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星降る森の三日月 ~ただの巨大な子猫です~  作者: 三国司


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人間に会ってみよう(1)

 ケンタウロスたちと知り合いになった私は、それから時々彼らに遊んでもらうようになった。ケンタウロスって足が速いから、追いかけっことかすると楽しいんだよね。

 アデスを始めとした子供たちは私と喜んで遊んでくれる。一方、大人は「やれやれ」って感じで相手してくれてるけど、種族の違う私にも優しい。筋肉ムキムキで一見怖そうなケンタウロスのお兄さんとかも、誘うと遊んでくれたりするのだ。

 ケンタウロスは警戒心が強くて排他的だけど、幼い上に猫な私のことはあまり警戒していないようだ。


「もうごはんの時間だって。三日月も一緒に食べる?」


 この日一緒に遊んでいたケンタウロスの子供――アデスは、遠くから母親に呼ばれると私の方を振り返って尋ねてきた。

 三日月っていうのは、ケンタウロスたちがつけた私の名前だ。私の胸元に白い三日月マークがあるからそう名付けたんだろう。分かりやすくて綺麗な名前だし、私も気に入ってる。


「ミャ」


 私は短く鳴いて首を横に振ると、アデスの申し出を断った。特にお腹は空いてないからいいや。このまま散歩でもしてくるよ。


「そっか。じゃあまた遊びにきてね。いつでも待ってるよ」


 アデスは私の大きな体をぎゅっと抱きしめてから、お母さんのところに戻っていく。まだ私を飼うことは諦めていないらしいが、母親からの許可が一向に下りないようだ。まぁアデスが飼っても結局なんだかんだで私の世話をするのはお母さんになるだろうからね、お母さんは渋るよね。

 というか私も別に飼われるつもりないからね。

 

 自由を愛する私はアデスと別れると、気ままに歩いて散歩を始める。

 ちなみにケンタウロスは基本的には果物や木の実を食べているらしい。たくましい体をしてるから肉を貪ってても不思議じゃないけど、下半身は馬だからか草食みたい。

 

(今日はどこへ行こうかな)


 森は広く、毎日散歩している私でもまだ行っていない場所はたくさんある。と考えたところで、そういえば森の外にも行ったことがないなと思いつく。

 でも好奇心旺盛な子猫である私でも、さすがに生まれ育った森の外に出るのはちょっと怖い。森の中のことについては色々な知識を持っているけど、人間がたくさんいるってことくらいしか外のことは分からないし。


 あとは、この星降る森は五つの国に囲まれているってことも知ってる。そのうちの一つは竜人の国で、私くらい大きなドラゴンっていう生き物も存在しているはずだ。

 でもドラゴンに会うのも少し怖いな。大きさで優位を取れない相手にはびびっちゃう。


(竜の国は避けて、とりあえず森の端まで行ってみようか)


 竜の国は北の方にあるからそっちはやめて、西に行こう。今いる位置から森の端に行こうとすると、西の端が一番近いから。

 そう決めると、私は森の中を小走りで進んでいく。途中でシカの群れに出会ったり、サルみたいでサルじゃない妖精のようなものが悪戯しようと私の背中に飛び乗ってきたから驚いてひっくり返ったらその妖精を潰しちゃったりとかしたけれど、順調に西の端に着いた。

 サルの妖精は潰しちゃった後でさらさらと砂のように消えちゃったから、つまり死んだってことみたい。スマン。


 森が途切れている場所で、私は木と木の間からひょっこり顔を出して外をうかがう。今は外は春だから、一年中暖かな森の中との気温差もほとんどない。

 森の外に一歩出たら人間がいるということもなく、そこには穏やかな平原が広がっていた。ちらほらと花が咲いて、蝶が飛んでいたりする。思ったより平和な感じで拍子抜けだ。

 遠くには家がたくさん見えるから、あそこまで行くと人間の住む村や町があるのかな。


(なーんだ、つまんない)


 誰もいないので、私は森から出て外周に沿って歩き始める。


(人間いないかなー)


 森の外は別に怖くないと分かると、一気に警戒心がなくなって好奇心が顔を出してくる。ここまで来たら人間に会いたい。

 するとそれほど歩かないうちに、森のそばに建っている小屋が見えてきた。しかし小屋と言ってもそこそこ大きく、誰かがそこで寝泊まりしていそうな雰囲気だ。


(人間、いるかも)


 私はわくわくとしっぽを立てて、こっそり小屋に近づいていく。小屋には窓があったので、とりあえずそこから中を覗いてみた。

 すると中にはお揃いの制服を着た人間のおじさんが三人いて、椅子に座って談笑していた。一人は剣を研ぎながら、二人はコップに入れた飲み物を飲みながらだ。


(ここに住んでるのかな?)


 大きな目で中を覗き込む私。すると、窓から入ってくる光が遮られて部屋が暗くなったことで、おじさんたちも異変に気付いてふとこちらを見た。

 そして見ると同時に悲鳴を上げる。


「うあああッ!?」

「何だっ!?」

「森の魔物だ! でかいぞッ!」


 おじさんたちは慌てて立ち上がって武器を取り、外に出てくる。しかし巨大な私を改めて目にして、剣などでは太刀打ちできないと思ったようだ。顔面蒼白になりながら焦った様子でポケットを探る。


「こ、こんな時のために魔力星を貰ってるんだ。こいつを食えば魔法が使える」

「ああ。貴重な星だが、こんな時に使わないでいつ使う」


 各々紫色の星を取り出すと、おじさんたちはそれを自分たちの口に入れようとした。

 が、もしかして攻撃してくるつもりかなと思った私は、「ミャーン」と可愛く鳴いて無害をアピールする。攻撃されたら痛いし、痛いのはヤダ。

 

「ミー」

「な、なんだ……?」


 おじさんたちはまだこちらを警戒しているようなので、ひっくり返ってお腹を見せる。


「ひっ」


 しかし巨大な私はごろんと転がるだけでも人間を驚かせてしまうらしく、おじさんたちは息をのんで数歩後ろに下がった。お腹を見せて警戒心を解く作戦は失敗だ。

 セイレーンとか木のおじさんとかは結構簡単に油断してくれたけど、人間たちは私みたいな不思議な生き物に慣れていないからか警戒を解くのは難しそうだった。


「お、大きな子猫のように見えるが……」

「油断はするな。愛くるしい顔をしていても魔物は魔物だ。森の生き物は危険だぞ」

「何よりでかいしな……」


 おじさんたちは私のことを怖がっているようだったので、私はゆっくり起き上がって踵を返した。

 人間を見られて満足したし、今日はこれくらいにしておこう。


「ミャーン」


 後ろから攻撃しないでね、と振り返って鳴きつつ、私はトテトテ歩いて森の中に戻った。


「何だったんだ……?」

「分からん」


 おじさんたちは背後でしばし呆然としていたのだった。


 その後、また森の外周に沿ってしばらく歩いた。景色はほとんど変わらず、原っぱが続いている。森には危険な生き物も多くいるからか、人間たちは森のすぐそばに村を作ったりはしないようだ。


(さっきのおじさんたちは何だったのかな?)


 人間のことはよく分からないけど、おじさん三人であの小屋に住んでいたのだろうか? 家族っていうやつか? 歳は近そうだったから兄弟かな。

 

(でもお揃いの制服を着てたから軍人かな?)


 森に関する知識と比べるとかなり乏しいけど、私の中には人間に関する知識もあるにはある。国を守って戦ったりする人のことを軍人っていうのは知ってる。

 そして彼らが軍人だったなら、あそこは監視小屋みたいなものだったのかもしれない。人間たちは森に降る星を欲しがるから、一般人が勝手に星を取っていかないように見張ってるとか、あるいは魔物が森の外に出て行かないように警戒してるとか。

 

 なんて考察してみたけど、猫の私には関係ないことで、実はわりとどうでもいい。

 フンフーンとご機嫌に鼻を鳴らしながら散歩を続ける。今日も天気がいいなぁ。

 ちなみに一年中温暖なこの森だけど、雨に関しては森にもたまに降る。私は体が濡れるのが嫌いなので雨も苦手だ。


 そうして歩いていると、普段は嗅がないような匂いを嗅ぎ取って私は足を止めた。

 これは木のおじさんを炎上させた時と似たような匂いだ。煙い。

 どこかで木が燃えているのかと、私は匂いを辿って森の中に入っていく。今のところ匂いはかすかなものだから、木が燃えているとしても炎は小さいだろうけど、他の木にも燃え移って森が火事になったら大変だ。


 すると森の中を私の足で五分ほど進んだところで、こじんまりとした木造の家を発見した。家には煙突があって、そこから煙が出ていたので、私が嗅ぎ取った匂いはあの煙に違いない。

 家は少し開けた場所にあったけど、周囲の木がいくつか伐採されて切り株になっているので、家主が自分で切り開いた部分もあるのだろう。

 家のそばには小さな畑があって、畑とは家を挟んで反対側にはヤギが三匹繋がれている。そのうちの一匹はまだ子供で、角もなく、脚の毛がふわふわしていてなかなか可愛い。私ほどじゃないけど。

 

 そして家主は、家の前でこちらに背を向けながら斧で薪を割っていた。さっきの小屋にいたおじさんたちよりさらに少し年上らしき人間の男の人だ。

 髪には白髪も混じっているけど、体格は良く、若々しい感じもする。たぶんおじいさんってほどではない。

 服装は白いシャツに茶色いズボン、ブーツを履いている。


(木こりかな?)


 迷いやすく危険なこの森では、今まで人間の木こりも見かけたことないけど。

 

(しかも森の中に家まで作って)


 いつ危険な魔物や悪戯好きの妖精に襲われるかもしれないのに、物好きな人間もいたものだ。

 少し離れたところから見知らぬおじさんを眺めていたら、相手も気配を感じ取ったのかこちらを振り返った。

 そして振り返ると同時に私の大きさに驚いて目を丸くする。


「……これは驚いたな。足音は聞こえなかったが」


 だけど声はわりと冷静だった。さっき出会った小屋のおじさんたちより落ち着いている。

 そして私って体の大きさの割には静かに歩けるんだよね。肉球というクッションがあるから、そっと歩けばほとんど足音はしない。


 こちらを向いたおじさんは結構整った顔立ちをしていた。砂色の短い髪は無造作に後ろに撫でつけている。髭もあるけど手入れされていて不潔な印象は抱かなかった。

 肌にはしわもあるが若く見え、一方で威厳もあるように見える。

 動物の勘なのか、誰かと対峙した時に相手の強さとか器の大きさとかを何となく感じるんだけど、この人は私より上だ。

 私が広いだけで浅い透明な泉だとしたら、このおじさんは深くて綺麗な青い泉だ。私みたいに底が透けて見えることがなく、力量を図り切れない。


 本能的に格上の相手であることを感じ取って、私は一歩後ろに下がった。

 するとおじさんはそんな私の様子を見て笑みをこぼす。


「すまないね。子猫相手に威嚇をしたつもりはないのだが」


 おじさんはまるで普通の子猫を相手にするように言うので、こちらが戸惑ってしまった。確かに私は子猫だけど、大きいよ?

 どうやら木こりではなさそうだし、おじさんはもしかしたら自分の戦闘力に自信があるのかもしれないけど、それにしたって多少は怖がったり警戒をしてもいいのに。

 おじさんは深い青緑色の瞳でこちらを見て言う。


「お前は、巨大猫ギャンピーだね?」

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