第67話 耐久の終わり
虚無属性というのは無属性の上位属性のようだ。
その大まかな効果は全ての属性の弱点となる代わりに、全ての攻撃が弱点となるといったところだろう。
要するに与えるダメージも与えられるダメージも大幅に増加する攻撃に特化した属性ということである。
それを長い戦いの中で理解した俺は何も問題はないと判断した。だってそれならこちらの攻撃も敵に通じやすくなるということだし。
「ほら、どうした? こっちはまだまだ余裕だぞ!」
「バカな! 一体どれだけの回復手段を持ち合わせているというのだ!」
(生憎とこのペースならアイテム的にはあと丸二日は余裕だよ)
動揺した様子の敵にわざわざ答えを教えてやる義理はないのでその質問は無視して耐久を続ける。
受けるダメージが大きくなってもステータス的に一撃で死ぬことはない。
それならその痛みに耐えられるのなら回復アイテムが尽きるまで永遠と回復できる。
だからこちらとしては何も問題ないのだった。
攻撃を受ける度、何度も何度も非常に痛い思いをするという点以外は。
しかもどうやら相手には回復手段はないようで、時間が経てば経つほどにダメージが蓄積していくのである。
姿が見えない敵への対処も時間が経過するごとに慣れていくし、徐々にだが確実に形勢はこちらに傾いていた。
『呪いの魔眼』
『呪詛の腕』
呪属性による攻撃で広範囲に呪いを放出する。それこそかつての中級ボスのクイーンキャタピラーが毒を撒き散らした時の如く。
かつての敵の行動を真似するようにして、たっぷりとMPを消費して放たれた『呪いの魔眼』などによる攻撃は広くない闘技場のありとあらゆる場所に、触れたら誰かを呪う置き土産を残しているのだった。
幾ら透明になってその姿を捉えられなくとも敵はこの場に存在している。
だからそうやって闘技場の中を呪いで埋め尽くせば、どうやっても攻撃は当たるという訳だ。
まあこうすると使用者本人である俺が触れても呪いによるダメージが発生してしまうのだが、仮に呪いによるダメージも受けても回復アイテムで回復できるので実質的には問題なしである。
(てか体力多過ぎだろ!)
敵も虚無属性で攻撃に特化しているからか基本的にはヒットアンドアウェイの戦法をとっており、直接的に攻撃を当てられていないのもあるだろう。
それにしたって何時間も撒き散らした呪いなどによって少なくないダメージを与えているというのに、未だに死なないとはしぶといにも程がある。
だがそれもいつまでも続くものではなかったらしく、限界が近づいてきていた七色の騎士は最後の賭けに出ることにしたようだ。
「……よかろう、挑戦者よ。ここに至っては我も覚悟を決めようではないか」
俺の正面方向にベコベコになった鎧姿で現れた七色の騎士は見えない俺の目には剣を構えているのが分かる。
何故ならその透明な剣に膨大な力が集まり始めており、発する圧力だけでそこに何かがあると理解できるからだ。
『限界突破』
『大剣の極意』
『最後の太刀』
スキルが発動する度にそこに集まる力が増していく。
スキルの名前的に次の一撃に全ての力を乗せるつもりということか。
「我が最強の一撃を耐えてみせよ」
「……悪いがお断りだな」
そう答えながら俺もスキルを発動する。
『呪詛の腕』
『属性強化・呪』
『千里眼』
使う数こそ少ないように見えるが、既に他の特級スキルでこれらは大幅に強化されているのだ。
しかも今回は『呪詛の腕』も最大チャージまで溜める。
「生憎と耐えるだけじゃないさ。俺も最強の一撃でこの勝負を勝ちにいかせてもらう」
「よかろう、ならば互いの最高の一撃で雌雄を決しようではないか」
互いに限界まで力を溜め込んでいく。
そしてこれまでの削り合いに比べればあまりに短い時間が経過した後、
『幽玄の剣』
『虚無の剣・絶』
この場で放てる互いの最強の攻撃が放たれた。
先程と同じように二つの剣は交錯することとなったが、その結果は全く異なっていた。
何故なら俺の方の剣は敵の虚無の剣に触れてしばらく拮抗した後、その威力に耐えきれないように消滅してしまったからだ。
「!?」
特級スキルによって強化された特級スキル。
それも最大まで溜めた攻撃だというのに打ち負けてしまうのは予想外だった。
敵の攻撃の威力をかなり殺してはいるようだが、それも完全ではない。
このままでは死に至るかもしれない強力な攻撃が容赦なく俺の身体に叩き込まれることだろう。
そう確信した俺は、
『武装換装』
最後に壊れた武器を取り換えて、その身で敵の虚無の剣を受け止める。
その威力はすさまじく、攻撃を受けた左半身が消え去っていた。
『千里眼』を使用していても右の視界しか機能していないところから察するに、腕どころか顔の半分も同じような被害を受けているのだろう。
全身を走る痛みがとんでもない上に地面を濡らす血の量も凄まじいことになっている。
だけどそれが分かるということは意識が残されているということだった。
つまりまだ俺は死んでは――HPが零になっては――いない。
「が、ああああ!」
「バカな、貴様まだ……!?」
僅かでもHPが残っていれば回復できるのだ。
今にも途切れそうになる意識を総動員してなんとかこれまで何度も頼ってきたレッサーエリクサーを使用する。
その瞬間、あれほど死に瀕していた状態だったのが嘘だったかのように回復した。
(初めて疲労回復以外のまともな形でレッサーエリクサーを使ったな)
そのことに内心で笑いながら、復活した視界がまだ諦めていない敵を目にする。
全力を出し切ったせいかボロボロの状態でありながら七色の騎士はまだ俺に攻撃を仕掛けようとしていた。
その相手に対して俺は無言で、
『鬼哭啾々』
ここに至ってようやく発動条件を満たした最強の一撃を容赦なく叩き込んでみせた。
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