第2話 三人の文豪
くっそぉ。
なんだここは?
ぜんぜん北欧神話大系でもハーレムものでもないやんか。
交差点でオレをつかまえたのは可愛いツンデレ系のヴァルキリーとは、真逆のムッキムキの筋肉が油でぬめり輝いている男三人だった。神輿よろしくと担がれて、無理やり連行されてきた。
204号室と書かれた部屋の中は、6畳間で窓側に座卓があり、その上に筆記用具と束になった原稿用紙が置かれている。
部屋に放り込まれると、ゴツくて、むさ苦しい3人の男たちは去り、入れ替わるようにヒョロ長いという言葉がピッタリな男がやってきて、オレの担当編集者だと名乗り、ここのルールの説明を始めた。
1)午前8時から夕方5時までは執筆する。トイレや食事以外は部屋で過ごす。
2)原稿1枚につき500円支給する(ただし家賃、光熱費などをは天引き)
3)ここヴァルハラ荘から出所するには、自身の「最高傑作」を書きあげる。
4)1作品10万字程度にする。
──これだけ?
これくらいなら簡単に書ける。過去にも1ヵ月くらいで10万字を書き上げたことがあるので問題ないと思う。
......なんて思っていた自分がバカだった。
原稿用紙に書くのがいかに大変なのかということを思い知った。
修正がとにかく大変で、修正があまり入らないように頭の中で文章を組み立てて書かなければならないため、パソコンやスマホで執筆するより恐ろしく手間と時間がかかる。
ところで、ここへきて3日になるが、食事の時間に食堂にすごい顔ぶれが揃っていたので、驚いた。
太宰治、中原中也、石川啄木……。
みんなオレが生きていた時代では、いわゆる近代文学において、その名を残す「文豪」と呼ばれる人たち。