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第27話 幕間 サクラの王子様と違和感

 私、佐倉さくら あおいはもう何度見返したか分からない例の映像を飽きることなく見返していた。


 黒いスライムという見たことも無い強敵。


 ミドリとアスカという一緒にダンジョンに挑戦していた仲間を一瞬で仕留めた触手によって捕らわれた私は必死に抵抗したが、敵にはそれを意に介していなかった。


 だから本来ならすぐに私も仲間の後を追うはずだった。


 ダンジョン内では魔物に倒されてもロビーに戻るだけで死にはしない。


 DPを失うなどの多少のペナルティもあるが、それでも命を失うこととは比べ物にならない罰だろう。


 だからこの時の私は抵抗しながらも、目の前の魔物に倒されることを心のどこかで受け入れていた。


 目の前の敵は敵わない相手に諦めていたと言っても良い。


 だがそんな時だった。彼が颯爽と現れたのは。


(悲鳴が聞こえてからほんの数秒しか経ってないのに、なんて速さなの)


 アルバートという今まで名前すら聞いたことのない新人ダンジョン配信者。


 彼はその圧倒的な強さで、世間の話題を一気に掻っ攫っていった。


 ダンジョン配信を知る者で彼のことを知らない奴はいないのではないかと思われるくらいに。


 そのどこからともなく現れたダンジョン配信者の超新星は、スライムダンジョンで私の悲鳴が聞かれた瞬間、その悲鳴がする方へと迷うことなく走り出す。


 その速度はあのダンジョンカメラですら追いかけるのがやっとなくらい、とんでもない速さだった。


 その速さのまま彼は黒いスライムに捕らわれた私を見つけると助けるという宣言をした通り、腰に差していた剣を抜いて斬撃を放つ。


 私の四肢を捕らえていた複数の触手全てが斬り裂かれたというのに、あまりに速過ぎて剣を振ったのは一度にしか見えない。


 そして落下する私を助けた後の戦闘も圧倒的だった。


 彼を強敵だと認識したらしい黒いスライムは復活させた無数の触手以外にも身体から無数の触手を生やして、圧倒的な手数を持って攻撃を放つ。


 どうやら先ほどまでは手加減をしていたらしく、その触手の乱舞は明らかに威力も速度も別格だった。


 手加減していた状態でミドリ達を瞬殺したのに、そこから更に強化されたとなればそれは災害のような暴威を振るうはず。


 少し前に下級ダンジョンをクリアして、中級ダンジョンに挑むようになった私ですらまともに一撃すら見切ることの出来ない攻撃を前にしても、彼は余裕の態度を崩すことはなかった。


 それどころかスキルの一つも使わず、単なる剣技のみでその嵐のような攻撃を捌き切ってみせたのである。


 当然、その身体には傷一つない。


「ふう、そろそろ決めるか」


 呟かれた彼の言葉をしっかりとダンジョンカメラは拾っている。


 そしてその声が終わるのとほぼ同時に、彼の影が敵に向かって走る。


 そして次の瞬間には彼は黒いスライムとすれ違ったかのような場所へと移動しており、黒いスライムの身体は何かで斬られた傷ができていた。


 誰がその傷を与えたのかなんて考えるまでもない。そんなことが可能なのはきっと世界に一人だけなのだから。


 それでも黒いスライムは諦めず抵抗しようとするが、


斬撃スラッシュ


 発動した下級スキルによって今度こそその命を絶たれることとなる。


 彼が使った斬撃スラッシュは下級スキルの中でも格安のものだ。使用するMPも少ないことから、武器を扱う初心者が最初に得るべきスキルと言われている。


 その反面、発揮される威力などもスキルの中では弱く、あくまで初心者が他のスキルを獲得するまでの繋ぎとして使われる程度のものだ。


 だというのに彼の斬撃スラッシュの威力は尋常のものではなかった。


 それこそこれまではどうにか追えていたダンジョンカメラですら、その一撃に至っては何が起こったのか把握できなかったくらいに。


 いったいどんなステータスならそこまでの速度を出せるのか分からない。


 分かることは彼が圧倒的なまでに強いということのみ。


 そうして黒いスライムという尋常ならざる魔物を倒した映像の中の彼は、そのことを誇るでもなく捕らわれていた私の心配をしている。


「はあ、凄過ぎ」


 これだけの実力を誇りながら驕り高ぶるような様子は一切見せず、紳士的な態度を崩さない彼。


 それが仮に全て人気を得るための演技だとしても、あまりに素敵過ぎた。


「アルバート様……カッコいい」


 完全に虜となった私は自分と彼の配信を何度も何度も見返して、その活躍を脳裏に刻み込む。


 と、そこで少しだけ疑問が湧きあがった。


(……やっぱりどこにも彼は映ってないわね)


 彼とは最近、ダンジョン配信サークルに入ってきた伊佐木 天架という同い年の人物のことだ。


 初心者だが、真面目にダンジョン配信を学びたいとのことなので私達のグループにきたところまではいい。 


 だがその時の彼の態度は少し妙だった。


 最初、私のことをジッと見てきたのはまだ分かる。


 ダンジョン配信者として活動していく中で、そういう視線を向けられることはこれまでに何度もあったし。


 でも彼はその視線の理由をこのスライムダンジョンで私を見たからだと言っていた。


(でも私の配信のどこにも彼の姿は映ってないのよね)


 ダンジョンカメラは担当している配信者を中心に映すこともあって、それ以外の対象は配信に映らないことはあり得えなくはない。


 だけどアルバート様の活躍が他でも映っていないかと、私はその日のスライムダンジョンで活動していたと思われる配信者の映像を片っ端見返したのだが、その中にも伊佐木 天架という人物は見当たらないことに最近気付いたのだ。


「偶然かしら? 嘘を吐いてる感じではなかったけど」


 そのことに少し違和感を覚えたが、その時の私は大したことではないだろうとすぐに気にしなくなった。


 だってそんな事よりも憧れのアルバート様の配信を見返す方が大事だから。


 だから私は早朝に行われるという第二回の雑談配信に向けて、改めてアルバートチャンネルの動画を見返しに掛かるのだった。

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