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第36話 アメリカのエージェントとの交渉

 今日も講義前の早朝に配信するべく、中級のインセクトダンジョンのロッカールームを出たところだった。


「すみません、アルバートさんですよね?」


 アルバートに化けた俺に声が掛けられたのは。

 これまでにも何度かそういうことはあった。


 その際にはサインを求められたり、あるいはコラボの依頼をされたりもした。


 だから今回もそういう類いかと思ったのだが、声を掛けた人物から察するに違うようだ。


「そうですが何の用でしょうか?」

「私はアメリカ政府のエージェントです。もしよければ少しお時間を頂けませんか?」


 スーツ姿でサングラスを掛けた容姿はあからさまに怪しい。


 そうじゃなくてもダンジョン配信以外の目的で声を掛けているようなので、ここで俺が断っても運営は俺の方を守ってくれるだろう。


「……これから配信があるので長くは無理ですが、それでよければ」

「感謝します。こちらもなるべく手短に済ませるようにしますので」


 でも俺は断らなかった。


 わざわざ運営の怒りを買う可能性を承知で話しかけてくる内容に興味があったのである。


 また下手に無下に扱って敵対されるよりは、検討するとかいって先延ばしにすることで時間が稼げるかもしれないし。


(期日までは誰であろうと邪魔されたくないからな)


 それ以降に関しても色々と考えてはいるが、今最も大事なのは母の病を治すことなのだから。


「時間もないとのことなので単刀直入に申し上げます。我々アメリカ政府ではあなたが世界で初めて上級ダンジョンを攻略するのではないかと考えています。そうなった際、あなたはダンジョンのアイテムやスキルを現実世界に持ち帰る権利を手に入れるでしょう」


 やはり知っていたか。


 だからこそダンジョンを独占しようとする勢力が現れて、運営であるモーフィアス達がそれをさせないように俺の前に現れたのだからそれも当然なのだが。


「そうなった際、あなたさえ良ければそれらのアイテムを買い取らせていただくことはできないでしょうか? 勿論これはあくまで提案であり強制するものではありません。また金銭などで十分な対価を支払うことも約束させていただきます」


 下手に強制したり、配信の邪魔をしたりしていると運営に捉えられればヤバイのことは理解しているらしく、国から派遣されたエージェントとは思えないほど下手に出てくるこの交渉相手。


 この分だと少なくともアメリカからは妨害されるような心配はいらないようだ。


(自分達で入手できないのなら、それを持っている相手から買い取ればいいか。まあ賢い判断だな)


 しかも相手は世界一の大国と言ってもいいアメリカである。


 さぞ大金を用意してくれることだろう。


「そうですね……まず私は上級ダンジョンに挑んだことがないので実際にどうなるかはそこでの魔物との戦いによるとも思います。ですがもし順調に事が進んだ際、金銭などで十分な対価を用意していていただける相手ならそういった取引をすること自体は構いませんよ」

「それは本当ですか!?」

「ええ、私にも欲しいものが色々とあるので当面はそちらを優先させてもらうとは思いますが、その後なら持ち帰ることに成功したアイテムを売ることも考えてはいますので」


 ただしその売り先がアメリカだけとは限らないが。


 他にもそういったアイテムなどを欲している相手は山ほどいるだろうし。


 海外のとのやり取りが面倒そうなら、自国である日本も売りつけるのも一つの手だろう。


「ただそれは私が上級ダンジョンを攻略できなければ机上の空論でしかありません。なのでもしそちらが協力してくれるというのなら、その時に優先的に取引するくらいはしても良いと思っていますよ」

「こちらとしては願ってもないことですがその協力の内容とは? 具体的に我々は何をすればいいのでしょうか?」

「別にダンジョン攻略を手伝えとかは言いませんよ。それは自力でどうにかするので。ですから私の配信活動を決して邪魔しないようにしていただきたいのです。その上で可能ならアメリカ以外が余計な手を出してこないにしていただけると助かりますね。色々とこちらのことを嗅ぎ回る人が多くて正直に言って鬱陶しいんです。最近は運営に苦情を入れようか迷っているくらいなんですよ」


 これらの内容についてはあらかじめモーフィアスに相談の上で決めていたものだ。


 いずれこういう形で接触してくる奴らが現れるのは分かり切っていたので、何パターンかに分けて対応を考えておいたのである。


「……もし苦情を入れた場合、神サイト運営は何らかの対応をするのでしょうか?」

「どうやら私はダンジョン配信で活躍していることもあって運営からもそれなりに贔屓にしてもらえているみたいなんです。だからダンジョン配信の邪魔になる要因は可能な限り排除してもらえるみたいですよ。運営に確認は取ってありますが、もしそれを疑うなら実際にやってみませましょうか?」

「い、いえ! 疑っている訳ではありません! 分かりました、その条件を上に報告させて可能な限り対応させていただくことになると思います」


 半分脅しみたいなことを言ったが、これは嘘ではない。


 俺のダンジョン配信を明確に妨害する奴は、モーフィアスやその上役が確認した上で排除することも可能だと言質はもらっているのだ。


 ダンジョンのアイテムなどを手に入れたいアメリカなら、それらを問答無用に一定期間、あるいは永遠に使用できないようにするとか対象に即した内容で。


「どのような方法で売るかなどの具体的な内容は、それが達成出来たら改めて考えることになるでしょう。その際はまたこうしてロビーで声を掛けてください」


 それに相手が了承をしてくれたところで、そろそろ配信するべく俺はその場を離れる。


(ふー緊張したー)


 大国からの使者に対して脅しめいたことを言う。


 そんな大それたことを一介の大学生が慣れている訳がない。


 事前に言う内容などを準備していても、実際にやるとなればまた色々と勝手が違うものだし。


(でもこれでこっちを嗅ぎ回る奴も減るだろうし、余計な邪魔も入らないだろ)


 きっと俺からアイテムを買い取りたいアメリカが防波堤の役目を担ってくれるはず。


 だって未来が分かるモーフィアスがそうなる可能性が高いと言っていたので。


 万が一意図したのとは別の方向に事が動いたとしても、その際はまたモーフィアスに相談の上で対応策を考えるだけだ。


 そんなことを考えた後、俺はまたその日の配信で新たに二つのチェックポイントに到着することに成功するのだった。

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