第7話 目的がそもそも違う
「……と太宰さんに言われたんですが」
「くっくっくっ。太宰もなかなか言うじゃないか」
犬猿の仲であるふたりが、口論を繰り広げている。にもかかわらず、なにも見えてないかのように優雅に朝食をとっている石川啄木に先ほど太宰治に言われた言葉の意味をたずねてみた。どこが面白かったのか謎だが、愉快そうに笑い出す。
「どういう意味なのか分かるんですか? ってなんです、その手は?」
「いや、教えを乞うのであれば相応の対価を頂戴しようかと」
「以前貸した5,000円、まだ返してもらってないですけど?」
「それは別の話だ。今は君の気持ちを値段で表してはどうかと聞いている」
「じゃあ4,000円にまけてあげますよ。それでいいですか?」
「3,000円で手を打たないか、どうかこの通り」
「しょうがないな……わかりました」
そう返事をしたら、メモ帳を取り出し、なにかメモを始めた。
「なにをしているんですか?」
「僕に頭を下げさせた連中のリストだよ、君の名前も書きこんどいた」
「なにそれ怖い……なんに使うんですかそんなの」
「詩に書こうと思っているだけだよ、気にしないでくれ」
気にしないでと言われてもあれって明らかに報復リストみたいなモンでしょ? 相手の目の前で書く普通?
「太宰が砂粒だと評したのは、君の“ことば”があまりにも軽いからだよ」
「つまりどういう意味ですか?」
マジか? また手のひらを出したよこの人……。
もういいや。あとは自分で考えてみよう。「もう結構です」と石川啄木に告げて、食事を早々《はやばや》と済ませ、チャイムが鳴る前に自分の部屋へと戻った。
オレの“ことば”が軽い?
ライトノベルって10代の子達が手軽にサクサク読めるようになっている。平易な言葉で、面白い設定と展開が求められるから、言葉は当然軽くなるけど?
そうか、この人たちって難解な言葉を使って社会的な意義を作品の中で見出そうとする。そもそもラノベ作家のオレとは目標が違うから意見が合わないのか?