第34話 魔眼初使用配信の感想
初挑戦した中級ダンジョンの配信を見返す。
基本的には危なげなく進み、コメントや視聴者数もとんでもない数を維持……いや時間が経つごとに増え続けているようだ。
唯一、軍隊蟻に『発火の魔眼』を使おうとした時だけはコメント欄も怪訝そうというか困惑した感じのものが多く、またアンチらしき奴がバカだとか、無能乙とか散々煽ってきていたが。
「何よ、このコメント。アルバート様に対して感じ悪いわね」
「まあまあ、結局はそれも良い味を出す結果になったんだしそう怒らないのー」
憤慨するサクラをのんびりしたアスカが宥めている。
(てか、いつまで様付けなんだよ……。むず痒いっての)
情報収集のためにダンジョンサークルに入ってアスカを始めとした他のダンジョン配信者と交流を持っている俺だが、その活動の中には他のダンジョン配信者を見て学ぶというものがあるのだ。
そして今、ダンジョン配信界隈を大きく騒がせているアルバートがその候補に選ばれる確率は比重に高く、今日もそうなってしまった形だ。
基本的に自分で自分の配信は見返すようにしているので、時には同じ映像を何度も見る羽目になるのだが、それでもここで見返すことで得るものもある。
それは視聴者、それも同業者からの率直な意見が聞けるということだ。
そんなやり取りの最中も配信の映像は流れていき、発動した『発火の魔眼』によって軍隊蟻が焼け焦げていくシーンになった。
コメントもそれには大盛り上がりであり、煽っていたアンチなどを逆にバカにするコメントも流れている。
「うわ、相変わらず意味が分からないわね。なんで軍隊蟻に火属性の攻撃が効いてるのよ?」
「……もしかしたら『発火の魔眼』が耐性を貫通するとかないか? 魔眼は上級スキルって話だし」
「でもそれだと他より効きが悪いのがおかしくないー?」
「そうなんだよなあ。ってことはやっぱり単にステータスや威力の問題って線が濃厚か。そうじゃなかったら俺も狙おうかと思ったんだけどな」
ミドリの疑問にミナトが答えて、アスカの鋭い指摘を入れている。
今日いるメンバーはウットリとアルバートの配信を見ているサクラと、それに内心で気まずい思いをしている俺を含めて五人だけだった。
というかこれは前にも思ったが、のんびりした口調の割にアスカは思考が鋭いというか頭が良い気がする。
なのでもしかしたらこの中で一番警戒しなければならないかもしれない。
その後、『呪いの魔眼』で敵を殲滅したところでその日の配信は終わった。
後は来た道を戻るだけなので。
「最後の謎の攻撃も魔眼なんかな?」
「そうじゃない? 見るだけで魔物が消えてる感じだし」
「うんうん。でもって『発火の魔眼』では一瞬で倒しきれてなかったし、魔眼だとしても軍隊蟻の耐性がない属性のかもねー。もしかしたらそれっぽいスキルをモノリスで調べれば分かるかも?」
(それ、大正解です)
少なくとも『氷結の魔眼』や『雷電の魔眼』などでないことは分かるだろう。
敵が凍りついたり、感電したりする様子がなかったことで。
そんな風に話を聞いていると、やはり未知の上級スキルである魔眼を使ったところなどが盛り上がったのは間違いないようだ。
またアンチが騒いで、逆に恥をかいた瞬間も痛快だったという感想も出ている。
(なるほどな。今後もそういう流れを利用できたら盛り上がるな)
どれだけアンチなどがコメントで挑発しても相手にするまでもないという風に無視して、圧倒的な実力と行動で黙らせていく。
それがカッコいいと目の前の熱烈なファン以外も言ってくれるので、今後もそんな感じでやっていくとしよう。
「それにしても凄過ぎるよな。この感じだと初の中級ダンジョンのボス討伐もこのアルバートが達成するんじゃないか?」
「圧倒的だもんね。サクラやミナトですら中級ダンジョンの魔物はキツイって話なのに、この人は中ボスも楽勝みたいだし」
「でも凄いと言っても中級ダンジョンだろ? この先にまだまだ上級とか特級、神級ダンジョンがあるし……」
そこまで騒ぐことではないのではないか、あまりの称賛っぷりにそう言いかけたが、そこで厄介なファンがこちらに目を向けていることに気付く。
その目はまるで敵を見定めるかのようであり、俺にとっては魔眼よりも恐ろしく感じた。
(やベっ!?)
「……そっちでどれだけ活躍できるかの方が気になるな俺は、うん」
だから緊急で話題の着地地点を変更する。するとファンも満足したのか頷いていた。
(ふうー危なかった。余計な地雷を踏み抜くところだったぜ)
そんなこちらの様子を見てクスクス笑っているアスカには俺が本当に言おうとしたことがバレているようだ。
だけどあえてそれを指摘するようなことなく別の話題を続けてくれる。
「それは確かにねー。もしかしてだけど上級ダンジョンも楽勝とかだったらどうする?」
「いやいや、流石にそれはないだろ。中級ダンジョンのボスだって誰も倒せてないのに、それを超える奴が上級ダンジョンにはゴロゴロいるはずだろ?」
「でももしかしたらって気持ちがするのも分かるわ。ちなみに熱烈なファンであるサクラさんははどう思いますか?」
「アルバート様ならきっと大丈夫! でももし苦戦したとしても私は応援する!」
(ファンの鑑だな、おい)
苦しい時でも応援する宣言をしてくれること自体は嬉しいのだが、やはりどこか気恥ずかしい思いがするのは止められない。
そういうこともあって俺は割とサクラに苦手意識があるのだった。
別に嫌いとかではない。
ただ気まずいとか恥ずかしいとかだけで。
(もし俺があのアルバートだって知ったら、こいつはどんな反応をするんだろうな?)
アルバートの正体が、実はどこにでもいるような何の変哲もない大学生だった。
それを知ったらさぞ驚くことだろう。
そして理想と違ったことに落胆するだろうか。
それとも身近にいたことに歓喜するだろうか。
俺が自らバラさない限りそんな日が来ることはまずないだろうが、それでも少し気になる俺がいた。
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の星評価をお願い致します!




