第4話 昭和レトロな追い込み
朝食の時間は、食堂で誰も口を開こうとしない。
──また執筆の時間がやってくる。
それは、ここが地獄なのではと疑いたくなるような追い込みをかけられるから。
学校のようにチャイムが鳴ると、重いカラダを引きずって自分の部屋へ散っていく。
部屋のドアを開くと、編集者が正座して待っている。
なにも言わず、座卓に腰を下ろし、意識を目の前の原稿用紙に集中する。
カリカリカリカリ……カリ……。
次の表現をどう書くか悩み筆が止まると、自然と後ろの編集者の視線が気になり振り向く。しかし、彼は正座したまま、手に持っている本に視線を落としていてホッとする。
だが、「先生、どうかしましたか?」と視線を本に向けたままで問いかけてきた。
なんでもありませんと返事をして再び、原稿用紙に向き合うと、背後でチリチリと違和感を感じる。バッと急に振り返ると、編集者がコチラをジーっとみていた。
「なんですか?」「いえ別に」と会話が一往復して途切れると、沈黙が流れる。
気まずくなって、トイレに向かうと編集者もついてくる。
編集者はさすがにトイレの仲間ではついてこないが、便座の前の扉には、「執筆頑張ってください」と張り紙がされている。
そして5分くらいすると、「先生大丈夫ですか?」と心配するフリをして声かけをしてきた。
ちなみに部屋の寝る布団の真上にあたる天井にも「今日はちゃんと書けましたか?」と紙が貼られていて、浴場や食堂にもあちこち似たような張り紙がされていて、気持ちが休まらない。
「うわぁぁぁぁ」
廊下から叫び声が聞こえた。
慌てて廊下に出ると、太宰治が「もう入水したいィィ、川……、そうだ川がいいィィィ」と叫び暴れているが、ゴツい編集者に襟を掴まれ、自分の部屋へ引きずられていった。
よくある光景、この3日間で10回は見た。