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冒険者弁護士リカルド・ウィンターズ

ファンタジー要素はちょこちょこ混ぜていく方針

 冒険者。

 様々な国、街に点在している国営の冒険者ギルドに所属し、そこから斡旋される仕事を引き受け生計を立てている者達を指す言葉だ。それぞれの力量に合わせて、ギルド職員が適正だと判断する仕事を斡旋しており、一人──いわゆるソロ──でその仕事を引き受けたり複数人でパーティを組んだりと個人の判断によって業務形態は様々だ。

 とは言え、ソロで立ち回れる冒険者は限られており大抵の場合、パーティを組んで仕事する者達が冒険者の大半を占めている。何故なら、人数がいればいるだけ危険を避ける事が出来るからだ。一人では、睡眠を取っている時やダンジョン探索時に斥候も無しで進まなく行けなくなったり、足を怪我しその場から動けなくなれば、待っているのは死しかない。そう言ったリスクを避ける為に、パーティを組んだりそもそもパーティではないと斡旋されない仕事があったりと、パーティを組むメリットは冒険者という仕事を続けるのなら無視できないものだ。


 故に、問題が起きやすい。古今東西、人が集まればそれだけ問題が起きやすくなる。パーティを組み仕事を達成したが、報酬の分割が明らかに可笑しいとか、仕事の直前で不当に解雇されたとか、女性冒険者に多いのだが夜、性的に襲われたとか。

 この手の被害に遭った冒険者は自分達の雇い主でもある冒険者ギルドに訴えるのだが、国営である冒険者ギルドは冒険に出た冒険者の経緯まで手を回している余裕がなく、とある制度が出来るまで本人達に解決を投げていたのだ。


 その制度が『冒険者裁判』である。

 冒険者間で問題が発生した場合、ギルドに届出を出す事で公平な第三者を交えて裁判をし、どちらが悪いかを決める制度だ。そして、それと同時に届出を出す被害者の立場が余りにも弱く、加害者側の立場や人数が基本的に被害者を上回っている為に黙らせられる。その様な事がない為に用意されたのが、『冒険者弁護士』である。


「……不当解雇ねぇ。また面倒な依頼だな」


 冒険者ギルド、二階にて提出された書類を面倒臭そうに煙草片手に眺めている男の名前は、リカルド・ウィンターズ。冒険者弁護士にとっての正装である黒い燕尾服を着崩し、オールバックにしている黒髪を軽く掻き崩すその姿は弁護士というよりは、ガラの悪い冒険者と思われても仕方ないだろう。そこに一人の銀髪の長髪をポニーテールにして纏めてし、リカルドと同じ様に黒い燕尾服を着ているエルフが首を傾げながら、珈琲を持って訪ねた。


「先生、何がそんなに面倒なのですか?」


 鈴の音の様な綺麗な声を持ってしてもリカルドの眉間に寄せられた皺を解く事は出来ず、少し人相の悪い状態でリカルドは紫の瞳をチラリとエルフの金の瞳と合わせて、溜息を吐いた。


「調べる事柄が多いんだよ不当解雇って案件は」


「それはえっと……どうして?」


 ピンと来ていないエルフを見ながら、更に溜息を吐くリカルドに罰の悪い顔をするエルフ。


「良いかよく聞けアルト。今はまだ、俺の弟子だがな弁護士として食って行く気なら不当解雇ほどの厄介なものはないと覚えておけ。先ず一つ、依頼主が無自覚なだけで本当に無能である可能性がある事だ。確かに弁護士という役職は、被害者の味方をする為にあるものだが正当性がなければ話にならない。俺が良く調べもせずに、弁護をして裁判に勝ってみろ。泣きを見るのは、依頼主の元パーティだ。逆に俺が訴えられても文句は言えねぇよ」


 かなりの確率で問題として上がるパーティの不当解雇問題。その内の八割は正しく、不当なものであるが二割は詐欺目的で行われるケースが実際に確認されており、万が一詐欺目的を見抜けず、弁護してしまい詐欺の事実が明るみになると冒険者弁護士は職を失いしかも、その状態で元パーティメンバーに対して、慰謝料を払わなければならないルールがあるのだ。

 それを分かっているのか分かっていないのかアルトはなるほど……と言いながらメモを取っている。


「次に依頼主及び、そのパーティメンバーの素行調査だ。力量が正しく証明されたとしても、性格や行動でパーティメンバーに不利益を生じさせている場合がある。この場合、冒険者ギルド法第二条、『冒険者は冒険において、意図的にパーティ及び関係者、その施設に不利益を与えてはならない』に抵触する為、一気に依頼主の立場が悪くなる。まぁ、パーティメンバーが抵触してくれていればそれなりに楽だがな」


 そこまで説明すると眺めていた書類を一度、机に置き丁寧に折り畳むと自らの懐に入れ立ち上がるリカルド。アルトが淹れた珈琲を一気に飲み干すと、乱れたオールバックを整え白い手袋を身に付ける。それ以外にも必要な書類、最悪護身用になるナイフを鞄の中にしまい込んでアルトに声をかける。


「行くぞ。仕事時間だ」


「了解です!」


 部屋を出る前に燕尾服をキッチリと着こなし、準備を終わらせたアルトを伴って部屋を出ると、冒険者ギルド二階という都合上、下で酒を飲んだりして騒いでいる冒険者達の喧しい声が聞こえ出す。リカルドは、呆れと共に歩き出し階段を降る。


「そこで俺は、迫るオークの首をだな!!」


「ハハハ!!マジかよ!そりゃ……っておい!」


「あー?……げっ、リカルドの野郎が仕事モードじゃねぇか……」


 普段なら着崩し酒の飲み会にいつの間にか混ざっているリカルドが、キッチリとした格好で降りてきたのを目撃した冒険者達は先ほどまでの喧騒が嘘の様に静まり返る。リカルドが正装で現れるという事は、冒険者に何かしら問題が起きたという事であり、仕事柄自分達に何も問題はないと自信を持って言えない冒険者達にとっては死神が鎌を持って自分達の首に突きつけてる様な恐怖を感じるのだ。

 そんな視線も気にする様子もなく、スタスタと歩くリカルドの後ろを静まり返ったギルドが珍しいのかキョロキョロしながら歩くアルト。やがて彼らは仕事を斡旋するギルド受付まで辿り着き、そこで立ち止まった。


「依頼主の現住所は何処だ?」


「少々お待ちを……オーロラ通り五番地にある宿屋、ホワイト・スノウに宿泊中です。此方からの要望通り、依頼主が一人で宿を取り以降、他人の出入りは確認されていません。現時点を持って弁護士リカルドに、業務を引き継いでも宜しいですか?」


「了承しよう。現時点より、依頼主に関しては全て私が担当させて頂く。引き継ぎ書類に関しては、いつもの様に部屋に」


「はい。承りました。では、公正な立場を期待します」


「無論だ」


 リカルドはギルド職員から仕事を引き継いだ旨が記載された書類を受け取り鞄にしまった後に襟元に見える様に冒険者弁護士である証の金色に大きな盾が描かれたバッチを取り付け、職員に礼をした後にギルドを出て行くのだった。

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