第48話 試練の塔 第一階層
試練の塔の中に入ると、そこは闘技場だった。
円形のコロッセオという奴だろうか。
俺はその戦うための舞台にやってきた挑戦者のような形で、反対側の方にはそれを待ち構えているかのような猛獣を閉じ込めておくためのような巨大な檻が存在している。
そしてその檻の中にこれから戦う相手となる魔物が囚われているようだ。
(猛獣と戦う剣闘士ってか?)
周囲の客席に人影はないが、ダンジョンカメラによって多くの人々に観戦されているのだ。
大衆の見世物となり娯楽として楽しまれているという意味では、遥か昔に行われていたこととそう大差ないのだろう。
そういう意味ではこのコロッセオのような場所も、これ以上ないくらいに相応しいのかもしれない。
(……すぐに戦闘開始とならないのは、配信的なことも考えてるんだろうな)
自動で戦闘が始まると配信開始の挨拶などする暇もないからか、戦闘の開始はこちらが意思表示するまで待ってくれるようだ。
ならその与えられた時間も無駄にすることなく活用するとしよう。
「どうも、アルバートです。先日告知していた通り、今日は試練の塔という上級ダンジョンに来ています。見たら分かるかもしれませんが、ここには私以外に誰もいません」
キター!
待ってました!
これが未発見のダンジョンか?
それにしては何か見覚えのある感じがしなくもないけど
あれだよ、あれ
分かるぞ、古代の闘技場的な奴だろ?
えーと、コロッセオのことか
それそれ!
ダンジョンカメラに語りかけると、コメント欄が待ち望んでいた上級ダンジョン攻略の配信に盛り上がっているのが分かる。
コロッセオのような景観も割と好評なようだ。
「試練の塔は各階の魔物を倒すことで上の階層へと昇って行けるようになり、最終的には百階層のボスを倒せばダンジョンクリアとなります。また十階層ごとに中ボスが用意されており、中ボスを倒せれば仮に死んでもその階層からの再開も可能になるみたいですね」
九階層で死んだら最初からやり直しだが、十一階層で死んだ場合は十階層からやり直しが可能になる訳だ。
要はセーブポイントのようなものである。
本来の試練の塔の攻略はそれを大いに活用するに違いない。
だが生憎と俺はそれを利用する気はないが。
「そして耐久配信をすると宣言していた通り、私はここから試練の塔を攻略するまでぶっ続けで配信します。終わりまで何日掛かるかは不透明ですが、達成できるように応援してくれると嬉しいですね。そうそう、皆さんは寝ないと死んじゃうと思うので適当ならところで休んでくださいね」
えーと、聞き間違えかな?
耐久配信ってマジだったのかよ……
いや冗談だろ。頼むから冗談と言ってくれ
流石に何日も掛かるのは見続けられんて……
いや、その前にアルバートがギブアップするやろ
そうそう
見てるだけでもキツイのに何日も魔物と戦い続けるとか拷問だぞ
でも本人はやれる気みたいだぞ?
しかも休みなしみたいな感じ出してるじゃん
休みなしとかサイボーグかよ
まるでこちらは眠らないような発言に困惑したようなコメント欄だが、その戸惑いも当然だろう。
幾ら俺が他の配信者とは隔絶したステータスを持っているとしても、戦い続ければ疲労も溜まる一方だし睡眠だって必要になる。
少なくとも今のステータスでは。
だけどそれはあくまで対策をしなければの話だ。
「まあ言葉で説明していても埒が明かないと思うので実際にやっていきましょう。檻の中で待つ敵もどうやら待ちくたびれているようですからね」
そう言うと俺は戦闘開始の合図を頭の中で送る。
するとそれを待っていたかのように檻の鍵は開錠されて、戦う相手である魔物が外に出てきた。
その魔物の見た目は真っ赤の毛並みの狼のようであり、敵意を込めた唸り声を上げながらこちらをジッと見つめてきている。
(外見からすると火属性に強い魔物か?)
上級ダンジョンの魔物の情報はほとんどないに等しい。
誰も倒したことがないので神サイト上でも情報の開示がされていないのだ。
だからここからの戦いは、こうして色々と考えて推測しながらやっていくしかない。
(なんにせよ、まずは弱点属性の確認だな)
どの属性に弱くて、どの属性に耐性があるのか。
それが分かれば対策も立てやすくなるので。そう思ってまずは耐性属性を確認すべく『発火の魔眼』を発動しようとして、
「ぐっ!?」
視線を向けて炎が発生した地点には既に誰もいない。
それどころかスキルによる攻撃を察知した敵は、回避すると同時にこちらにあっという間に接近してきており、その鋭い爪を振るってきていた。
「……なるほど、これが上級ダンジョンの魔物か」
これまでの魔物とは圧倒的に違う速さ。
しかもそれだけはない。
高いステータスもあって間一髪でその攻撃も回避できたと思ったのだが、その爪先が僅かに頬を掠っていたらしい。
僅かな切り傷から血が垂れているではないか。
(アルバートになってから初めてのダメージを受けたか?)
一階層からこれだ。
上になればなるほど強い魔物が現れるのだし、ボスとなればいったいどれほどの強さを誇っているのかという話である。
だけどそれでも俺に逃げ帰る選択肢などありはしない。
『発火の魔眼』
再びスキルを発動しようとして、それに先程と同じように反応して回避してみせる敵の強さに内心で舌を巻きながら俺は戦闘を続行するのだった。
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