第56話 万夫不倒の精神
これで半分。
一週間と経たずに五十階層の魔物を倒したことでここまで通じるセーブポイントも開通したことだし、かなり順調と言ってもいいだろう。
(お、レベルも遂に30まで上がってるじゃないか)
出現したモノリスで自身のステータスを確認してみると、なんとレベルが二つも上がっていた。
あの普通ではないサイクロプスはかなりの強敵だったこともあって経験値もかなり美味しい相手だったらしい。
氏名 伊佐木 天架
レベル 30
HP 137
MP 134
STR 136
VIT 135
INT 139
AGI 135
DEX 133
LUC 139
保有スキル
特級スキル 『呪怨超ボーナス』『ボーナス超強化』『千変万化』
上級スキル 『魔眼移植』『呪いの魔眼』『発火の魔眼』『氷結の魔眼』『千里眼』『武装換装』
中級スキル 『鋼の心』『生命感知』『鷹の目』『属性強化・呪』
下級スキル 『斬撃』『軽身』
今のところ上級スキルでどうにかなっていることもあって新たな特級スキルを習得はしていない。
ただでさえレッサーエリクサーでDPを消費するのだ。それ以外で抑えられるところがあるなら抑えるに越したことはない。
それに特殊な方法で力を手に入れたこともあって、俺はどうも戦闘経験が浅くて詰めが甘い点が随所にあるようなのだ。
これまでは圧倒的なステータスとスキルでどうにかなってしまったからこそ気付けなかったのである。
だけど上級ダンジョンに出現するような魔物と戦って、力などで上回ってもダメージを受ける度にその自身の弱さを思い知らされた。
(仮に同じスキルとステータスだったら負けてたのは俺の方だったはずのケースが多過ぎたもんな)
だからこそ無闇矢鱈と新しいスキルを手に入れて手札を増やすのではなく、なるべく今ある手札を使い慣れて洗練させる方向で努力しているのだった。
幾ら強力なスキルを手に入れても、それを活かせなければ宝の持ち腐れだとモーフィアスには散々注意されていることもそうしている理由である。
(でも流石にそろそろ何かしら必要そうだな)
今のサイクロプスとの戦いでも俺の最強の攻撃手段である『呪いの魔眼』が一時とは言え、敵のスキル攻撃と拮抗していた。
あれを見る限りでは、そろそろ敵がこちらよりも攻撃力の高いスキルを揃えてくるのも時間の問題のようにも思える。
最初の内は割と簡単にレベルも上昇していたのだが、その間隔も段々と長くなってきているのだ。
それを考えればステータスによるゴリ押しも徐々に難しくなっていくことだろう。
実際、今の戦いも特級スキルによる強化がなされた『呪いの魔眼』がなければかなり厳しいものとなっていただろうし。
(それにしても最初は盛り上がっていたコメント欄が、時間が経つにつれて引き気味になってってるな)
最初は人類初の上級ダンジョン挑戦ということもあり、またアルバートが初めて手傷を負ったこともあってか、視聴者のコメントの多くはアンチも含めてかなりの熱が入っていたものだ。
そしてその流れは攻略から一日目くらいまでは特に変わることはなかった。
だが二日目を過ぎた辺りから段々と別の種類のコメントが増え始めたのだ。
休むことなく只管に魔物と戦い続けるアルバートの異常さを恐れるようなものが。
そうした畏怖や恐れを思わせるコメントは時間を追うごとにどんどんと増えていっており、また他のダンジョン配信者などもその異常性を解説するようなことをしたらしく、いつの間にか俺は一部からは化物扱いされるまでになっていた。
まあ中には俺のことを神とかその使いだと言って、信仰の対象にするべきとか訳の分からないことを言い出す奴もいたが、それに関してはよく分からない上に下手に反応すると不味い気がしたので全スルーしてある。
どうしてアルバートだけがこんな無茶なことができるのか?
そして拷問のようなことを自らしていながら辛そうな様子も見せずに平常心を保っていられるのか?
そんな類いの何度も投げかけられた質問の答えは実は単純なものだ。
それは家族の助けることを思えばことをどんな辛いことでも耐えられる……なんて精神論ではない。
ただ単に俺はこれよりももっと精神的にキツイ体験を受け続けたことがあり、それと比べればこの程度の苦痛など些細なものでしかないというだけだ。
(呪怨ダンジョンで呪い殺されまくる方がよっぽど地獄だったっての)
しかもあの時の俺はレベル1の初心者。
ダンジョン配信者になったばかりのまさに新人だ。
それに対して挑んだのは試練の塔よりも上の特級ダンジョンだったのだ。
今にして思えば、どんな無謀なことをしているのかという話である。
そして当然ながら下位のダンジョンよりも上位のダンジョンの方が難易度も高く、そこで受ける苦痛もそれに比例するかのように大きくなるのが自然だろう。
しかもあそこで呪い殺される時は肉体だけでなく精神もゴリゴリに削られるような感覚を受けたものだ。
そんな拷問のような日々二ヶ月ほど、それも毎日欠かさずこなしてきたのである。
それによって鍛え抜かれた俺の精神が、それこそ万夫不倒とでも言うべき決して折れることない強い意志を確立することになったのも当然のことだろう。
(まあ、いくらメンタルが最強でも力がなければやられちまうんだけどな)
だからこそここで必要なのは新たな特級スキルという力である。
どの特級スキルを購入するか目星は付けてあるので、それを購入しようかとショップ画面に移行する。
だが何故かその前に急にモノリスの画面が別のものに変わる。まるで勝手に操作されたかのように。
そして変わった画面にはこう書かれていた。
【おめでとうございます! あなたはレベル30に到達したことで初心者を脱却、つまりはチュートリアルを完了したことになります! それに伴い幾つかの機能が解放されました!】
「……」
それを見た俺は大きく息を吸い込んで、思わずこう言ってしまった。
「遅せえよ!」
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