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星降る森の三日月 ~ただの巨大な子猫です~  作者: 三国司


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ドワーフとチーズ(1)

 遭難していたリセたちを助けた翌日、私は結局、彼女たちの見送りには行かなかった。森の端まで行くのが面倒で、「行こうかな、どうしようかな」と迷って一日中ごろごろしてたらいつの間にか夕方になっていたのだ。猫なんてこんなもんだ。

 でも召喚獣契約を結んだんだから、そのうちまた会えるしね。


 そしてさらにその翌日、私は森を歩いているケンタウロスたちに偶然出くわした。

 ケンタウロスたちは大人の男の人ばかりで、全部で十人以上いる。私ほどではないけどケンタウロスたちも背が高く、つま先から頭までは二メートル以上あるし、ムキムキマッチョで肌は褐色で精悍、そんな男たちが群れを作ってぞろぞろ歩いていたら、さすがの私もちょっとビビる。

 しかも彼らは今、みんな手に槍を握っていた。


「ミャーン」


 攻撃されないように、少し離れたところから可愛く鳴いて声をかける。どうも私ですー。無害な子猫ですー。


「おや、三日月か」

「一瞬、魔物かと思ったぞ」

「思わず槍を投げるところだった」


 物騒なことを言っているケンタウロスたちに近づき、彼らのおでこに順番に鼻でタッチして挨拶していく。猫同士なら鼻と鼻をくっつけて挨拶するのだが、上半身が人間のケンタウロスの鼻は小さいのでおでこにしている。

 あとは、親しくても自分より格下だなと思う相手――ケンタウロスの子供とか――には私からは挨拶しないことも多いが、今ここにいる彼らは強そうだから思わず鼻をくっつけてしまった。目上の人への挨拶、大事。


「ミャウ」


 何してるのー? と尋ねながら、彼らが手に持っている槍の匂いをフンフンと嗅ぐ。新鮮な血の香りはしないけど、魔物の血が染み込んでいるのか、鼻をつく嫌な臭いがした。ケンタウロスは動物を狩ったりはしないけど、自分たちに危害を加えてくる魔物に対しては容赦しないのだ。

 フン! と鼻から息を吐き、嫌な臭いの槍から顔を背ける私に、ケンタウロスの一人が言う。


「あまり槍に顔を近づけると危ないぞ。ドワーフの武器は頑丈で、刃はよく切れるからな」


 ドワーフという言葉を聞くと同時に、私の頭にひげを蓄えた小柄なおじさんの姿が浮かび上がる。

 ドワーフとは星降る森に住む幻獣の種族だ。この森には、人間に近い姿をした幻獣は三種族いる。ドワーフとケンタウロス、そしてエルフだ。

 この三種族は知能も高く、大勢の仲間と一緒に里を作って暮らしている。


「これから俺たちはドワーフの里に行くんだ。この槍の手入れをしてもらいにな」

「壊れた槍も直してもらうのだ」


 そう説明すると、ケンタウロスたちはドワーフの里に向かってまた歩き始めた。


(ドワーフの里かぁ)


 そんなに興味はないけど、暇だから私もついていく。


「三日月も来るのか?」

「ドワーフたちを驚かせないように大人しくしているんだぞ」

「ミャーン」


 しっぽをピンと立てて返事をすると、ケンタウロス集団の後に続く。

 ドワーフの里までは一時間ほどかかって、途中で私は移動に飽きて離脱しようかとも思ったが、ケンタウロスたちに励まされて結局最後まで一緒に来た。


(何だろう、これ)


 ドワーフの里が近づいたところで、私は地面から突き出ている小さな金属製の筒を発見した。直径はリンゴくらいで、長さは一メートル弱ある。周囲を見渡してみると、同じような筒を他にも二つ発見した。

 私が筒に気を取られていると、ケンタウロスがこう説明してくれる。


「ドワーフは地下に住んでいるから、この辺りには地面にいくつか換気用に穴が開いている。だが、ただ小さな穴を開けただけでは落ち葉ですぐに塞がってしまうから、煙突のように筒をつけているのだ。――さぁ、着いたぞ」

「ミャウン」


 ケンタウロスは前を見て言う。そこには小さな洞窟の入り口があった。入り口は縦横一メートル強の幅で、姿勢を低くして移動することができないケンタウロスたちは到底入れない大きさだった。

 これがドワーフの里? 


「この洞窟は地下に大きく広がっていて、ドワーフたちはそこで快適な生活を送っているらしい。我々は中を覗いたことはないがな」


 ケンタウロスがそう教えてくれる。


「出入口はここだけでなく、いくつかあるが、我々はいつもここから声をかけている」


 そこで別のケンタウロスが洞窟の入り口に立つと、仲間の背に乗せていた荷物を漁り、中から銀色の鐘を取り出した。持ち手のついた大きなハンドベルだ。


「鳴らすぞ」


 その鐘はケンタウロスが片手で持って鳴らせるくらいの大きさではあったが、金属製だしそこそこ重そうに見える。

 少し高めの澄んだ音色は、ケンタウロスが腕を振るたび周囲に響き渡った。


「これはドワーフから貰った鐘だ。我々が来た時は、これを鳴らして知らせてくれと言われている」


 ケンタウロスは洞窟の中に入れないし、敵じゃないことを知らせるためにも、鐘を鳴らすのは良いアイデアかも。

 きっとこの鐘もドワーフが作ったんだろう。彼らは石や金属の加工を得意としている、という知識は私にもある。ドワーフは星降る森の鍛冶屋なのだ。

 何度も鐘を鳴らしていると、やがて洞窟の中からドワーフたちがぞろぞろと姿を現した。


「よう、元気か?」


 最初に出てきたのはおじさんドワーフたちだ。大人だけど身長は一メートルくらいで、みんな立派なひげを蓄えている。髭があるとどうしても老けて見えてしまうけど、よく見ると若い青年のドワーフも混じっていた。

 ドワーフもケンタウロスに負けず劣らず筋骨隆々だが、脂肪もいくらかついていて全体的に太い。服装は地味で、例えば手前のドワーフは茶色いズボンにブーツ、赤茶色のシャツに焦げ茶色の皮のベストを身に着けていて、全身茶色い。

 髪や髭の色も、明るかったり暗かったはするものの茶色が多いかな。

 肌の色はケンタウロスたちほど暗くはないが、白くもなく、日焼けした浅黒い肌という感じ。


 男のドワーフたちに続いて、女の人や子供たちも洞窟から出てくる。彼女たちには髭はないけど、やはり身長は低くてふっくら丸く、ずんぐりむっくりしている。

 子供たちはケンタウロスに興味を持って地上に上がってきたらしく、母親たちの後ろに隠れて顔を覗かせ、ケンタウロスを見上げていた。

 しかし、すぐに私に気づくと目を丸くする。大人のドワーフも驚いて言う。


「魔物じゃないだろうな?」

「幻獣だろう」


 答えたのもドワーフだった。白髪が混じった髭を撫でながらそのドワーフは続ける。


「わしは前に森で、こういう馬鹿でかい猫に出くわしたことがある。そいつはもっと大人の猫だったが、わしに攻撃してくることもなく、静かに方向転換して去っていった。そいつと同じ種族の猫なら、でかいだけで危険はないさ」


 このドワーフが出会ったのは、ハロルドが言っていたのと同じ巨大猫ギャンピーかな。私の先代の猫。


「大きいだけの子猫だ。我々は三日月と名をつけて呼んでいる」


 ケンタウロスがそう説明した。


「大きいね」

「撫でてみたい」


 ドワーフの子供たちは大人たちの後ろでひそひそ囁きながら、こっちをキラキラした目で見ている。でも簡単には撫でさせてあげないぞ。子供って撫でるの下手そうだし、よく知らない人に触られるの嫌だし、なによりドワーフの子供ってちっちゃいから踏み潰しそうで怖い。


「それで今日は? また武器の手入れか?」


 おじさんドワーフは私からケンタウロスたちに視線を移して尋ねる。身長の高いケンタウロス相手に喋りかけているので、ドワーフは首を後ろにそらして顔を上げていて大変そうだ。

 

「ああ、そうだ。手入れと修理を頼む」


 ケンタウロスたちは持ってきた槍や剣をドワーフたちに渡している。それらの武器はケンタウロスにとってちょうどいい大きさなので、ドワーフたちが持つとかなり長く、扱いづらそうだ。

 とはいえドワーフたちも筋力はあるので、軽々と持ってはいた。


「いつもすまないな。手入れくらいは自分たちでもやっているんだが、十分にできていないようだ」

「お前さんたちはわしらのような職人ではないからな。こうやって定期的に持ってきてくれればいい」


 ケンタウロスの言葉にドワーフが返した後、また別のドワーフがこう言う。


「あんたらが魔物を倒してくれると、わしらも有り難いからな。鉱石を掘りに、わしらは森のあちこちへ出かける。そのせいで魔物と遭遇する確率も高いんでな。もちろんわしらも戦えるが、大型の魔物を倒すのは難しい時もあるのだ」


 そのドワーフは大きな斧を肩に担いでいた。ドワーフの身長と同じくらいの大きさのものだ。彼らもそれを使って戦うんだろうけど、戦闘においてはやはり体の小ささが難点になるみたい。

 星降る森に通貨はないけど、ケンタウロスはドワーフに武器を貰い、ドワーフはケンタウロスに魔物を倒してもらうことで、お互いに利益があるようだ。


(しかしあの斧、すごいなぁ)


 私はドワーフが担いでいる斧をじっと観察する。刃は大きく、強くて頑丈そう。持ち手の部分も金属でできていて、邪魔にならない部分に鷲か何かの装飾が施されている。目の部分は赤い宝石だ。

 無骨な雰囲気もありながら、全体がピカピカに磨かれてあって美しいとも感じる。金属って強い上に綺麗なんだなぁと思った。


 ケンタウロスたちの槍も、刃の部分はとても美しい。ケンタウロスの好みなのか装飾はほとんどなくて戦いの邪魔にならないシンプルな形をしているのに、洗練されているのだ。

 武器に興味のない私ですら感心してしまうような出来だ。


「やはり持ち手の木の部分は痛みやすいな。穂との接合部分も壊れやすい。今度は全部金属で作ってやろうか? 重くなるが、お前さんたちなら扱えるだろう」

「いや、だが、持ち手も金属にすると滑りやすくなるぞ。斧ならともかく、槍は投げることもあるからな。滑るのはいかん」

「なら細かく溝を掘るか?」


 ドワーフのおじさんたちは、ケンタウロスから受け取った槍を見ながら話し合っている。職人の顔だ。

 きっと彼らは武器作りに誇りを持っているのだろう。だから良いものが出来上がる。

 ただ、すごい武器を作っても、自分たちで使うかケンタウロスに貸すくらいしか用途がないのがもったいないなと思う。


「ところで……」


 おじさんドワーフたちが槍を見ながらああでもないこうでもないと言い合っている中、おばさんドワーフがやって来てケンタウロスに声をかけた。


「あんたたち、桃のお酒を持っていかないかい? たくさんできたんだ」

「いや、我々は酒は飲まない」

「あら、そうだったかね? 美味しいのに。確か肉も食べないと言っていたし、肉も酒もなしでどうやってその大きな体が動いているんだい?」

「さぁな。我々にも分からん」


 おばさんドワーフの疑問に、ケンタウロスは少し笑った。

 ケンタウロスはこう見えて草食で、果物や木の実を食べているけど、ドワーフは獣を狩って肉を食べたりもしているようだ。お酒も造って飲んでいるようだし、地べたで寝ているケンタウロスと違って地下に家を作っている。

 野性的なケンタウロスに比べると、ドワーフは人間に近い生活をしているみたいだ。

 

 食べ物の話になったところで、白髪混じりの初老のドワーフがふと思いついたようにケンタウロスたちに尋ねる。


「お前さんたち、〝チーズ〟という食べ物を知っとるか?」


 聞き覚えのある名称に私は耳をピクリと動かしたが、ケンタウロスたちは関心なさそうに答える。


「いや、知らないな」

「実は昔、鉱石を掘りに森の端まで行った時、偶然人間の少年に出会ってな」


 初老のドワーフが語り始めると、他のドワーフたちは呆れたように「またその話か」と言うが、彼はケンタウロスたちに向かって話を続けた。


「人間は信用ならないが、その少年は賢く、誠実そうに見えた。そして好奇心も強いようだった。森の奥から現れたわしに驚きながらも、声をかけてきたのだ。相手が子供だったこともあって、わしも少し警戒を解いて挨拶を返した。すると少年はとても喜んでな」


 私は目の前をちょろちょろ飛んでいる羽虫に気を取られつつ、話を聞いていた。


「わしのことを怖がるでもなく、見下すでもなく、瞳を煌めかせてこちらを見ていた。会話を交わしただけであんなに喜ばれたのは驚いたが、気分は悪くなかった。それでわしもちょっと調子に乗ってな、持っていたナイフを少年にやったのだ。わしが自分で作ったナイフだ。切れ味も装飾も気に入っていた」


 ケンタウロスたちは黙って話を聞いている。私は前足で羽虫を叩き落とそうと奮闘していた。


「すると少年は一層喜んでな。その場で枝を切ってみて、切れ味に驚いて目を丸くしたりもしていた。そしてお礼にと、持っていた食料の中から一切れのチーズをくれたのだ。昼食を食べてしまった後らしく、それくらいしか食べ物が残っていなかったらしい。わしは少年と別れた後、里に帰る道すがらそのチーズを食べたが、ほっぺたが落ちるほど美味くてな」


 どうやらこのドワーフは、その時食べたチーズの味が忘れられないらしい。私もハロルドのところで食べたけど、確かに美味しかったな。少し塩辛いけど濃厚で。

 でも私はやっぱりミルクの方が好きだ。


「また食べてみたいものだ」


 懐かしそうに目を細めて言うと、こう続ける。


「それにな、わしはあの時に受けた称賛も忘れられないのだ。わしのナイフを使った時の、少年の驚いた顔。さらにその後にわしを見た時の、尊敬の念がこもった瞳。少年は何度もわしのナイフを『すごい』と褒めてくれた。『こんなナイフを作れる職人、人間にはなかなかいない』、『これは素晴らしい物だ』と」


 何度もこの話を聞いていたらしいドワーフたちも、この時はごくりと唾をのんだ。森の中の閉じた世界で生きてきたドワーフたちは、他者からの称賛に飢えているようだ。


「お前さんたちケンタウロスも、わしらの武器の出来を褒めてくれる。だが、もっと――もっと多くの称賛が欲しい」

 

 それを皮切りに、ドワーフたちは一斉に今まで密かに抱いていたであろう欲を口に出す。


「わしらは自分の作ったものに誇りを持っておる。きっと人間たちにも認められるだろう」

「こんな素晴らしいものを作り出しているのだからな!」

「もっとたくさんの者にわしらの腕の良さを知ってもらいたい!」

「称賛されたいのだ!」


 すごいものを作っているという自負があるからこそ、他者にもそれを知ってほしいらしい。確かにケンタウロスはクールだから、すごい武器を作っても反応があっさりしているのかもしれない。

 

 知能が高く人間に近い姿をしている幻獣は、星降る森にはケンタウロス、ドワーフ、エルフの三種族がいるが、ドワーフが一番俗っぽいところがあるのかも。ケンタウロスは孤高、エルフは高貴なイメージで人間からの称賛とかに興味はなさそうだもんな。

 実際、ケンタウロスたちは呆れた顔をしている。


「しかし称賛されたいからといって安易に森の外には出ない方がいい。悪い人間に捕まれば、人間のために働かされて、武器を作り続けることを強制されるかもしれない」

「わしらはそんな簡単には捕まらん!」

「貴殿らが強いことは知っているが、人間はとにかく数が多い。気をつけることだ」


 ケンタウロスの忠告に、ドワーフたちも腕を組んで逡巡する。


「確かに安易に人間の街へは行けん。わしらはそこがどんな場所なのかよく知らんし、人間たちがわしらに友好的なのかどうかも分からん」

「森の端まで行って人間にばったり出会ったという者はいるが、人間がたくさんいる街まで出かけていった者はおらんからなぁ」

「何にしても、人間に関する情報が少な過ぎる」

「となると、やはり人間に武器を売って称賛を得るのは難しいか」


 ドワーフたちはすでに諦めムードだ。ケンタウロスたちも話は終わったと踵を返す。


「では、我々は帰る。武器の手入れが終わる頃にまた訪ねよう。よろしく頼んだ」


 ドワーフたちに良い助言ができればいいけど、私も人間のことはよく知らない。だからここに残っていても仕方ないので、とりあえず私もケンタウロスたちと一緒にドワーフの里から離れたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異種族の出てくる作品の個性とは、女ドワーフのヒゲと女エルフの胸で決まると言っても過言 [一言] カゴーンっていうと効果音っぽいよね
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