第55話 五十階層戦
試練の塔に挑み始めたから大体百時間ほど、つまり四日以上もの時間が経過したことになる。
その間、俺はたまに食事など時間で小休止することはあれど、一度も寝るなどの長時間の休息を挟むことなく最上階だけを目指して昇り続けてきた。
それもこれもレッサーエリクサーで肉体的な問題である疲労や睡魔などを無効化できたおかげだ。
また本当にそのままの意味で寝る魔も惜しんで進み続けるという努力の甲斐もあり、半分の五十階層に挑む頃にはレベルも28とトップダンジョン配信者と遜色ないところまで来ている。
そんな快進撃を続ける俺を阻むべく、ちょうど半分である五十階層ではこれまた厄介な強敵が用意されていた。
「サイクロプスか。しかも通常の奴よりデカいな」
対峙する青い肌に一つ目の巨人の見た目はサイクロプスだ。
ここに来るまでに戦ったことがある魔物なので名前の他にも耐性など大よその性能も把握している。
だがこれまで遭遇したサイクロプスはどんなに大きくても三メートルほどの大きさだったのに対して、目の前のサイクロプスらしき魔物は軽く五メートルを超える身の丈をしている上に、一つだけある目も何か嫌な光を放っていた。
(明らかに普通の個体じゃないし、サイクロプスの上位種とかか?)
その疑問の答えを誰かが教えてくれることはないので自身で確かめるしかない。
相手は五メートル近くある巨体を活かすべく、手に持つ棍棒を掲げると勢いよく振り下ろしてくる。
その木でできているようにしか見えない外見の棍棒が何故かバチバチと耐電するような嫌な音を立てているのに気付いた俺は、全力でその場から離れて攻撃を回避した。
『衝撃波』
振り下ろされた棍棒が地面に衝突した瞬間に相手はスキルを発動させたらしい。
それによって周囲に凄まじい衝撃波と雷撃が同時に広がっていき、近くの存在を感電させると同時に薙ぎ倒そうとする。
(やっぱりあれは雷属性の武器か)
大きく回避することでそれらの攻撃もくらわなかったが、これではギリギリで躱して反撃するのは難しかった。
圧倒的な膂力を活かした振り下ろしによる攻撃と、それを周囲に拡散させるスキル。
更には風の上位属性の雷属性の装備持ちと上に階層になればなるほど敵は強くなり、またそれに比例するかのように装備なども充実していっているのは見ての通りだった。
『氷結の魔眼』
『雷撃の魔眼』
離れた距離から魔眼による攻撃で削ろうと試みるが、相手も同じような魔眼スキルを持っているのか迎撃されてしまう。
その結果、相対する両者のちょうど中間の辺りでスキルによって発生した氷と雷がぶつかり合うと相殺する形で消えていく。
「あの妙な眼は魔眼スキルってことかよ」
普通のサイクロプスは『衝撃波』ならともかく魔眼スキルなどを持っていないので、やはり奴が特別な個体であるのは間違いないだろう。
『発火の魔眼』
『炎熱吸引』
追撃で放った火属性の攻撃は残念ながら効果がないどころか、大きくに開かれた口に吸い込まれるようにして無力化されてしまった。
いや、敵の様子を見るにそれだけでは済みそうになさそうだった。
『炎熱解放』
『氷結の魔眼』
咄嗟の判断で火系統と相反する水系統のスキルである氷結の魔眼で相殺しようとする。
「まずいな」
だが単に吸い込んだ火属性の攻撃を吐き出すことで反射するだけではないようで、スキルで威力を上乗せしているのか明らかにこちらに向かって来る火の勢いが増している。
これでは『氷結の魔眼』では完全に相殺するのは無理そうだ。
『武装換装』
仕方がないので火属性に耐性がある装備に変更して迫りくる炎の波を受け止める。
VITなどのステータスと耐性のある装備のおかげもあって、ある程度のダメージは受けてもやれることはなかった。
だがサイクロプスからしたらダメージを受けている敵の隙を逃す手はない。
すぐにまた怪しい光を放つその目をこちらに向けてきたことで、何らかの魔眼スキルを発動しようとしているのと察する。
『雷光の魔眼』
生じた隙を大きなチャンスと見たのか、先ほどよりも激しい光を纏った雷光がこちらに迫りくる。
いや、雷《《光》》というスキルの名称からしてこれは雷属性と光属性の二つが合わさった攻撃といったところか。
それをこのまま受けるのは不味いし、二つの属性に耐性を持っている装備を俺は持っていない。しかも片方は雷属性という基本7属性ではないだから。
受けきれないのなら残る方法は一つのみ。
『呪いの魔眼』
ギリギリのところで発動した魔眼スキルにより発生した呪属性の攻撃が敵の雷光を受け止める形で衝突する。
これまでは発動すればあっという間に敵を仕留めてしまうせいで、目に映ることのなかった呪いの攻撃だが、今回はそうもいかないようで黒い靄のような形で俺の目の前に顕現している。
白く眩しい光を放つ雷光と黒く禍々しい気配を漂わせる黒い靄。
最初は激しくぶつかりながら拮抗していたその二つだが、徐々に趨勢は明らかになった。
「グオオ……!」
「……どうやら魔眼勝負はこっちに分があるみたいだな!」
やはり特級スキルによって大幅な強化が施されている呪属性の攻撃は強い。
しかもレベルが上がれば上がるほどステータスも上昇することもあり、今の『呪い魔眼』の威力は以前よりもずっと強くなっているのだ。
サイクロプスも必死になって魔眼スキルを維持しているようだが、そんな努力を嘲笑うかのように黒い靄は段々と勢いを増して白い光を飲み込んでいく。
ここが勝負所。
そう感じた俺は更にスキルを上乗せする。
『属性強化・呪』
属性強化自体は単なる中級スキルでしかない。
火や水、あるいは雷や氷など基礎や応用に限らず対象となる属性の攻撃の威力などを強化するというような。
対象がかなり限られているので強化幅は中級スキルにしては大きいほうだが、それでもこの強化だけで上級の魔物に劇的に効果があるほどではないだろう。
だが既に『呪怨超ボーナス』と『ボーナス超強化』で大幅な強化がされている上に、更に他の強化を重ね掛けすればどうなるか。
その答えは一気に勢いを増して雷光どころか、その発生源である敵の眼すら飲み込もうとする禍々しい黒い靄を見れば明らかだった。
「グオオオ!?」
なす術なく強烈な呪い攻撃を顔面で受け止めるしかなかったサイクロプスは、手にしていた棍棒すら手放して頭部を両手で抱えるようにして苦悶の声を上げている。
その隙だらけの状態を見逃すはずもない。
『呪いの魔眼』
幾重にも重ね掛けするように放たれた魔眼攻撃によってその身を呪いに蝕まれていくサイクロプス。
強靭な肉体と途轍もない膂力を誇る強力な魔物もこうなっては抵抗のしようもなかった。
念を入れて動きを封じるべく足などを『氷結の魔眼』などで固めて動けなくしてから、何度も何度も『呪いの魔眼』による攻撃を叩きこみ続ける。
拷問のようなあまりに惨い所業かもしれないが、俺は確実に勝つためなら何でもする所存である。
そうして十三回目の『呪いの魔眼』が敵の身体を蝕んだところで、遂に限界を迎えたのかサイクロプスの肉体が光の粒子となって消えていく。
断末魔もなく全身を呪いに覆い尽くされて朽ちていくその姿は、何度も何度も呪怨ダンジョンで呪われ死に続けた俺の死に様と酷似しているように思えた。
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