第25話 ダンジョン配信者による交流会
次の日、俺はダンジョン配信サークルの集まりがあるというので顔を出すことに決めていた。
(そこが情報収集に役立つ場所なのか、早めに見極めるに越したことはないからな)
こちらには明確なタイムリミットがあるので無駄なことに現を抜かしている暇などありはしない。
だから俺にとって意味のない場所だと分かったら今後は近付かないつもりだった。勿論、行く意味がある場合は積極的に参加するつもりでもある。
そうして大学での講義を受け終えた後、俺はガクの案内で交流会の場所へと向かった。
「って集まり場所はファミレスなのかよ」
「仕方がないだろう。ほとんどのメンバーは学生だから店を貸し切ってパーティを開くなんて土台無理な話なんだから」
「まあそれもそうだな」
今のところダンジョン配信で十分な金を稼げるのはごく一部だと言われている。
しかもモノリスでは直接的に金銭が手に入ることはないので、金銭を手に入れるためには貴重品をモノリスで購入してからそれを現実世界で売らなければならないのだ。
それには手間が掛かる上に、余程のものでなければそう高く買い取ってもらえることはない。
換金率の高い金塊などは手に入れるのに少なくないDPが必要に設定されているのもそれを助長していると思われる。
(俺も薬を手に入れるためにDPは無駄にできないから金塊を購入するとかはしてないし)
そもそもそんな大量の金塊を売り出せば、どうやっても足がつくだろうから論外だろう。
そして大学生活と配信生活で精一杯なこともあってバイトも出来ず金がない。
日々の食事代などは親からの仕送りでどうにかしている始末である。
(これが今や世界に名を轟かせているアルバートの生活だとはな。ほんと泣けてくるぜ)
そんなことを内心で愚痴っていたら、ガクから既に店には近隣の大学などからサークルメンバーが集まっているようだと聞かされる。
「お、いたいた」
店に入ったガクが進む方向には三十名前後の集団が幾つかのテーブル席に分かれて座っているようだ。
「お、ようやく来たな、ガク。ってことは隣の君が噂の体験希望者のイサキか」
その中の一人、髪を編み込んだ一見するとヤンキーのようにしか見えない男が立ち上がってこちらに近寄ってくる。
「こいつはミナト。このダンジョン配信サークルの副代表だよ」
「ミナトチャンネルのミナトだ。今日は代表が来れないから俺がまとめ役みたいなもんだと思ってくれ。よろしくな、イサキ」
「ああ、よろしく」
ガクの紹介で挨拶を交わすと、そのまま何故か集団とは別の席に案内されてミナトと一対一にされる。
「急にこんなこと聞いて気悪くさせたら申し訳ないんだが、まずお前はどのくらい真剣にダンジョン配信をする気があるかを教えてもらえるか?」
「どういう意味だ?」
「そうだな、まずあの集団をよく見てくれ」
言われるままに離れた場所からガクもいるその集団を見ると、大半が飲み食いしながら楽しそうに話している。
楽し気に談笑している様子から仲が悪そうには見えず、ある意味ではどこにでもありそうなサークルの日常の光景が広がっていた。
だがよくよく観察してみると、その中にも幾つかのグループがあるのが窺える。
「ウチがダンジョン配信に少しでも興味がある奴を歓迎しているのはガクからも聞いているだろう? それ自体は悪いことだとは思ってないが、だからこそサークル内でも活動に対する熱意とかに差があるんだよ」
「……ああ、真面目に仲間と切磋琢磨してダンジョン配信をする、あるいはダンジョン配信についての情報収集の場と考えている奴らと、あくまで興味本位の奴ではそりゃ熱意とかに差が出るわな」
外からグループを観察している内に気付いたのだ。
スマホやパソコンを開いて真剣な様子で話し合っているテーブルもあれば、ただ楽しそうに話している集団もいることに。
前者はともかく、後者は学生が楽しそうに話して遊んでいるようにしか見えない。
いや、実際そうなのだろう。
「別に熱意の差があること自体はそれほど問題ではないんだよ。ただダンジョン配信そのものに興味がなくて、異性との出会い目的で来る奴も中にはいやがってさ。サークル内での恋愛を禁止にするつもりはないが、それだけを目的にされるとこっちとしては色々と困るのは分かるだろ?」
そこで前に配信者同士の繋がりを利用して、有名ダンジョン配信者と知り合いになることだけを目的に近づいてきた奴がトラブルを起こしたことも教えてもらった。
幸いそいつは面倒な話し合いの末に強制退会させて一先ず騒ぎは収束したそうだが、同じ面倒事は起こらない越したことはない。
「あとは活動に真剣な奴なら、早めにそういうグループに合流させた方が後々のトラブルが起こる可能性を減らせるってのもあるな」
「なら安心してくれ。俺は出会い目的のつもりは一切ない、情報収集が目的の奴だからな」
「そうか、なら後でそっちのグループに案内しよう。ちなみに俺もどちらかと言えば真面目側だから今後もよろしくな」
意外なことにミナトはこんなチャラチャラした見た目で熱意のある側らしい。
正直信じ難い。
そんな疑う気持ちが視線に込められているのに気付いたのか、あるいはこういう視線にも慣れているのかミナトは苦笑いを浮かべていた。
「派手な外見で視聴者の印象に少しでも残るようにしてんだよ。中堅以下はまず視聴者に興味を持ってもらわないことには始まらないからな。まあ学生の内に好きな格好をしておこうって気持ちもなくはないけどよ」
そうして簡易的な面談を終えた俺は改めてサークルメンバーに紹介されて、ミナトによってとあるテーブルに案内される。
恐らくはそこが熱意のあるグループなのだろう。
と、そこでそのメンバーを改めてその視界に収めた瞬間に俺は思わず静止してしまった。
何故ならその集団の中に、数日前に黒いスライムに襲われているところを助けた女性がいたからだ。
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