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第59話 視聴者の反応

とあるダンジョンインフルエンサーの反応


「まさか、嘘でしょ!?」


 日本行きの飛行機を待つ間、私は空港でアルバートいう突如として現れた超新星の配信を見て驚きを隠せないでいた。


 これまでの彼の活躍は語るまでもないだろう。


 まずタイムアタックでこれまでの最高記録を半分以上も縮めたこと。


 それが下級ダンジョンのものだったとしても、魔物を攻撃する必要もなく蹂躙するなど尋常のものではない。


 その上でダンジョンを疾走していく速度も明らかに他のダンジョンインフルエンサーですら相手にならないのではと思わされるものだった。


 そして彼の活躍はそれに留まらなかった。


 それどころかそれは始まりに過ぎなかったのだ。


 死神タイプというこれまで誰も見たことのない魔物の討伐に続いて、下級ダンジョン楽勝で攻略。


 ここまでなら攻略するということは他の人もやっていたこともあって、まだ常識の範囲内と言えたかもしれない。


 だけど次の人類初の中級ダンジョンの攻略で、彼はその超新星としての立場を確固たるものとした。


 私を含めて現在のダンジョンインフルエンサーと呼ばれるダンジョン配信者ですら成し遂げられなかった偉業を彼は易々を達成してみせたのだ。


 それも無傷でという、他のダンジョン配信者と自身の間には圧倒的な実力差があることを示すかのように。


 ここまででも驚きっ放しだというのに、彼は止まることを知らないばかりに上級ダンジョンへの挑戦を表明する。


 それも中級ダンジョンを攻略してすぐに。


 誰もが無謀ではないかと疑い、それでも彼ならもしかしたらと思った結果は見ての通りだ。


 初めて傷を負い、何度も何度も同じ階層を繰り返し始めた際は流石に無理だったかと私も思った。


 一気に百階層を駆け抜けるならともかく、そのペースでは疲労が溜まって限界が来るのが先だと思ったからだ。


 そうじゃなくても魔物と戦い続ける苦行に心が折れる方が先だろう、と。


 だがまだまだ私を含めた視聴者の認識は甘かったらしい。


 だってアルバートという男はそうなることなど織り込み済みだったことを証明するように、たった一本で100万DPもするレッサーエリクサーをあっさりと使ってみせたのだから。


(いったいどれだけのDPを稼いでいるのよ……?)


 どうしようもない肉体の疲労などを回復させるためと本人は言っているが、そのために100万DPも掛ける意味が分からない。


 だって疲れたなら休めばいいではないか。


 一旦配信を止めて休むだけで100万DPもするアイテムを使わないで済むのなら普通は誰だってそうするだろう。


 だけど彼はそんな普通の思考を嘲笑うかのようにクリアまで耐久配信をすると強調して、実際にそれを実行しようとしている。


 そして戦えば戦いほどその動きは速くなり、また洗練されていっていた。


 その時に少しだけ違和感は覚えていたのだが、単純に繰り返すことで上級の魔物との戦いに慣れていったのだろうと見過ごしてしまった。


 だってこれだけの力を持っている上に、以前にステータスが50以上だと本人が語っていたこともあってレベルも私達よりずっと高いのだと思い込んでいたのだ。


 だからそれだけ高いレベルなら上級の魔物から得られる経験値で劇的にレベルアップするとも思えなかったのである。


 だけどそれは大きな間違いだったのだ。


 何故ならアルバートという男は、信じがたいことに五十階層でようやくレベルが30に到達したようだから。


(動きが良くなっていたのは慣れただけじゃない。低かったレベルが異様な速度で上がっていたからなんだわ!)


 何故それが私に分かったのか。それは五十階層で彼がモノリスを長々と弄り始めたからだ。


 その時の様子は、他のレベル30に到達したダンジョンインフルエンサーと非常によく似ているのである。


 ステータス強化にスキル強化、そしてモンスターカードというこれからの活動に役に立つだろう新要素について確認しないダンジョン配信者などいる訳がない。


 だから配信途中でもああして解放された新要素を色々とチェックしてしまう気持ちは痛いほど理解できる。


 それを見た視聴者が訝しんでもレベル30になっていない人には伝えられないルールとなっているので誤魔化すしかないのだ。


 たった今、画面の中の彼がそうしているように。


 もしこの予想が当たっているのなら、ここから彼の強さはまた一段と異常なものとなるはず。


 だって100万DPするレッサーエリクサーだって彼は気軽に使えるのだ。


 それだけのDPがあれば死んだ際にDPを失うことなど恐れずに、全てのステータスをマックスまで強化できるだろう。


 それにモンスターカードの恩恵だってここからは加わる。


「さあ、どうなるの……?」


 そんな予想と期待を背負わされているなんて知らない彼は、そのまま次の五十一階層に進んで、


「やっぱり間違いないわ!」


 やはり圧勝してみせたのだ。


 それも傷一つ負うことないどころか一撃で敵を仕留めるという、これまでの苦戦はなんだったのかと思われるような圧倒っぷりで。


 数々の魔物と戦ったことのある私には分かる。視聴者の多くは五十階層を守る中ボスの方が強かったのだろうと勘違いしているが、決してそうでないことを。


 五十一階層に出てきた魔物が、先ほどの通常より大きなサイクロプスと同等かそれ以上の力を秘めていたことを。


 それなのにアルバートはサイクロプス戦では互角の戦いを演じたことなど嘘だったかのように圧勝した。


 まるでかつての下級や中級ダンジョンの魔物を蹂躙した時の如く。


 そしてここからそれは続くだろうことも容易に予想が付いた。


 だって今の彼は少し前よりも全ステータスが50も高くなっているはずだから。


「最っ高! 天才よ、彼は!」

「おい……あれってもしかしてだけどクリスティーヌじゃないか?」

「はあ、嘘だろ? なんでクリスティーヌがこんなところにいるんだよ」


 そこで気付いた。いつの間にか単なる視聴者として感動と共に大きな声を出していたことに。


 そしてそれによって自身が周囲から注目を浴びていたことも。


(あ、やったわね、私)


 私だってアルバートという超新星が現れるまでは世界で最強のダンジョン配信者の一人として数えられていた身だ。


 そして彼に強さの面では敵わなくとも、それまでの配信活動で多くのファンを抱えるダンジョンインフルエンサーでもある。


(ここで騒ぎになって飛行機の出発が遅れるようなことになるのは絶対に御免だわ!)


 そう考えた私はそこから離れて、何とか周りに溶け込むように努める。その結果、怪しんだ人もそっくりさんとでも思ってくれたのか、騒ぎにならずに済んだ。


 もっともそんな努力の甲斐なく後日、パパラッチにバッチリ写真を撮られていたことが発覚するのだった。

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