第39話 幕間 中級ダンジョンボス戦の視聴者の反応
アメリカ大統領と政府高官の反応
未だに誰も成し遂げたことのない中級ダンジョンのボス討伐。
その前人未到の快挙が達成された瞬間をこの目でしかと確認した。
(リスクを承知で交渉を持ちかけたのは大正解だったな)
自らの判断を誉めてやりたいくらいである。
そのおかげで他国に先んじることができそうなのだから。
「それにしてもまさか無傷でクリアしてみせるとはな。ボス相手なら流石に少しくらいは苦戦するかと思ったんだが」
「楽勝と言っても問題ないでしょう。それどころかまだ本気を出していない可能性もあり得ますし、本当に途轍もない実力者ですね」
その快挙を成し遂げた正体不明の男であるアルバート。
彼の姿を確認できるのはモノリス内だけであり、名前以外は全て謎に包まれていると言ってよい。
我が国だけではなく世界各国の諜報機関でも現在の居住場所は疎か、国籍や出身地なども依然として掴めていない。
それこそまるで幻影であるかのように。
それもあって一部では幻影の男なんて異名で呼ばれる始末である。
(だがそんな幻影の男も確かに存在して、この世界で生きているのは間違いない)
我が国のエージェントが接触して交渉した限りでは、アイテムを売るつもりがある事が確認できている。
それには金銭などでの対価を求めていることも。
そして金を欲するということは、それを使って生きているのも間違いないだろう。
噂であったようなダンジョン内でしか生きられない魔物なら金を手に入れても意味がないのだし。
「アイテムの売買の際に金銭でのやり取りが発生するなら、それでこの者の正体を掴めるかもしれませんね」
「そうだろうな。だが最初の内は止めておけ」
確かに口座などを追えば、謎の男の正体に近付けるかもしれない。
だがそうすれば正体を隠したがっているこの男を怒らせることになるかもしれない。
そうなった時に運営がどう動くのか。
それが分からない内は下手に手出しするのは危険過ぎた。
エージェントからも運営と意思疎通をとっており、敵対者には何らかの罰を下せるような様子だったという報告が上がってきているのだから。
(単なる脅しかもしれないが、危険を承知で怪物の尾を踏みに行く必要はないさ)
なにせ我々はとりあえず売買の約束も交わしているのだ。
友好的な関係で他よりも一歩リードしているのなら、それを活かすべきである。
「彼の好みについて調べてくれ。食べ物や女性、どんな些細な事でも念入りに。ただしくれぐれも彼の機嫌を損ねることのないようにな」
「親交を深めて我が国に取り込めれば最高の結果ということですね。畏まりました」
金銭欲があるのならそれ以外の欲求もあるはず。
だったらそちらの方向から攻めるのみだ。
(あくまで友好的に良好な関係を維持しつつ、な)
◆
とある熱狂的なファンの反応
憧れのあの人が中級ダンジョンのボスに挑戦するその日、私はインセクトダンジョンのモノリスがある場所に足を運んでいた。
何故なら今日という日は、名実ともアルバートというダンジョン配信者が世界一になる瞬間かもしれないからだ。
それをなるべく近くで祝いたくて、該当のモノリスまで来てしまったのである。
別にモノリスで映る映像と神サイト上の映像で変わりなどないというのに。
ただ私以外にもそういう考えの人がいるのか、インセクトダンジョンのロビーには普段より人が多いみたいだった。
あるいは彼に遭えるかもしれないと考えているのだろうか。
そんな私達が待っていた彼の配信がいつものように早朝の時間から始まって、ロビーにあるモノリスにその配信が映される。
彼は昨日までと何ら変わらないようにダンジョンボスまでの道を踏破していく。
途中で現れる魔物など鎧袖一触であり、まるで相手になっていない。
その勢いのままあっという間にダンジョンボスがいる結界内に入っていって、誰もが待ち望んでいた中級ダンジョンのボスと彼の戦いが始まった。
ここのボスは巨大な芋虫のような魔物であり、名前や耐性などは全くと言っていいほど分かっていない。
そんな相手なのだ。流石の彼でもこれまでのように楽勝とはいかないだろうと思っていた。
誰もがそう思っていたのだ。
「嘘だろ!?」
「マジで勝ちやがった!」
「え、てかもう? 早くない? あり得なくない?」
これが本当に今まで数多のダンジョン配信者を退けてきた中級ダンジョンのボスなのかと思うほどに、彼はあっさりと巨大な芋虫を討伐してしまった。
それも傷一つなく。
(凄過ぎるわよ……)
自分が助けられた時からアルバート様が強いことは分かっていた。
あの強さは、もしかしたら世界でもトップクラスどころか断トツでトップなのではないかと思うくらいに。
だけどそれでも中級ダンジョンのボスをこんなに短時間で、しかも無傷での討伐を成し遂げたとなれば驚かずにはいられなかった。
(もうこれは圧倒的なんてレベルすら超えてるわ)
余りに凄過ぎて彼とそれ以外では生きている世界が違うのではないか。
そのくらいに差が開き過ぎていると言っても決して過言ではないだろう。
そんな彼が達成してみせた世界初の快挙に周囲が騒がしくなっているロビーに、ダンジョンから戻ってきたアルバート様が姿を現した。
そして偉業を成し遂げて戻ってきた彼を大きな歓声が迎える。
ここで彼に人が殺到しなかったのは、そうすれば運営からペナルティが課されることが目に見えていたからだ。
以前の下級ダンジョンのボスを最初に討伐した人の時もそうだったのである。
それがなければきっと彼は大勢のファンにもみくちゃにされていたに違いない。
そんな歓声に対して軽く会釈と手を振って反応を示すと、アルバート様は足早にロッカールームに入っていく。
残念ながらこうなった後に彼の後を追えた人はいない。
どれだけ待っても彼は出てこず忽然と姿を消してしまうので。
それが分かっているからか、周りの人もだんだんとその場から離れていった。
折角ここまできたからダンジョンを攻略する人もいれば、彼をその目で見られて満足したのか帰る人もいる。
そんな中、私はボーとアルバート様が入っていったロッカールームを眺めていた。
別に待っていれば彼に遭えると思ってのことではない。
彼の活躍の余韻に浸りたかったこともあってすぐに帰る気にはなれず、ただ何となく理由もなく見ていただけなのだ。
「……ふう、帰ろっか」
周りに人がいなくなってからしばらく経って私もその場を後にしようとして、
「……え?」
そこで思わぬ人物がロッカールームから出てくるのを目撃してしまったのだった。
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