第45話 幕間 緊急告知に対する反応 前編
総理大臣の反応
アルバートという謎の男が上級ダンジョンへの挑戦表明をした。それも明日からぶっ続けでやるようなことを示唆して。
「まったく、このアルバートという男は止まったら死ぬ生き物か何かなのか?」
つい先日、中級ダンジョンのボスを討伐するという前人未到の快挙成し遂げたというのに、そんなことなど通過点でしかないと言わんばかりではないか。
「総理、どうしますか?」
「どうするもなにも我々は見守る以外にないでしょう。残念ながら我々が動くのは少々遅かったようですからね」
「それはそうですが……」
大臣が本当にそれでいいのかと思う気持ちは痛いほど分かる。
確かにアメリカと思われる国のエージェントらしき人物が彼に接触したという情報も得ている。
それに後れを取ったことは痛手だが、だったら我々も同じように交渉を持ちかけて挽回を図るべきだろう。
実際に彼が上級ダンジョンに挑戦するようなことがあれば、そうする算段は付けていたのだ。
(世界各国も注意は払っていただろうが、まさかここまで早いとは思わなかったのだろうな)
それは我々にも言えることだった。
本当に上級ダンジョンを攻略できるのか?
それを確認する意味を込めて様子見をしていたら、あっという間に中級ダンジョン攻略に続けて上級ダンジョンに挑戦することになってしまった。
なんというか我々が対応を考えている間に包囲網をぶち破られた感じである。
しかもこれから彼が挑む場所は未発見のモノリスとのこと。
つまりその所在は彼以外に誰も知らないということになるのだ。
「相変わらず現実世界での彼の所在は判明していないのですよね?」
「残念ながら成果はありません。中級ダンジョン周辺には彼を見る目的ために通常よりも多くの人で賑わっており、それもあって手掛かりも掴めていないのが現状のようです」
そしてそれは我々だけでなくどの国や組織でも同じようとのこと。
「上級ダンジョンなら挑む人は彼以外にいない。だからその際に色々と動こうと思っていましたが、まさかそれをこういう形で躱してくるとは」
現状では攻略不可能なこともあって普段は誰も寄り付かない上級ダンジョンのモノリス付近に現れるかと思っていたのだが、そんなこちらの思惑などお見通しということか。
(その際に正体に繋がる情報を少しくらいは得られると思っていたのだがな)
だがその思惑もこれでは無理と言わざるを得ないだろう。
「仕方がありません。こうなったら彼が次に我々の知るダンジョンなどに姿を現した際、なんとしてでも接触を図りましょう」
アメリカが接触したのなら、我々が同じことをしても運営を怒らせることにはならないはずだ。
もっともそれはアルバートというダンジョン配信者の妨害をしないことが大前提になるだろうが。
「今は明日から始まる彼の耐久配信というものを待ちましょう」
今の我々にできることはそれくらいしかないのだから。
アメリカ大統領の反応
(随分と急だな? まるで何かに追い立てられているかのように)
アルバートとの交渉には成功して、他国より一歩先に出られたことで多少の余裕ができた。
そう思っていたらこれである。
もっとも彼がこの調子で上級ダンジョンを攻略してくれること自体は大歓迎だった。
これなら予想よりもずっと早くアイテムの売買なども可能になりそうだし。
「彼に対価として金銭などを提示したのだったな?」
「報告ではそうなっています」
「となると、それが目的か? この攻略を急ぐような彼の行動の理由は」
これだけの活躍ができるのならダンジョン配信を利用して大金を手に入れることなど容易いはず。
それこそ手に入れたDPを金塊などの換金率の良い物にして売ればいいだけだろう。
だが今のところ彼はそうする様子を見せていなかった。
少なくともそういったものが大量に売られたなどの情報は日本だけでなく、他の国でも起きていないはず。
だからてっきり彼は金銭などに興味がないと予想していたのだが、そうではないかもしれない。
(十分な対価を払えば売買に応じるといっていたようだし、もしかして彼には金銭での取引が有効なのか?)
これはあくまで推測の元にした可能性でしかない。
でも可能性があるなら試してみてもいいだろう。
「次の交渉では彼に莫大な報酬の提示をするように。それと支払い方法についても彼の望みを詳しく聞いてみてくれ」
「支払いの方法、ですか?」
「もしかしたら彼が金塊などを売らないのは金銭に興味がないのではなく、それで隠している正体に近付かれるのを恐れているかもしれない。この上級ダンジョンへの挑み方を見るに、どうも足が着くのを彼はかなり警戒しているようだからね」
今の我が国としては、他国より先んじてアイテムが手に入れることが何より重要だ。
ならば彼の正体を暴くよりも、それに加担してでも利を取る方が賢いのではないだろうか。
「それと彼を怒らせたら運営から厳しい処罰が下る可能性があると、それとなく噂を流しておけ。もちろん日本で諜報活動をしているだろう他の国々にもしっかりと伝わるようにな」
それがどれだけ影響が有るかは不明だが、多少は彼に近づく奴らへの牽制くらいにはなるだろう。
(できれば彼との取引は我が国で独占したいところだしな)
そのためなら彼の正体を隠すのにもっと積極的に協力するのもありかもしれない。
なんなら偽りの情報を周囲に流布するような形で。
勿論、それには彼の許可を得ることが必要になるだろうが。
他からの横やりを防ぐためなら多少の汚い手だろうと構いやしない。
それだけの価値がアルバートという男にはあるはずなので。
「くれぐれも彼の機嫌を損ねることだけはないように、いいな」
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