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第38話 中級ダンジョンボス戦

 俺はボスがいる空間のすぐ傍にいる。


(遂にきたな)


 全てのチェックポイントを踏破したので結界に弾かれることも無い。


 つまりこの先に足を踏み入れれば、中級ダンジョンのボスと対面することになる訳だ。


 ダンジョンで会って仲良くお茶することがあり得ない訳で、ボスはこれまでの魔物と同様に侵入者である俺を排除しようとするだろう。


 そして今のところ、その脅威を打倒できた存在は誰一人として存在しない。


 だがそれも今日までだ。

 何故なら俺がその最初の一人になるのだから。


「それではこれから中級ダンジョンのボスの攻略を開始します」


 ダンジョンカメラに宣言して俺は足を前に動かす。


 以前は侵入を拒んでいた結界は何も存在していないかのように素通りでき、中の空間ではボスがこちらを待ち受けていた。


 そこにいたのはトラック並みの大きさを巨大な芋虫だ。


 誰かが倒したことのある魔物は神サイト上で名前やその大まかな性能が明らかにされるのだが、中ボスを倒した人がいないことからも分かる通りこの巨大な芋虫は誰にも倒されたことがない。


 故に名前も性能もほとんど謎に包まれているのだった。


(でもこいつらが現れるのは他の配信者が挑んだ時と変わりはないか)


 ダンジョンによってはボスが数種類用意されていることがあり、その中からランダムで選ばれるようなこともあるようだが、このインセクトダンジョンではそうではないようだ。


 そうしてボスである巨大な芋虫は結界内に侵入者が入ってきた途端、その巨大に見合わない速度でこちらに顔を向けると、


「ギシャアアア!」


 どこから出しているのか分からない咆哮を上げる。


 それと同時に鋭い牙のような突起が並んだその口から、無数の糸が吐き出された。


 そして吐き出された糸はまるで一本一本が意思を持っているかのように敵である俺に向かって殺到してくる。


 最初にこの攻撃を受けたダンジョン配信者は、大量に襲い掛かる糸を躱し切れずに捕らわれ、動きを封じたところにその巨体で突進してきた奴に轢かれて死んだ。


 他の挑戦者も多かれ少なかれ、そんな感じでまともに敵にダメージを与えることも無く敗北を期している。


 だが俺も同じだと思われては困るというもの。


『発火の魔眼』


 迫りくる粘度の高い糸を群れは弱点と思われる火属性攻撃で焼き払う。


 俺が視線を向けた場所で発生した火はあっという間に広がり、更には糸を伝うようにして迸る火がボスへと向かって奔っていく。


「ギシャアア!?」


 それを察知したのかボスは咄嗟に牙を使って糸を切り離して口の中に火が侵入することは防いでみせた。


 だがそんな隙を見せている内に俺の魔眼がその身体をしっかりと捉えている。


『発火の魔眼』


 スキルによって突如として発していた火は身体の一部を焼くだけに留まらず、侵食するかのように芋虫の表面を伝って全身に広がっていく。


 身を捩ってその火が発生した箇所を地面にこすりつけることで何とかこちらの攻撃から逃れようとしているが、スキルで発生した火はそう簡単に消えることはない。


 更に言えば、たとえそれが消えても別の場所に『発火の魔眼』で新たな火を起こしてやるだけだ。


(この勢いのまま追撃を……!?)


 そう思った俺だったが、それを察知したのかボスは身体を蝕む火を無視してこちらに口を再度向けると、今度は毒々しい色をした大量の液体を吐き出してくる。


(これは毒か?)


 毒属性は土属性の上位属性とされている。


 そのため毒属性の攻撃を防ぐためには土属性に対する耐性では足りず、専用の毒属性耐性や無効などのスキルが必要となるのだ。


 これ以外でも属性攻撃は数えきれないほど存在していることもあって、それら全ての耐性を確保することは現実出来ではない。


 全ての耐性を網羅するためには億どころか兆のDPがあっても足りないからだ。


 だから俺はその毒属性の攻撃をくらわないように回避する。


 大量に吐き出された液体だが、今のステータスがあればそれが降り注がない位置まで移動することなど訳ないので。


「ギシャアア!」


 それを見た巨大な芋虫は一度でダメなら当たるまで攻撃を仕掛ければいいというかのように、燃える自分の身体のことなど意に介さず何度も何度も毒液を吐いてくる。


(ちっ! この毒液、その場に残るのか)


 回避は可能だが毒液は消えることなく落下した地面に水溜まりを作るかのように残り続けている。


 いや、そればかりか気化して毒の煙をその周辺に発生させ始めていた。


 ボス部屋の空間は広いから今はまだ大丈夫だが、それでもこれが長引けば無事な空間がどんどん狭まっていく。


 このままではこちらの火が敵を焼き尽くすのが先か、それとも毒が空間を埋め尽くすのが先かの勝負となるだろう。


 だがそんなどちらに転ぶか分からない勝負を続けるつもりなどこちらにはない。


 俺は『千里眼』と『発火の魔眼』を同時使用して、狙った箇所へ正確に火を起こしてみせる。


 それは依然として毒液を撒き散らしているボスの口内に直接だ。


 本来なら口の中はそう簡単に目視できないし、吐き出される毒液が壁の役割を果たすので中々狙った箇所に発火させるのも難しい。


 なにせこっちは毒液を避けるために動き続けているのだから。


 それらの問題を『千里眼』によって解決したことにより、発生した火は敵の口内を焼き尽くす。


 それによって苦悶の悲鳴を上げて巨大な芋虫はのた打ち回った。


(体内に直接攻撃できればもっと効いたかもしれないんだけどな)


 残念ながら『千里眼』を駆使しても魔物の体内に発火させるみたいなことはできなかったのだ。


 今回の口内は毒壁を吐くために口をバカみたいに開いていたおかげで視線が通った形である。


 表面と口内を同時に火に焼かれ悶え苦しむダンジョンボス。


 ただそれでも死にそうになっている感じはせず、このままではどうにかして火を消して、あるいは強引に耐えて攻撃を再開しそうな気配があった。


「そうはいかねえけどな」


 毒液を吐かなくなればこちらのもの。俺はその巨体を地面に叩きつけているボスの上へと跳び上がると、


斬撃スラッシュ


 全力の斬撃をその身体に放つ。しかも今回は単なる斬撃ではない。


 何故なら俺が持つ武器はこのために用意した属性武器だからだ。


 火属性が付与された剣から放たれる攻撃は全てにその属性が付与された状態となる。


 つまり俺の放ったこの『斬撃スラッシュ』も敵の弱点である火属性が込められている。それもあって放たれた斬撃は敵の身体を焼き焦がしながら大きく傷をつけてみせた。


(まだだ!)


 それで終わりではない。


 俺は落下の勢いを殺さず敵の身体に乗り付けながら、その『斬撃スラッシュ』によって敵の身体にできた一筋の傷に向けて剣を深く突き立て捻じ込む。


 そしてステータスを駆使して強引に抉り開いたその傷へと向けて容赦なく『発火の魔眼』を発動した。


「ギシャアアアアア!?」


 弱点属性となった『斬撃スラッシュ』や属性武器を突き立てられたことで体内へと続く道が切り開かれた。


 そこに上級スキルで発生した火属性攻撃を叩きこまれたのだ。


 体の内外から焼かれる苦しみに巨大な芋虫は悲鳴を上げて暴れ回り、その巨体の上に乗っていた俺はあえなく弾き飛ばされる。


 それでも剣は突き立てられたままであり、火は中々消えることなくボスの身体を蝕んでいく。


 流石にこれにはボスも大ダメージを負ったのか、動きの鈍ってきたボス。


『呪いの魔眼』


 そこに駄目押しで特級スキルによる強化済みの呪属性攻撃を叩きこんでやる。


「ギ、イ……」


 それが止めとなったかのように地面に倒れ動きを止めた巨大な芋虫は、やがてその身体が光の粒子になって消滅していく。


 それは魔物が死んだことの証明だった。


「よし、勝った」


 カラン、というボスの身体に突き立てられていた剣が地面に落下した音を聞きながら俺は前人未到の中級ダンジョンボス攻略を達成したことを確信するのだった。

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