこに届かないのなら、急いで回復薬を使わない周回などで足りないDPを稼ぐ必要がある。
だが幸いなことにそれは要らないようだ。
(……2億3千万DP)
ボスの討伐特典などを含めて1億3000万DPほどが手に入ったのがモノリスの画面で確認できる。
つまりこれで母を救うための全ての条件は満たした訳だ。
その事実にこれまで溜め込んできた感情が爆発しそうになるが、何とか抑えて平静さを表面上は維持するように努めた。
だってまだ配信中だから。
ここで余計なことを言ってアルバートという規格外な男にそぐわない行動をしてはいけないのである。
「……さて、見ての通りではありますが上級ダンジョンの攻略に成功しました。これにより今回の耐久配信も終了となりますね。視聴者の皆さんには長い間、お付き合いさせてしまって申し訳ないです」
暴走しそうになる感情を抑えるために必死で当たり障りのない言葉しか出てこない。
「ああ、それと今後の配信予定は未定です。一応そう遠くない内に今回の感想などを配信で話せたらとは思ってはいますので、その次の配信をお待ちください」
それだけ告げると俺は配信を終えるべく、試練の塔から足早に出ていく。
何度も何度もギブアップした時と同じように。だけど今回は全てを成し遂げた上で。
そうして誰もいないロビーに戻ってきて配信が終わっていることを確認した俺は大きく息を吸い込むと、
「しゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
空気が震えるほどの歓喜の咆哮を上げるのだった。
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