第33話 幕間 視聴者の反応 後編
アメリカ大統領の反応
中級ダンジョンでも下級と変わらぬ無双を続ける。
その映像を見て改めてアルバートという謎の男が規格外な存在であることを思い知らされた。
彼以外の世界トップクラスと称されているダンジョン配信者達ですら、中級ダンジョンの魔物相手では、時に苦戦をすることもあれば死ぬこともあるのだ。
中ボスともなればその可能性はより高くなるし、未だに誰一人として中級ダンジョンのボスを討伐したことはない。
惜しいところまでいった人は何人かいるが、それでも未だに誰も超えられぬ壁であることに変わりはないだろう。
だがそのダンジョン発生から半年の時間があっても達成されたことのない偉業ですら、彼にとってはそれこそ児戯に等しい行いになるのではないか。
そう思わされずにはいられないのほどに彼は簡単に中級ダンジョンの中ボスを倒している。
(傷一つ負わないこの調子だと、あるいは上級ダンジョンですら攻略可能なのではないか?)
かつて世界でトップランカーとされていたというダンジョン配信者数名が協力して上級ダンジョンに挑んだことがあった。
中級ダンジョンのボスを倒していないので上級ダンジョンのボス部屋には入れないが、そこまでの道中までなら攻略可能なので。
彼らとて攻略できるなんて思っていなかった。
人気を保つための話題作り。
あるいはより上のダンジョンで経験値稼ぎができないかなどを目論んでいたのである。
だがその思惑は叶わなかった。
なにせ彼らは上級ダンジョンで初めて遭遇した魔物に惨敗したからだ。
中ボスではないそこら辺にいるような魔物相手に、まともにダメージを与えることすらできずに。
この事実と中級ダンジョンに現れる魔物が下級のボスよりも強かったことを合わせると、今後もそういう感じなのだろうと予想ができる。
死んでも再挑戦できるからこそ、その辺りの難易度はかなりシビアに設計されているようだ。
「……あまりに早過ぎる。だがもし仮に、この調子で彼が上級ダンジョンまで攻略したとなれば、その価値はどこまで高まるか分かったものではないな」
上級ダンジョンを攻略すれば、アイテムやスキルを現実世界に持ち帰る権利が得られることが判明している。
そしてアルバートという男は少なくとも上級スキルを複数買うだけのDPが得られる収入状況なのは簡単に魔眼を手に入れていることからも間違いない。
つまりこの調子で彼の快進撃が続けば、早ければ数ヶ月も待たずにエリクサーを始めとしたアイテムなどを現実世界に持ち帰ってこられるようになるかもしれない。
世界でただ一人、アルバートという人物だけが。
(そうなった時に他国に先を越されるのだけは避けなければ)
最も良いのは誰よりも先に彼の身柄を我が国で確保することだ。
だが今のところ情報収集のために送り込んだ諜報員ですら現実世界で彼の影も形も掴めていない現状から考えるに、あちらもそれは最大限の警戒をしているのだろう。
(何としてでも関わりは持ちたい。だが警戒している中で下手に手を出して、敵対するのだけは避けなければならないか)
これだけのことが出来るアルバートという男。それが個人ではなく裏に黒幕が存在している可能性もあり得えない話ではないし、事は慎重に進めなければならないだろう。
「となると、ここは友好的な関係を築いて対価を払って譲ってもらえないか交渉するのが最善か」
金銭で靡く相手なのかどうかも分からないが、それで済むに越したことはない。
それを知るためにもまずは相手と接触する必要がある。
たとえ多少のリスクを負うことになるとしても。
そのために私は日本で活動する諜報員にある指示を出した。
決して彼と敵対するようなことはないようにと厳命して上で。
とあるアンチの反応
アルバートチャンネル。
それはダンジョン配信界隈で今、最も熱い存在といっても過言ではない。だけど俺はそれを認められなかった。
「くそ! なんだよ、皆してこいつの話題ばっかり取り上げやがって! サクラもサクラだ! あんな見たことない顔するなんてよお!」
俺が密かに推していたダンジョン配信者であるサクラ。
クソみたいな会社のクソみたいな上司に扱き使われる最悪の日々の中にあって、オアシスのような存在だったのがサクラチャンネルなのだ。
そんな俺にとって心休まる存在だった彼女がこれまでに見たことのない表情を、それも明らかに好意を抱いている様子を見て落ち着いてなどいられなかった。
「マグレだ! 彼女を助けたのも、あんな風に活躍してるのも全部マグレに決まってる!」
そう思って奴の配信を荒らしてやろうと挑発的なコメントを送ってみたが全く相手にもされなかった。
俺以外にも同じようなコメントがあっても奴はまるで眼中にないかのように全てスルーする。
(バカにしやがって!)
そもそも意味が分からない。
どうしてこいつだけこんなに圧倒的なのだ。
そうだ、ズルをしているに違いない。
でなけばおかしいではないか。
そう思って奴の配信に張り付いた時、遂にここだと思った瞬間がくる。
それはアルバートが火属性に耐性があるという軍隊蟻に、あろうことか火属性の攻撃を仕掛けると宣言した時だ。
それを見て思った。どんなに強くてもこいつはバカだと。
だってダンジョン配信者でもない俺ですら知っているようなことをこいつは知らないのだから。
そう思った瞬間、奴の配信でその愚かな行動を嘲笑うコメントを打ち込む。
(……よし! これで他の奴も目が覚めるはず)
だがその目論見は次の瞬間には露と消えた。
何故ならその攻撃はこれまでほどではなかったものの、しっかりと敵に効いてはいたから。
「ふざけんな! なんで軍隊蟻に火属性の攻撃が効いてるんだよ!?」
あいつは虫系の魔物としては例外的に火属性に高い耐性を持っているはず。
それこそほとんど無効に近いくらいの高い耐性を。
前に他のダンジョン配信者が戦った時にそうだったから間違いない。
だけどそんな現実を嘲笑うように発生した炎は敵に確かなダメージを与えていた。
これまで瞬殺してきた魔物ほどではなかったかもしれないが、画面越しでも明らかに分かるくらいに。
それどころか奴は、まるでこれは単なるお試しだったかのように余裕の態度を崩さない。
(ま、まだだ! まだ軍隊蟻は生きてる!)
炎に包まれながらも魔物は生きてアルバートに攻撃を仕掛けようとしている。
その内の一体でもいいから、せめて一矢報いてくれ。
そう願っていたのに、
「はあ!?」
あと少しでアルバートの元まで辿り着きそうだった個体が急にその姿を消したのだ。
それどころか次々とアルバートが目を向けた個体が同じように消滅していく。
「ざけんな! チートだ! チーターだろ、こんなの!?」
見ただけで敵が倒せるスキルだなんて聞いたことも見たことも無い。
あまりの理不尽さに周囲の事なんて考えずに叫んでしまう。
「おい、うるせえぞ! 近所迷惑なんだよ!」
「ひっ!? す、すみません」
そのせいで隣の強面の住人に怒られる羽目になってしまった。それもこれもあのアルバートという男のせいだ。
(くそ、いつか絶対やり返してやるからな!)
隣人ガチャが外れなのも、上司がクソなのも、自分の人生が上手くいかないのも、全てアルバートという男のせいにして、俺は苦情を入れてくる隣人に頭を下げるしかなかった。
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