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VS ユニコーン

 ここ数日、私はケンタウロスやハロルドのところへは行かずに、一人で散歩する日々が続いていた。森の中で知り合いが増えても、一人でいたいなと思う時も多い。自分のペースで歩いて、お昼寝して、時には駆けて……一人でいるのも最高に楽しいのだ。


 だから今日も一人で森を歩いていた。そして小川の水を前足でピチャピチャ触って遊んでいる時、ふと視線を感じて顔を上げる。

 するとかなり遠くに、細く長い角を持つ馬のような生き物がいるのが見えた。私からは距離があるし、木々の間に佇んでいて全貌はよく分からないが、角が特徴的なので正体は推測できた。


 あれはきっとユニコーンだ。

 知識はあるけど実際に目にしたのは初めてだった。白っぽい色をしているけど、やはり遠いのでよく見えない。

 私が目を凝らしてじっと見ていると、ユニコーンはどこかに消えてしまった。


 そしてそれからというもの、私は森の中で頻繁にユニコーンと出くわすようになった。

 ユニコーンは白い体に淡い紫色のたてがみ、ピンクの瞳をしていて、幻想的な色合いだ。額の中央から真っすぐ伸びている角には螺旋状の筋が入っており、色は美しい白銀で、先は鋭く尖っている。


 どうしてユニコーンの外見をそんなに細かく説明できるかと言うと、会うたびに私と彼の距離が近くなってきているからだ。

 最初はかなり遠くでちらっと姿が見えただけだったのに、ユニコーンはどうやら「何だ、あのでかい子猫?」って感じで私に興味を持ったみたい。

 私が好戦的な生き物でないと気づいたのか、警戒心も少しづつ緩んでいるみたいで、十メートルもないくらいの距離まで近づいてくることもある。


 でも前は観察するようにこちらを見てきたのに、今ではこちらをからかっているような様子もある。

 私の方にいきなり全速力で走ってきて、私が驚くと満足して帰っていったり、あるいはつかず離れずの距離を保って私の後をつけてきて、私がイラついて追いかけるとサッと逃げていくのだ。

 ユニコーンは無表情だけど、あのピンク色の瞳を見れば感情が読み取れる。

 あいつ絶対、私のこと舐めてる。


 ユニコーンはプライドが高くて自分に自信がある奴だから、体が大きいだけの私を馬鹿にして、おちょくってるんだ。

 ユニコーンは数日、こちらのことを観察してきている。つまり、私が散歩中に枝に顔をぶつけたり、斜面で足を踏み外して下に転がったり、しっぽの先を自分のしっぽと気づかずにしばらく追いかけたり、まぬけな姿を見られているはずだから。


 今もまた十メートルほど先に現れたユニコーンに、私は「ミャー!」と鳴いて抗議した。

 

(毎日毎日、ついてこないでよ! どこかへ行って!)


 するとユニコーンはその場で前足を高く上げていなないた。

 ……馬の言葉はよく分からないけど、これ絶対に私を煽ってるな。だってあいつ、ちょっと顎を上げて「フフン」って感じでこっちを見てるもん。

 ユニコーンはもう一度同じように前足を上げていななく。「おい、こっち来てみろよー!」って言ってるみたいな感じで。


「……」


 私は目を据わらせてユニコーンの野郎を見る。

 こいつ。どうしてやろうか。


 私は足に力を込め、スタートダッシュを決めると、ユニコーンに向かって全力で走った。

 しかしユニコーンは即座にそれに反応すると、体を反転させて軽やかに森の中を駆けていく。私は体が大きく、木や木の枝を避けて走らなければならないこともあって、あっという間にユニコーンとの距離は開いてしまう。


 追いつけない、と諦めた私は早々に立ち止まり、ユニコーンを睨みつける。するとユニコーンはこちらを一度振り返ってから、余裕の態度で悠々と歩いて去っていく。

 本当にヤな奴! 振り返った時の顔が私を嘲笑していた気がする。


(けど追いかけても、どうせまた逃げられる。足の速さと身軽さはあっちの方が上だ)


 私はとりあえず毛づくろいをして怒りを鎮めながら、作戦を練った。

 あんにゃろ、今に見てろよ。そのプライドへし折ってぎゃふんと言わせてやるからな!



 というわけで、ユニコーンに一泡吹かせるため、ケンタウロスたちに協力してもらうことにした。

 ユニコーンは長い角を持っているものの、基本は馬。そしてケンタウロスも下半身は馬だ。だから脚力に差はなく、ユニコーンを捕まえられるのではないかと考えた。実際、ケンタウロスはこの森の中でも一、二を争うくらい足の速い生き物だと思うし。


(協力を求む!)

「どうした、三日月」

「遊んでほしいのか?」


 強そうな成人男性のケンタウロスたちに「ミャウ!」と声をかけたら、頭を撫でられこう言われた。


「俺たちはこれから魔物を倒しに行くんだ。悪いが遊んでやれないな」

「近くで子供たちが遊んでいるから、そこに混ぜてもらえばいい」


 ケンタウロスたちは時々、里の周辺を見回って、悪さをする魔物を退治しているらしい。手には槍や弓矢を持っていて、腰に下げている袋には命星や魔力星を入れているようだ。見えないけど星の気配がするから分かる。


(魔物を退治する前に、一緒にユニコーンを倒しに行こうよ!)


 私は一生懸命「ミャウミャウ」鳴いて訴えたが、伝わらずに「また今度な」とあしらわれてしまった。

 仕方なく、今度は近くにいたケンタウロスの子供たちのもとへ向かう。この際、もう子供でもいいや。ケンタウロスなら子供でも足は速いだろう。


「ミャー!」

「あ! 三日月だ!」


 子供は全部で六人いて、その中には前に私が助けたアデスという少年もいた。

 ケンタウロスって子供でも筋肉がそこそこついてて引き締まった体をしてる。女の子も二人いて、胸は布で隠しているけど、お腹や腕に無駄な脂肪はなさそうだった。

 

「三日月、一緒に遊ぼうよ」

「今、追いかけっこしてたのよ。三日月もする?」


 子供たちはわらわらと私の周りに集まってくる。


「ミャウン」


 言葉を喋れない私は鳴いて返事をすると、子供たちの方をちらちら振り返りながら歩き出す。


「何? ついて来いってこと?」


 子供たちはお互いに顔を見合わせた後、私についてきてくれた。


「どこ行くの?」

「一緒に散歩したいんじゃない?」


 ユニコーンは集団で生活しているケンタウロスたちの住処には近づいてこないんじゃないかと思い、とりあえず里から離れる。後は適当に歩いていれば、ユニコーンの方から私をからかいにやって来るだろう。


 そう考えていると、しばらくして予想通りユニコーンは現れた。今日はケンタウロスの子供たちもいるからか、ユニコーンは昨日より遠くに佇んでこちらを見ていた。


「見て! あれユニコーンだよ!」


 私の視線でユニコーンに気づいたアデスが、木々の先を指さして言う。


「わぁ、本当だ!」

「僕、初めて見たや!」

「私も」


 子供たちは尾を揺らし、興奮気味に話している。


(私、あいつを捕まえたいから協力してくれる?)


 そう言えたらいいのだが、私は喋れないのでアデスたちに気持ちを伝えられない。


(なんとか行動で示すしか……)


 私はその場で姿勢を低くし、ユニコーンをじっと見つめてしっぽを左右にゆっくり振る。私のもふもふの大きなしっぽが動くたび、地面に落ちてる枯葉や小枝がガサガサと音を立てた。

 するとアデスたちはそんな私を見て笑う。


「三日月ってば、ユニコーンを狩ろうとしてるの?」

「さすがにユニコーンは捕まえられないよ」


 しかし私は「ミャウ! ミャウ!」とやる気に満ちた鳴き声を上げて、すぐに走り出せるよう、低い姿勢を保ち続けた。

 向こうの方でユニコーンもこちらを見たまま動かない。


「ユニコーン、逃げないね」


 アデスがそう呟くと、気の強そうな他の子供がこう返した。


「三日月に協力してさ、ちょっと追いかけてみる?」

「え? ユニコーンを?」

「うん。あいつ角があるし、近づきすぎたら危ないけど、俺たちとあいつと、どっちが足が速いんだろうって思って」

「確かに気になる。私たち、もしかしたらユニコーンに追いつけるかも」


 ケンタウロスの子供たちも足の速さには自信があるらしく、そんな会話をしている。

 そして私が先陣を切って走り出せば、子供たちも楽しそうに地面を蹴って駆け出す。

 

「よし! ユニコーンに追いつくぞ!」

(行け行けー!)


 巨大な子猫とケンタウロスの子供六人が一斉に向かってきたので、ユニコーンもさすがに逃げることにしたらしく、あっという間に遠ざかっていく。


「あいつ、速いな!」

「でも負けないぞ!」


 子供たちも森の中を疾風のように駆けていき、私だけが置いていかれてしまう。

 ちょっと待って! あの、私、木と木の間に顔が挟まっちゃった……! 通れると思ったら無理だった! 助けてぇ!

 無言でジタバタしている私に気づかず、子供たちはユニコーンを追いかけていく。

 

 やがて私が自力で木と木の間から顔を引っこ抜いたところで、アデスたちは帰ってきた。

 どうやらユニコーンには追いつけなかったらしく、逃げられてしまったようだ。みんな少し悔しそうな、残念そうな顔をしている。

 そしてアデスは私を見ると不思議そうに声をかけてきた。

 

「三日月、一番最初に走り出したのにいつの間にかいなくなっちゃって……。ここで何やってたの?」


 別にいなくなってないよ! みんな足が速いから置いて行かれただけだしっ! ちょっと木に挟まってただけだしっ!

 私は拗ねて、みんなをジトッと睨みつけたのだった。


 

 翌日もその翌日も、さらにその次の日も、私はアデスたちを誘ってユニコーンを追いかけた。二日目から、ケンタウロスの子供たちも私がいるところにユニコーンがやって来ると気づいていたようだ。

 

「こんなに大きな猫、この星降る森でも珍しいし、ユニコーンも興味があるみたいだね」

「興味があるって言うか、三日月のことからかってない?」

「うん。ユニコーンって結構子供っぽい感じだよな。もっと孤高の存在だと思ってた」


 子供たちの会話に、私は何度も深く頷いた。そうなんだよ、あいつ本当に子供で性格悪いんだよ。 

 

「俺たちのことは眼中になさそうで、それもムカつくよ。あいつ、俺たちのことも怖がる様子ないもん」

「悔しいよね。絶対ユニコーンに追いつきたい」


 子供たちは負けず嫌いらしく、もはや私と同じような気持ちになって、ユニコーンをぎゃふんと言わせようとしていた。

 だけどたぶん、ユニコーンと子供たちの足の速さは同じくらいか、少しユニコーンの方が速いと思う。大人のケンタウロスだったら追いつける可能性はあったかもしれないけど、ただ逃げるユニコーンを真っすぐ追いかけるだけじゃ、いつまでたっても追いつけないだろう。


 そこで私は一計を案じた。私は猫なので、猫らしい狩りの仕方をしようと思ったのだ。

 普段は木に生っている果物ばかりを食べている私なので、狩りなんて遊びでリスを追いかけたことくらいしかなく、正直下手だけど、走って追いかけるよりは勝機があると思う。


「ミャー!」


 私は高く鳴いてみんなの注目を集めると、森の中央にそびえ立つ巨木のところまで連れていった。これは私がいつも寝床にしている古い木だ。


「どうしたの、三日月? 森の主のところまで来て」


 アデスの言葉に私は首を傾げる。森の主? 確かに私もこの木が森の主だと思ってるけど、アデスたちもそういう認識だったの?

 するとアデスはこう説明してくれる。


「父さんが言ってたんだ。この木は森の主だって。星降る森は、最初はこの一本の木から始まって広がっていったって言われてるんだよ。森の中で一番長生きな木なんだ」

(フーン)


 私はそこまで詳しくは知らなかったな。私の頭にはこの森や森に住む生き物の知識が詰まっているけど、知らないことも多いし、知ってることと知らないことの区別はどういう基準なのか分からない。


「ミャン」


 私は頭を切り替えて、ケンタウロスの子供たちに自分の作戦を伝えようとした。まずは古木の後ろに隠れた後、そこからバッと飛び出してみせた。

 普通の木では体がはみ出してしまうが、この古木の幹は私より太いので、巨大な猫である私でも身を隠せるのだ。


「何してるの? かくれんぼ?」

「待って。分かった。三日月はこうやってこの木に隠れて、ユニコーンを捕まえようとしてるんじゃない?」


 アデスがふと閃いて言う。天才か。よく分かったな。

 まぁ、ケンタウロスの子供たちも、私が連日自分たちのところに来るのはユニコーンを捕まえるのに協力してほしいからだと気づいているから、察しやすかったのかも。

 

「なるほど。確かに三日月は大きいから、走って追いかけるより身を隠して待ち伏せする方がいいかもな」


 他の子も頷いて言う。


「よーし。じゃあ、改めてユニコーンを捕まえる作戦を立てようぜ!」


 

 そしてそれから一時間ほど経ったところで、ユニコーンは今日も私をからかいにやってきた。

 ユニコーンが来た時、私たちは古木から離れたところで、倒れた木をジャンプして飛び越えるという遊びをしていた。だが、実際は遊びながらユニコーンがやって来るのを待っていたのだ。


「来たぞ」

「作戦通りにね」


 姿を現したユニコーンの方を振り返ると、子供たちは少し緊張した面持ちになる。私は緊張していない代わりに、早くユニコーンをぎゃふんと言わせたくてうずうずしていた。

 

 しばらくユニコーンを無視して遊んでいる振りを続けると、ユニコーンは段々とこちらに近づいてくる。

 この数日でケンタウロスの子供たちに対する警戒も解けた……と言うか、子供たちのことも私と同じく下に見て舐めているのだろう。ユニコーンは油断して、いつもと同じように私たちをからかおうとしていた。


「よし。そろそろ行くぞ。……せーの!」


 相手が十分近づいたところで、アデスたち六人はユニコーンに向かって一斉に走り出す。

 するとユニコーンも、さっと踵を返して駆け出した。それと同時に私もなるべく目立たないように走って、森の主と言われている古木を目指す。私の体の大きさではどうしても隠密行動は無理だが、今ならアデスたちに追いかけられているユニコーンはこちらを見ていない。

 

 そして古木に着くと、私は木の陰に身を隠した。今、アデスたちが六人でユニコーンを追いかけながらこちらに誘導してくれているはず。

 作戦通りに行けば東の方からやって来るが、ユニコーンの進む方によっては違う方角からここに来るかもしれないので、一応後ろや左右も警戒しておく。

 

(上手くいくかな……)


 ユニコーンとケンタウロスの子供たちの足の速さは同じくらいなので、上手く古木に誘導できない可能性もある。だからここが作戦で一番大変な部分だ。

 今日失敗しても明日以降も作戦を続ければいいが、同じことを何度もやっているとこちらの計画に気づかれそうなので、早いうちに成功させたい。


(頑張れ!)


 心の中でアデスたちに声援を送っていると、正面から複数の馬の足音が近づいてきた。

 私は耳をピンと立てて集中する。どうやらアデスたちは上手くユニコーンを誘導してくれたみたいだ。

 足音から正確な方向を推測し、そちらから見えないよう木の陰に身を潜める。大きな体をなるべく小さくして背を丸め、いつでも飛び出せるように足はしっかり地面につけて力を込める。

 

 やがてユニコーンの息遣いと足音が大きく聞こえてきた。その音で、標的は右側からこの巨大な古木を回り込んで来ると予想できたので、私もそちらに体を向ける。


(今だ!)


 そしてタイミングを計って私は木の陰から飛び出した。


「……!」


 ばっちりユニコーンの前に飛び出た私に驚き、相手は大きく目を見開いてその場で両前足を上げる。ヒヒン、と高い悲鳴のような声も上げ、泡を食って逃げ出そうとした。


(やったー!)


 作戦が成功し、ユニコーンのぎゃふん顔が見られて、私は牙を出してニンマリ笑った。上手くいってよかった。これでもうユニコーンも私に付きまとってからかってきたりはしないだろう。


 私がそんなことを思った時、この場から逃げようとしていたユニコーンに異変が起きた。白銀の長く鋭い角が、ぽろりと額から取れたのだ。


「ミャッ!?」


 取れるとは思っていなかったものが取れたので、今度は私が驚いて目を丸くした。びっくりして毛も逆立ってしまう。


(ちょ、これ落ちたけど……!?)


 逃げるユニコーンに向かって「ミャーン!?」と鳴いてみたが、相手は止まらなかった。角なんてどうでもいい様子で慌てて去っていく。


「上手くいったね、三日月! ……って、どうしたの?」


 やって来たアデスたちに、私は前足で地面に落ちているユニコーンの角を指す。


「え、何それ?」

「ユニコーンの角!?」


 子供たちも美しい白銀の角を見てざわついている。やっぱり驚くよねぇ?


「ユニコーンの角って取れるんだ?」

「トカゲのしっぽみたいにびっくりすると取れるのかな?」

「分からない。持って帰って父さんたちに聞いてみよう」

 

 そうして角を持ってケンタウロスの里に帰り、アデスは大人たちに事情を話した。

 すると中年だが筋骨隆々のおじさんケンタウロスがこう説明してくれる。


「ユニコーンの角は百年に一回、自然に取れるのだ。取れたらまた百年かけて伸びるから心配はない」


 百年かかるらしいが、ユニコーンの角はまた生えてくると知って私はホッとした。あのまま角が生えないとただのメルヘンな馬になってしまうからね。


「ユニコーンの角は、プライドの象徴だ。角が伸びるにつれプライドも高くなっていくと言われているが、取れてしまうと自尊心もなくなり、非常に大人しく弱気になる。だから角が短いうちはユニコーンはずっと隠れて暮らしていて、誰かにその姿を目撃されることはまずない。角が伸びてきたら自信が出てきて、人前に現れるようになるのだ」


 なんかややこしい性格してるな、と私は思った。でも、やはりこれでしばらくユニコーンを見かけることはなくなるみたいだ。

 

「この角、どうする? 綺麗だし、かっこいいけど……」

「三日月がいなかったらユニコーンも現れなかったんだし、三日月が貰ったら?」


 ケンタウロスの子供たちがそう勧めてくれたが、私は首を横に振った。

 そんなものいらん。まじで全然いらん。

 すると大人のケンタウロスたちが意外そうに言う。


「いらないのか? ユニコーンの角なんてとんでもなく貴重だぞ。額から取れるのは百年に一度な上、取れて落ちたとしてもこの広い森の中でそれを見つけるのは不可能に近いくらい難しいからな」

「人間の住む街に持って行って売ったらいくらになるか。小さな国一つ買えたとしてもおかしくはない」

「だがまぁ、我々も人間の国や、人間が扱う貨幣には興味がないからな」


 確かに貴重なものだし綺麗だけど、それだけでどうしてユニコーンの角がそんなに高く売れるのだろうと思っていると、おじさんケンタウロスが私に説明してくれた。


「ユニコーンの角には不思議な力があると言われているのだ。あらゆる病を治し、毒を中和し、水を浄化する」


 角を削って粉にすればかなり万能な薬になるってことか。

 しかしそれを聞いても、やはり興味は惹かれなかった。


「ミャー」


 私が再度首を横に振ると、ケンタウロスたちは顔を見合わせた。


「それなら我々が貰おうか。捨てるのはもったいないしな」

「ああ、里に置いておけばきっと役に立つこともあるだろう」


 うんうん。アデスたちには今回の計画に協力してもらったし、その報酬として受け取ってくれたまえ。

 私は心の中でそう伝えると、「ミャーン」と鳴いてケンタウロスたちと別れたのだった。

 頑張ったし、お昼寝でもしてのんびりごろごろしようっと。

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[良い点] ユニコーンの生態系クッソ笑った お前処女厨なだけじゃなくプライドまで高かったんか……
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