第32話 幕間 視聴者の反応 前編
とある中堅配信者の反応
本当に意味が分からない。
巷で超新星と称される新人ダンジョン配信者、アルバートの初の中級ダンジョン攻略を見た感想はそれだった。
ステータスに任せた物理攻撃ならばどうにかギリギリ理解はできた。
俺のような中堅クラスならともかく、それこそ世界でもトップクラスに位置するダンジョン配信者なら――モノリスで買えるステータスを一時的に強化するアイテムを大量に使いまくればという条件は付くものの――あの理不尽な速さに近い動きをすることも可能かもしれないと思えたから。
もっともそういう強化アイテムに頼っても一時的にしかできない動きを平然と継続して続ける時点でアルバートという人間の凄さが際立つだけだったが。
あれだけ長い間、同じ動きが維持可能なのはそういうアイテムに頼っていない証拠だろうし。
(強化アイテムの効果時間は長くない。もし奴が使っているなら、どこかのタイミングでその効果が切れるはず)
アルバートはそれなりの時間、ダンジョン配信していてもその力に陰りが見えたことはない。
そしてダンジョンカメラが常にその姿を映し続けている以上、強化アイテムをこっそり使うのも絶対に不可能。
つまりあれは素のステータスなのだ。
それでも十分過ぎるほどにバケモノだったのに、今度の映像はそれを遥かに超えている。
まず道中に遭遇した虫系の魔物を、どうして数回攻撃しただけで仕留められるのか。
あれはどこからどう見ても単なる斬撃による攻撃。
虫系の魔物の大半はその固い甲殻などによるものなのか無属性と土属性に高い耐性を持っている。
その耐性の前では下級どころか相性の悪い中級スキルでもほとんど意味をなさないくらいに。
その相手に対してスキルを使わず有効打を与える。
それも数発で敵を倒せるくらい強力な。
そんなことが可能なダンジョン配信者など他にいない。
その時点でおかしいのに、その後に使ったスキルも意味が分からなかった。
目視した地点に強烈な火を発生させるスキル。それを奴は魔眼スキルと言っていた。
(魔眼とか上級スキルじゃねえか! いったいどうやってそんなに稼げるんだよ!)
ここ一ヶ月、ダンジョン配信界隈での話題はほぼ超新星であるアルバートという男に占領されたと言っても過言ではない。
そこまでいくと数百万DPですら簡単に稼げてしまうのだろか。
だとすると換金率の良い金塊なども大量に手に入るはず。
それはつまり現実世界でも大金持ちになれるということでもあった。
「あー羨ましい。どうにかお近づきになれねえもんかねえ」
その後も見たことのない魔眼のスキルを駆使して中ボスもあっさり倒してみせる映像を見ながら、俺は自分との差を感じて嘆息するのを止められなかった。
とあるダンジョンインフルエンサーの反応
「全く、どうなっているのかしら」
ある男が魔眼スキルを発動している。
それも軍隊蟻のやられ方から察するに、どうやら一つではないようだ。
「……これは本当に人間なの?」
そうでなければ運営の回し者ではないか。
そう思ってしまうくらいにアルバートという男のやっていることは規格外過ぎた。
魔眼のような上級スキル。
それを手に入れたダンジョン配信者は、ダンジョン配信においてトップテンの実力者称されることも多い自分を含めて未だに知らない。
少なくともこの映像の中の規格外以外は。
上級スキルを入手するのには数百万DPが必要なはず。
それだけの費用を稼いだとなると、こいつは月頭の報酬でどれだけ貰ったというのか。
私が知る限りでも、これまでの最高で百万DPに届くか届かないくらいが月の最高額だったはずなのに。
でも一ヶ月でそれだけ稼げるトップ配信者なら数ヶ月頑張れば魔眼スキルを手に入れられるのではないか? そんな風に考える奴がいるかもしれない。
だが実際にダンジョン配信をやって見れば分かるが、それは全く現実的ではない絵空事なのだ。
何故ならダンジョン攻略では《《死ぬのが当たり前》》だから。
死んでも入口に無傷で戻れるからこそ比較的初心者でも参入しやすいダンジョン配信だが、死んだ際に一定の割合でDPを喪失するなどのペナルティは存在している。
そしてダンジョンも一度で攻略できないような難易度となっており、それこそ初見殺しも当たり前。
何度も何度も死んで覚えて、そして攻略していくのが当たり前なのだ。
だからどれだけ稼いでもその度に一定の割合でDPを喪失してしまう以上、大量のDPを保有したままでいるのは非常に困難。
というか普通は不可能である。
(死なないように徹底的に安全策を取って下級ダンジョンで配信するって方法もあるけど、それだと他の配信と代り映えしないせいで伸びないもの)
トップクラスの配信者達ですらその理屈は変わらない。
いや、むしろ最前線で活躍している配信者ほど死の危険と隣り合わせであると言えるだろう。
その論理でいくと、このアルバートという男は月頭の報酬で数百万DPを稼いでいることになる。
それで死んでペナルティを受ける前に上級スキルを買ったというように。
だが、
「そう言えば、この男は一度も死んでいないのよね」
正確には初期、見たことも無いダンジョンに入っては死んで入口に戻るのを繰り返す以外では死んでいないはず。
本格的に活動を始めてからは、どれだけダンジョン配信をしても全く死なない。
それもまた、この謎の男が注目を集める理由の一つでもあった。
「……どうにかしてコンタクトが取れないかしら?」
ダンジョン以外では所在が分からず現実世界ではその姿を見た者はいないと聞く。
その他とは隔絶した圧倒的な実力と相まってダンジョン内に現れる魔物なのではないかと言われるほどの男。
もし仮にそんな人物に教えを乞うことができたのなら、あるいはその秘密の一端を知ることが出来たのなら、そう考えるダンジョン配信者は山ほどいるに違いない。
(今、アルバートが活動しているのは日本だったわね)
自らのダンジョン配信を休止してでも行く価値があるかもしれない。
そう感じた私は本格的に極東の島国へと渡航する準備を始めるのだった。
とある熱狂的なファンの反応
「きゃー! アルバート様ー!」
映像の中で中級ダンジョンの魔物を蹂躙する彼の姿を見て私は興奮を隠せない。
(私を助けた時は力を隠してたなんて! あの強敵の黒いスライムですら彼にとっては雑魚に過ぎなかったのね!)
それは敵が兵隊蟻から中ボスの軍隊蟻になっても変わらなかった。
それどころか最後の攻撃は何が起こったのかも分からなかった。
だってあれだけの炎にも耐えていた軍隊蟻が急に消滅してしまったのだから。
それも一体だけではなく、彼が一瞥した個体は例外なく同じ末路を辿る。
一撃どころか一瞬。
格の違いをこれでもかと見せつける勇姿に私は感動を禁じ得なかった。
(私もあのダンジョンに行ってみようかしら。もしかしたら会えるかもしれないし!)
迷惑かもしれないが、それでももう一度だけでもこの眼で彼を見てみたいという欲求を抑えきれなかった私は、次の彼の配信に合わせてそのダンジョンに向かう計画を決定した。
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