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無知は己の首を絞める1

「それではこれより、冒険者裁判を開廷する。本日は、ブロンズ等級ソフィ・リズレイの不当解雇問題に関して執り行う」


 冒険者ギルドから少し離れた場所にある石造りの建物こそが冒険者裁判が行われる裁判所である。当初の計画では冒険者ギルドと隣接させる予定だったのだが、人が集まり過ぎても邪魔だと判断され程よく離れた場所に建てられたのだ。一応、隣接させない事で匿名性を高めようという目的もあったりする。

 判決を下す裁判官は合計で三名おり、二名が冒険者ギルド職員からランダムで選ばれ開始の宣言をした裁判長はギルド長でもある初老の男性、ルドベキア・ナドゥが担当している。彼らは他の者たちより一段ほど高い場所におり何かしらの暴動が起きたとしても、即座に攻撃されない様な配置となっており、攻撃するには魔法を放つしかないが裁判所内は光石によって光源を確保しているため、そう簡単に魔法攻撃は出来ない。


「先ずは訴えを聞こう。ソフィ・リズレイ殿、前へ」


「は、はい!」


 裁判官達から見て左側にリカルド共に座っていたソフィが緊張でうわずった声をあげながら立ち上がる姿は、誰が見ても緊張と恐怖が隠し切れておらず傍聴席に座っていたアルトは、思わず唾をごくりと飲み込んだ。


「ソフィ・リズレイさん。落ち着いて、貴女は一人ではありません」


 横に座っていたリカルドはそっと彼女の手を取り脈の辺りに指を触れゆっくりと撫でる。ちょうどその辺りには神門と呼ばれるツボがあり、リカルドの落ち着いた声と自分は一人ではないという自覚がソフィを落ち着かせていく。やがて、完全に落ち着いた彼女は俯く事なく、顔を上げパーティーメンバー代表として対面に座っているユウリ・アーノルドの金髪碧眼という整った顔立ちに浮かぶ確かな怒りに臆することなく、視線を合わせてから裁判官達の正面へと移動した。


「ソフィ・リズレイ殿。本件の確認ですが、パーティーからの不当解雇という事で宜しいですね?」


「はい」


「待ってくれ!!俺達は」


「ユウリ・アーノルド殿。今は、ソフィ・リズレイ殿に話を聞いているのです。お静かに」


 ソフィを喋らせないようにしたかったのか不明だが、いきなり口を挟んだユウリをルドベキアが睨みを効かせながら静止させる。初老の男性とは思えない鋭い睨みに呆気なく怯んだユウリは口を閉ざし下を俯く。


「続けます。具体的にどの様な扱いをされたのかご本人のお言葉で説明願いますか?」


「はい。私は、本来であれば一年間共に冒険を行うパーティーメンバーとして、ユウリ・アーノルド以下二名と共に契約を結びました。そのパーティーの中では、冒険者を志す前の経験から斥候を行えるのが私しか居らず私自身も好きだったので斥候を引き受けて冒険をしていたのですが、一週間ほど前契約期間で言えば、四ヶ月ぐらいでしょうか。その辺りに突然、ユウリから戦闘が出来ない斥候は要らないと……一方的に言われ以降冒険に連れて行かれなくなりました」


 裁判官達は悲しげに話すソフィの言葉を聞きながら、手元にあるリカルドから提出された書類と一切矛盾点がない事を確認し互いに顔を合わせ、頷き合う。


「提出された書類との不備はありません。では、一度お戻りを」


「は、はい……リカルドさん、書類提出の話は聞いてないのですが」


 リカルドの元に戻ったソフィは聞いてなかった書類に関して質問する。


「まぁ、話していませんしね。裁判を円滑に進める目的が一つと、もし私に嘘を吐いていれば分かる様にする目的があるので貴女にはお話し出来ないのです」


 弁護士は依頼者の味方ではあるが裁判官は最後まで、中立を維持しなければならずその為に当日まで、誰にも会う事はなくどの様な人柄かも知らない。故に、書類で事件のあらましを知り当日に本人達の言葉で判断をするのだ。よりどちらが信じるに値するかを。弁護士はその情報提供に関して一切の虚偽を混ぜてはならず、また妨害をしてもいけない為、書類の内容と本人の発言に齟齬があった場合弁護士としての信用も落ちるのだが、リカルドはソフィを信用すると判断した以上、偽りは無しと信じた上で行動するしかないのだ。


「次にユウリ・アーノルド殿。本件に対して何か反論はありますかな?」


「無論ある!」


 勢いよく立ち上がり肩を張りながら歩き、中央に立つユウリ。先ほどの遮りや礼儀を欠いたこの態度ではあまり、裁判官達の心象は良くないのだが彼らも熟練のギルド職員。ムッとした後にまぁ、ブロンズ冒険者はこういうものかと自分達を落ち着かせる。


「先ず、彼女との契約を断つ事が不当だと言われているが僕らからすれば十分に妥当だと思っている!確かに、当初の予定では一年を予定していた。このメンバーであればシルバー、ゴールドと等級を上げやがてはダイヤに到達し、栄光たるレジェンドの等級にも上り詰められると思ったからだ!事実、僕やスメラギ、オータムの三人はブロンズ等級でありながら、ゴブリンの巣の壊滅、オークの群れ撃破などの輝かしい成果を残しております!!」


 一体、何が彼の背中を押しているのか。その場にいる全員があまりの熱量に引いている中、ユウリは身振り手振りを激しくしながら、まるで演説の如く自分達は如何に優れているかをアピールしていく。


「ですが、そこにいるソフィ・リズレイは斥候としてどうでも良い様なしょうもない罠を一々解除して、無駄に時間を浪費したりいざ、戦闘になれば殆ど戦闘には参加せず僕らにお疲れ様と言うだけ!!一度、彼女がちまちまと解除している罠を無視して僕らが突き進んでみれば、ただの矢が飛んでくるだけの地味なもの……あんなのに一々時間を浪費するぐらいなら自分達で踏破してしまえば良い。事実、僕らにはそれだけの力量があるんですから!!」


 リカルドは思わず、自分の口元を隠して小さく笑ってしまった。力量?たかが、駆け出しのブロンズ程度が何を言ってるんだと。罠の恐ろしさを知らない冒険者というのはここまで愚かなに成り果てるのだなと。

 そんな事を思われてるとは一切知る由もなく、ユウリは派手に自身の前にある台を叩きながら言葉を締める。


「必要がない存在はパーティーから追放して、危険度を下げる!こんなの当たり前な事じゃないですか。もう分かったでしょう裁判官さん達、彼女の有罪でこの件は終わりです!」


 ふっ決まったと言わんばかりの満足感に満ちた表情で締めくくるユウリに、静かに裁判官達は溜息を溢しながら席に戻る様に告げると、不服そうな顔を浮かべるが再びルドベキアの睨みによって、怯み大人しく戻って行った。


「ふぅ……では、弁護人リカルド。何か反論はあるかね?」


「無論あります」


「では、前へ」


 ルドベキアに促され、前に出るリカルド。先ほどのユウリの発言内容を聞いて、益々ソフィ・リズレイに不利益を与えてはならないと覚悟を改めて決めた彼は、アルト達が試験ダンジョンに行っている間に集めたユウリ達に関する情報を話し始めるのだった。


「それでは弁護を始めさせて頂きます」

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