おじいさんからのプレゼント
冬童話のために書いた小説です。
「リオン君、クリスマスの夜、手伝ってくれるかな」
中学二年生のリオンは、アルバイト先のおもちゃ屋の店のおじいさんから声を掛けられました。毎年、このおもちゃ屋では、クリスマスの夜、プレゼントを家に届けるサービスをしています。いつもは店のおじいさんが一人で届けていますが、今年はリオンに手伝ってもらうつもりです。
「いいですよ、どうせ暇だし」
「そうか、じゃあ、僕と一緒に、子供たちにプレゼントを配ってね」
「はい、今年のクリスマスは、僕がサンタさんになります」
「そ、一緒にサンタさんやろうね」
店のおじいさんはうれしそうな顔でリオンを見つめました。リオンもおじいさんに笑顔を返しました。
リオンは5歳のときにお母さんが亡くなり、継母に育てられました。継母とうまくいかず、学校へ行っても友達ができず、いつもおもちゃ屋を手伝ってお小遣いをもらっていました。重たいものを持ったり掃除をしたり、大変だったけれども、好きなおもちゃを見ていることが楽しいのと、優しいおじいさんと一緒にいることが幸せだったのです。そしてまた、リオンは、ショーウインドウに飾ってある怪獣のぬいぐるみが好きでした。怪獣のまわりはとくに丁寧に掃除していました。いつかお小遣いをためて怪獣のぬいぐるみを買うために、店の仕事を頑張っていました。
クリスマスの日、リオンは学校から帰ってから店に行くと、山のようにプレゼントが置いてあり、おじいさんは車の荷台にプレゼントを積んでいました。
「リオン君、手伝って」
「はい」
リオンはおじいさんに並んで、プレゼントを積み込みました。
「ありがとう、リオン君。夕食が済んだら、各家庭にプレゼントを届けるからね」
「はい」
そして夜になると、おじいさんはリオンをレストランに連れて行きました。
「今日は忙しくなるから、たくさん食べて」
リオンは、自分からは注文しませんでしたが、おじいさんがたくさんのごちそうを注文し、自分はほとんど食べないでリオンの前にごちそうを並べてくれました。こんなにおいしいのに残したらもったいないと、リオンはきれいに全部食べました。夕食後、リオンとおじいさんはサンタ服に着替えて、一緒に車に乗りました。おじいさんが運転して、届ける家の前に停まると、おじいさんの言う通りにリオンがプレゼントを窓辺や軒先に置きました。子供たちはパーティーに疲れて寝入ったり、中にはプレゼントを待ちながら無理して起きている子もいて、リオンサンタを見て喜ぶ子供もいました。リオンは、子供たちの笑顔を見ると、楽しくなりました。
山のようにあったプレゼントは徐々に減っていきます。寒くて暗いはずなのに、街のあちこちでイルミネーションが光り、大人たちは賑やかにパーティーを楽しんでいます。いつもより華やかな夜道をおじいさんの車が走り、最後のプレゼントが終わると、店まで戻ってきました。
「僕、帰ります。お疲れ様でした」
リオンは服を着替えた。
「まだ帰っちゃだめだよ、最後のプレゼントが残ってるよ」
「えー」
疲れていたので、ちょっと嫌な顔でおじいさんを見上げました。おじいさんは、怪獣のぬいぐるみが飾ってあるショーウィンドウを指差しました。
「これだよ」
リオンは、とうとうこのぬいぐるみが誰かの物になってしまうのかと、ちょっと寂しい気持ちになりました。それでも、おもちゃを売るのが仕事です。
「どこに届けるんですか?これ1つだけなら、僕が歩いて届けてきますよ」
リオンが再びサンタ服に着替えようとすると、おじいさんはリオンの両肩に手を当てました。
「これは君のものだよ。僕からのプレゼント」
「僕の…」リオンは嬉しくて、おじいさんに頭を下げました。「このぬいぐるみ、欲しかったんです」
「ぬいぐるみだけじゃないよ、この店全部だよ」
「はい?」
リオンは何のことを言っているのか理解できません。おじいさんは続けました。
「君は継母に育てられて、つらい思いをした。それでも、この店で働いてくれて、頑張っている。僕はもう年老いて、店を続けるのは大変だから、君についでほしい」
「あ、ありがとうございます」
「僕の息子になってくれ、リオン」
「おじいさん」
二人は本当の親子のように抱きしめ合いました。そして、この日は一旦家に帰り、少ない荷物を持って、おじいさんの店に戻りました。おじいさんは、リオンに部屋を与えて、ここで暮らすようにと言いました。
リオンは、今まで以上におもちゃ屋を手伝いながら、おじいさんと一緒に楽しく暮らしました。おじいさんはリオンに、商品の仕入れや帳簿の付け方など、店のことを教えました。覚えられないくらい大変なときもありましたが、おじいさんがいなくなってもリオンが一人で店をやれるようにと根気よく教え、リオンもまた頑張って覚えようとしました。
それから三年後、おじいさんは亡くなりました。 リオンは一人で何でもできるように成長していました。そして、怪獣のぬいぐるみをおじいさんだと思って、いつまでもショーウィンドウに飾って大切にしました。
読んでいただいてありがとうございました。