その8 ドラード国の宝
◇◇◇
「くそっ!なんで俺がこんな目に!」
ラナードは部屋に置かれた年代物の椅子を、入り口の格子にたたきつけた。だが、頑丈な格子はびくともしない。
「おい!誰かいないのかっ!この俺が呼んでるんだぞ!」
西の塔は王族の中でも特に重い罪を犯した者が入る場所。生きてここを出たものはいないという。当然、罪人となったラナードを甲斐甲斐しく世話するメイドなどいない。ラナードは力なく頭を垂れた。
こんなはずではなかった。王子の中でも飛び抜けて美しい容姿を持つラナードを、父王は特に目を掛け可愛がっていた。このまま順当にいけば、いずれ王位に手が届くに違いなかった。なぜ使節団に入るなどと言ってしまったのだろう。
「くそっ、くそっ!」
手に血が滲むほど床を打ち付けても、ラナードの怒りは収まらなかった。ラナードが絶望しかけたそのとき、格子の嵌った灯り取り用の小さな窓の近くで、コツコツと小石をぶつけるような音が聞こえた。
「……誰だ。誰かそこにいるのか」
「ラナード兄様、聞こえますか……私です。ミイナです」
「ミイナかっ!お前、俺を助けにきたんだな!そうだな!」
「はい。必ず私がお助けします」
「そうか!ミイナ、よく来てくれた。お前だけは俺を裏切らないと思っていたぞ。鍵を持ってきたのか!?」
ラナードは思わず声を弾ませた。ミイナはドナード国の数多いる王女の一人だが、赤褐色のうねるような髪に、ソバカスだらけの冴えない容姿の娘だったため、王の目に止まらなかった。
ドナード王から忘れられた彼女はメイドたちにも侮られ、王女と呼ぶには気の毒なほどいつもみすぼらしい恰好をしていた。ラナードは腹を空かせた彼女に、気まぐれに菓子を与えたり、食事を与えたりしていたのだ。
「ラナード兄様、待っていてください。私が必ずお助けしますから。今からアスタリアに行って、花嫁が身に着けていた国宝の宝石を見つけてきます。そうすればきっと、父上も兄様を許して下さるはずです」
「なんだと」
「父上が勅令を出しました。アイリス王女に贈った国宝のブルーダイヤの首飾りを持ち帰ったものは、どんな願いも叶えると。二つとない貴重な宝物だそうです。私がそれを必ず見つけ出してきます」
「馬鹿な。どうやって広い海からたった一つの首飾りを探すんだ。何年掛かっても見つかりっこない」
「私は漂着物が多く集まる海岸を知っています。潮の流れから見て、アイリス王女の亡骸もそこに辿り着く可能性が高いでしょう。まずはそこを中心に探してみるつもりです」
「そ、そんなことより、ここの鍵はないのか……」
「残念ながら、今兄様を助け出したとしても、すぐに捕まってしまうでしょう。どうか、今少しお待ちください」
「わ、分かった」
「兄様……貴方が私にしてくださったこと、忘れません。必ずお返しします」
「ああ、信じてるぞ」
「では……」
そう言い残すと、ミイナ王女は夜の闇に紛れて消えた。