最終話 完璧なハッピーエンド
◇◇◇
アルファンド王国の大聖堂は、この日、かつてないほどの光に満ちていた。
祭壇へ続く道の両脇には、竜の力で咲かせた花々が咲き誇り、天井からは柔らかな光が降り注ぐ。
それは祝福であり、誓いであり、世界が二組の番を受け入れた証でもあった。
アイリスとミイナは、並んで立っていた。
――目も眩むような宝石で飾り立てられて。
「……やりすぎだと思わない?」
小声で呟いたミイナに、アイリスは苦笑で返す。
「本当に……でも、あまりにも嬉々として帰ってきたので、止められませんでした……」
純白のドレスに、これでもかと散りばめられた色とりどりの宝石がずっしりと重い。
ロイとフィリクスが互いに「負けるか」と張り合い、竜の姿で山を穿ち、地を裂き、文字通り“掘ってきた”成果だった。
アイリスの胸元には、透明で澄み切ったダイヤモンド。
光を受けるたび、七色にきらめき、彼女の穏やかな微笑みを引き立てる。
ミイナの額には、深紅のルビー。
炎のような髪に映えるそれは、彼女が越えてきた絶望と、今ここにある強さを象徴していた。
二人はそっと、それぞれ胸と額に手を当てる。
ずっしりとした重さは、二人の愛の重さを物語っている。
(重い……けど、……嬉しい)
言葉にしなくても、同じ気持ちだと分かっていた。
やがて、参列者のざわめきが一瞬、静まる。
アイリスは、前方に両親の姿を見つけた。
「……お父様……お母様……」
堪えきれず、涙が溢れる。
駆け寄ることはできない。けれど、視線が合った瞬間、すべてが伝わった。
生きていてくれてよかった。
幸せになってくれて、ありがとう。
互いに涙を流しながら、何度も、何度も頷き合う。
一方その横で、ミイナは少しだけ、視線を伏せた。
――自分には、帰る家はない。
その小さな寂しさを感じ取ったのか、
「おーい、新婦さん!」
聞き慣れた声が飛んだ。
振り返ると、かつてロイの船で共に旅した船員たちが、揃って手を振っている。
「立派になったな!」 「泣くなよー!」 「いや、泣いてもいいぞ!」
どっと笑いが起きる。
「俺たちにとっちゃ、お前も家族みたいなもんだ!」
胸の奥が、きゅっと熱くなった。
「……ありがとう」
ミイナが微笑むと、今度は別の知らせが届く。
リュカとキースが運んできた、老王からの山のような祝いの品が続々と届く。
「幸せに、だってさ」
ミイナは一瞬だけ目を閉じ、そっと涙を拭う。胸元には、父と母から贈られたブルーダイヤの首飾りが揺れていた。
ミイナは微笑んで前を向いた。
「俺がいるだろ」
耳元で、低く優しい声。
ロイが、額に自分の額を軽く当てる。
――コツン。
それだけで、不思議と心が満たされる。
「……うん」
もう、寂しくない。
誓いの言葉が交わされ、
世界が二組の番を正式に祝福する。
天から、花吹雪が舞い落ちた。
赤、白、金、青――
いつまでも、いつまでも、止まることなく振り続ける花びらの下。
「愛してる」
ロイとミイナ、フィリクスとアイリスが、同時に口づける。
割れるような歓声と祝福の中で、二人の花嫁は応える。
「私も愛してる」
――それは完璧な、ハッピーエンド。
おしまい
















