第3話 クズと呼ばれる理由
「やい、てらてら」
「なんだね? 青鯖顔」
今日も始まった太宰治と中原中也の舌戦。
ちなみに石川啄木は、素知らぬ顔で食事をしている。
ふたりは年が近く、生前から仲が悪かったそうだが、酒を飲んで中原中也が酩酊し始めると、ふたりのバランスは一気に傾く。
食堂ではお金さえ出せば、酒も提供してくれる。
また、一階の廊下には現代でも割と最先端なさまざまな自販機が並んでいて、ビールなどの酒類を始め、ピザやおでん、ラーメンなんてものまで売られている。
中原中也は、物に当たるが、直接暴力は振るってこない。目の前でボクシングの動画を見慣れたオレからしたら素人同然で、握った拳の甲を相手にみせて口で「シュッシュ」とやっていて、はっきり言って強そうにはみえない。
相手の暴力性が増すと急に意気消沈して、部屋に逃げていく太宰治。それを追いかけていく中原中也。ほぼ毎日同じことを繰り返している。
「お金を貸してくれないか?」
急に石川啄木が口を開いた。
彼はこの閉鎖されたヴァルハラ荘のなかで、お金を何に使うのか、口を開くたびに無心してくる。
「いえ、来たばかりでまだお金をもらってないので」
「では、お金が支給されたら貸してくれ」
「それ、何回も聞きましたけど」
「貸してくるのか、貸してくれないのか?」
「貸しますよ、どれくらい必要なんですか?」
「キミの支給されたお金すべて」
「いやいやそんな無茶な」
こういったやり取りも何度やったことか……。
ちなみに太宰治は、女性をみると持病が発症するらしく、彼のせいで、ヴァルキリーはおろか、このヴァルハラ荘のスタッフはムキムキの野郎ばかりだ。
彼らが現代でも三大クズと呼ばれている意味を実感できたかも。