第54話 用意していた回復手段
試練の塔に挑戦すると決めた時点で分かっていた。
どう考えても強力な魔物と戦い続けていれば、精神はともかく肉体がついてこられなくなるだろうことは。
また俺だって人間だ。
三大欲求だってなくなった訳ではないし、ずっと活動していれば腹も減れば眠くもなる。
そんなバッドコンディションを抱えたまま上級ダンジョンを攻略できると思うほど自身の実力を過信していない。
だからこうしてそれらをどうにかする回復手段はモーフィアスに相談の元で用意してあった。
「回復薬は色々な種類がある事は皆さんもご存じだと思います。HPを回復させるものがあればMPを回復させるもの。あるいは毒や麻痺、疲労や睡眠などといった特定の状態異常を治療できるものまで様々です」
そしてそれらはモノリスでDPを消費して購入することができるということも今更語るまでもないことだろう。
「私がさきほどまで主に使用していたHPを5のみ回復させるものでも5000DPと決して安くはありません。ましてやこれから使う物はその効果の高さもあって、たった一つで100万DPもするものですからね。私でもそう簡単に使えるものではありません。ですがそれだけすることもあってその効果は折り紙付きです」
そう言いながら俺が取りだしたのはレッサーエリクサーという、俺が現実世界に持ち帰ろうとしているアイテムエリクサーの下位互換のようなアイテムだった。
レッサーエリクサーはレッサーという名こそ付いているが、それは比較対象がエリクサーであればこそだ。
そこに込められた回復力はHPを全回復させるというものだし、他には全ての状態異常も回復させる効果まで付いているのである。
十分に強力と言えるアイテムだろう。
まあ本物のエリクサーがHPMP状態異常の全回復及び一定時間のHPMPの持続回復効果。更には全属性と状態異常に対する高い耐性も付与した上で、死亡時に一度だけ復活する効果まであるという強いを通り越してある種のぶっ壊れアイテムなので、それと比べるとどうしても劣るのは否めないが。
(でもこの場で重要なのは表向きの効果じゃない)
特級スキルの『呪殺ボーナス』や『呪怨超ボーナス』に隠されていた効果があったように、エリクサーという名前が付くアイテムにも隠された効能があるのだ。
それを一言で表すと、使用者の肉体を《《万全の状態》》へと回復させるというものである。
連戦に次ぐ連戦で俺の肉体には積み重なった疲労が溜まり始めている。
残念なことにどれだけHPが満タンになるよう回復しても、普通の方法ではそういう根本的な疲労までは消えたりしないようなのだ。
また今は大丈夫だが、この耐久が十二時間や二十四時間を超えるようになれば、いずれ睡魔というどうしようもない生理現象も襲ってくることだろう。
それは本来なら人間という生物であるならばどうしようもないことだ。
だけどエリクサーと呼ばれる回復薬は高いだけあって、そういうどうしようもない疲労や睡魔すら問題にならない形で消してくれるとのこと。
それこそこれを飲み続ければ肉体的にはずっとベストコンディションで活動できるというのだから、その効果の凄さが分かるというものだろう。
ただし前にも語ったが上級ダンジョンを攻略していない状態では、現実世界へ効果を及ぼせないので、今のこれらで回復できるのは基本的にはダンジョンに入って以降に蓄積した疲労などだけである。
だけど今はそれで問題ない。
魔物と連戦することで蓄積された疲労などは回復できるのだから。
(これで肉体的にはレッサーエリクサーが有る限り戦い続けられる)
問題があるとすれば一本で100万DPという高額商品をいつまで購入できるかどうかだろうか。
1億DP以上保有しているので資金的にはまだまだ余裕はあるが、クリア後に2億DPが必要なことを考えるとそうそう無駄遣いはできないのである。
(属性武器や『氷結の魔眼』や『武装換装』の上級スキルを手に入れるのにも100万を超えるDPを使ったからな)
この感じで上の階層になればなるほどもっと強力のスキルを買う必要があるかもしれない。
それこそ新たな戦闘用の特級スキルとかも。
それらを購入しても問題ないように上級ダンジョンで獲得できる実績による報酬はなるべく網羅しておきたいところだった。
(肉体的な面が問題ないなら、後はただ只管に挑み続けるだけだ)
元々その覚悟を持ってこの試練の塔を選んだのだ。
それもあって今更躊躇することはなく、俺はレッサーエリクサーを一気に呷ると感じていた疲労感などがあっという間に消えていくのを感じる。
「……これで万全の状態に戻りましたので、改めて攻略を続けようと思います」
疲れてきてここで終わると思っていた視聴者が大半だったのか、驚いたような反応ばかりのコメント欄に思わず笑いが出る。
アンチなどは強がりと詐欺とか訳の分からないことを連投して何としてでもアルバートという存在を否定したいようだが、それは残念ながら無駄な努力でしかない。
「未だに疑う人が多いようなのでここで改めて言っておきましょうか。以前の緊急告知でも宣言していた通り、この配信はクリアまでの耐久配信です。その分、長くなるとは思いますが最後までお付き合いいただけると嬉しいですね」
それを証明するべく俺は万全の状態で十六階層へと歩を進めるのだった
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