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星降る森の三日月 ~ただの巨大な子猫です~  作者: 三国司


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 日が落ち、この不思議な森にも夜が訪れる。

 森には幻獣や妖精もいれば、普通の動物たちもいる。野ウサギやリス、鳥なんかはよく見かけるし、今もどこかでフクロウが鳴いている。

 夜になっても森の中は完全には静かにならない。夜行性の動物や幻獣たちが動き出すからだ。

 私は夜目がきくけど、やはり昼間の方がよく見えるので、動き回っているのは昼間の方が多いかな。眠くなったら寝る、という生活をしているので、自分を夜行性だとは思ってない。


 だけど森の中の適当な場所で寝ている昼間と違って、夜は一応ちゃんと自分の寝床に戻って眠っている。

 今も暗闇の中、木々の間を通り抜け、私は森の中心に向かっていた。この森は広大だし、道らしき道もないので人間が入り込んだらまず遭難してしまうけど、私は迷うことはない。頭の中に地図が入っているような感覚がある上に、方角も分かるのだ。

 だから昼間、森のどこにいても、夜には自分の寝床に戻ってこれる。森の端の方に行っていて中心部まで戻るのが面倒だったり時間がかかる場合、寝床に戻るのは諦める日もあるけどね。


 森の中心までやって来ると、私が見上げるほど大きく、私の胴体よりもずっと太い幹を持つ古い木が現れた。この木は、たぶん森の中で一番巨大な木だ。

 枝をあちこちに広げて葉を茂らせているが、隙間もたくさんあるので、木の根元でも昼間は木漏れ日が降り注ぐ。

 枝には鳥やリスやたくさんの動物たちが巣を作っていて、何と言うか、森の生き物たちを包み込むような優しさを持っている木だと思うのだ。

 森にはセイレーンやゴブリンのように悪さをする奴もいるけど、たぶんこの木はそんな存在のことも受け入れている。

 

 古い木だし、この森に主がいるとしたら、それはきっとこの木なんだろうなと思う。

 葉は何の変哲もない緑色で、変な果実が生るわけでもない。もちろん喋らないし動かないし、大きくて古いだけで普通の木だろうけど、何か特別なものを感じる。


 そして私の寝床というのは、この巨木の根元だ。地面から顔を出している根のうちの一本が、何故かちょうどいい具合にくるんと丸まって円を描いていて、そこに私の体がすっぽり入るのだ。私も体を丸めて入ると、包まれている感じがあって安心する。


 今日はセイレーンたちを倒すことができたし、非常に満足した気持ちで眠ることができるなと思いながら、私は寝床に腰を下ろした。

 昼間、泉に落ちて濡れた毛皮は、一生懸命毛づくろいと日光浴をしてほとんど乾いた。

 だけどもう一度就寝前の毛づくろいをして体を綺麗にすると、大きな木の根元で、私は気持ちよく眠りについたのだった。


 

 まだ日が昇り切らない早朝に目を覚ますと、私はむくりと起き上がり、巨木の周りを駆け回る。朝方と夕方辺りはやたらテンション上がっちゃって元気になるんだよねぇ。普通の猫もそうなのかな?


 散々走り回って気が済むと、私は巨木の木の根元に座って前足で顔を洗った。ついでに大きな肉球もザリザリ舐めて綺麗にしておく。

 気づけば朝日が森に差し込んでいたので、私はのそのそと歩いて寝床から離れた。

 今日はどこに行こうかな。森は広いから、まだまだ行っていない場所はたくさんある。昨日セイレーンに出会ったように、新しい生き物に会えたら楽しいんだけどな。


 できれば危険じゃない生き物の方がいいけど、こちらに危害を加えようとしてきても大抵は私の方が強いだろうし、特に不安はない。

 例えばドラゴンとかがいたら私でも負ける可能性は高いけど、この森には野生のドラゴンはいないのだ。私の頭の中の知識がそう言ってる。この世界にドラゴンはいるけど、この森にはいないって。


 フンフンと鼻歌でも歌っているかのように、足取り軽く森を歩く。ゆるく立ち上がったしっぽは周囲の木の枝にバシバシと当たりまくっている。私が進む先には目が三つある蛇が枝からだらりと上半身を垂らしていたけれど、慌てて逃げて行った。

 蛇だって私と同じくらい大きくなくっちゃ脅威にならない。ただの子猫でも大きいというだけでほとんど無敵になるから、大きいことはいいことだ。私が普通サイズの子猫だったら毎日外敵に怯えて暮らしていたか、あるいはとっくに死んでいただろう。


 と、そんなことを考えながら歩いていると、視界の端で何かがキラリと光った気がした。それと同時にある〝気配〟を感じる。

 生き物の気配ではなく、何かがそこにあるという存在感が伝わってきたのだ。


 生まれて半年、こういう経験は何度かしてきた。生き物がいるわけじゃないのに、森を歩いていたら何らかの気配を感じる、という経験。

 そしてこの気配を感じた場合、周囲を探せば必ず〝星〟が見つかる。


 今も私は存在感を放ちながらキラリと光る物体に駆け寄り、草をかき分けてそれを目に映した。

 これは星と呼ばれるもので、サイズは殻付きの胡桃よりちょっと大きいくらい。丸くて滑らかだけど少し凹凸があるところも胡桃の殻に似ている。

 だけど星は半透明で、淡く光っていてとても綺麗なのだ。不純物は混じっていなくて濁りもない。


 色は、私の目の前に落ちているものは半透明の金色で、太陽の光を受けて美しく輝いている。

 あとはもう一つ、半透明の紫色のものもあるけど、この周辺にはその気配はない。ここに落ちているのはこの金色の星だけみたい。


「ミャウ……」


 私は大きな前足で金色の星をちょいちょいと転がし、草の中から土の地面の上に出した。でも転がして遊ぶにはちょっと小さ過ぎるし、やっぱり綺麗なだけで私にとっては価値のないものだ。

 

 だけどこの森に降る星は、人間を始めとした他の生き物にとっては貴重な存在で、欲しいと思っている者も多くいる。

 何故なら星には不思議な力があって、〝命星いのちぼし〟と呼ばれる金の星を食べると生命力を得ることができて体に力が満ち、疲労も回復する。怪我が治ったり、病気も一時的に症状が和らいだりするのだ。

 そして〝魔力星まりょくぼし〟と呼ばれる紫の星を食べると、その名の通り魔力を得る。人間のように魔力を持たない種族でも、魔力星を食べれば魔法が使える。

 命星や魔力星を食べると、一時的にパワーアップできるのだ。


(この森が普通の森と違うのは、星が降ってくるおかげ)


 私は空を見上げて思った。星は半年に一度、ゆっくりとこの森に降ってくる。

 星は人間が取っていったり、幻獣や妖精、動物が食べてしまったりするけど、それでも地面に残ったものは、次の星が降る頃――つまり半年後には土や植物に吸収される。

 だからこの森は季節関係なくいつも豊かなのだ。葉はいつも青々として、常にどこかで花が咲き、常にどこかで実がなっている。


(私が食べたらどうなるかな?)


 再び地面に視線を落とし、金色の星を見つめて考える。猫は好奇心旺盛な生き物なのだ。

 とりあえず鼻を寄せて匂いを嗅いでみるが、特に何の匂いもしない。


(まぁ、食べても悪いことは起こらないだろうし)


 私は大きな舌を出して、地面に転がる小さな星を舐め取った。

 すると、命星は舌に触れた瞬間、口の中でほろりと崩れてなくなってしまう。一瞬で溶けてしまったのだ。


「ミャ……」


 私は眉根を寄せて微妙な顔をした。舌の上には爽やかな甘みが残っている。それに何だろう、胃の辺りがポカポカしてきて、体が熱くなってきた気がする。


 そして次の瞬間、私の心臓がドクンと力強く鳴った。 


 体中にエネルギーが満ち溢れ、渦巻いているような感じがする。じっとしていられないような、今すぐ走り出したいような気持ちで気分はとてもいい。今なら何でもできそうな気がする。

 止まっていると足がウズウズするので、私は辺りをぐるぐる駆け回った。筋肉が躍動し、血管には熱い血が流れているのを感じる。


(体が軽い! 走るのって気持ちいい! なんて爽快なんだろう!)


 このまま永遠に走り回っていられそうだ。きっと今、私の瞳は生命力に満ちてキラキラと輝いているに違いない。走るの楽しー!

 続けて私は、なるべく太く大きな木を選んで爪とぎをする。私の大きな爪でガリガリと削った木の幹にはたくさんの傷がついてしまったが、いつかこの木も命星を吸収することがあれば傷はなくなるだろう。爪とぎも楽しー!


(最高ー!)


 全力の爪とぎに飽きると、意味もなく森の中を駆け回り続ける私。どれだけ走っても疲れない。猫なのにイノシシみたいに勢いよく駆ける私にびっくりして、森に住む鳥たちも、狐も鹿も、小さな妖精たちもゴブリンも、みんな慌てて逃げていく。巨大な子猫が爆走してきたらそりゃ怖いだろう。


 ヒャッハー! とはしゃいでいる私がいる一方で、頭の隅にはどこか冷静な私がいて、その私がため息をついて言う。

 命星でも魔力星でも、食べたらその分、こうやって生命力や魔力を発散させないといけないから次からは食べちゃいけないよ、と。

 特に命星は元気な私が食べたらもっと元気になるだけみたいだ。身を持って体験した。


「ミャァァァァ!」


 誰も止めてくれる人はいないので、私は命星の効力がなくなるまで森の中を走り続けることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] デッカイ子猫、可愛いですね! セイレーンに猫パンチ、可愛い〜♡ ベシベシッ!! ( ;゜皿゜)ノ☆() ̄o~)ノノ アゥゥ!
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