その42 あっけない断罪
◇◇◇
瓦礫の山と、水浸しの広場。炎は消え、熱は去り、代わりに冷たい水が地面を覆っていた。
砕けた石と倒れた柱の隙間から、白い蒸気がゆっくりと立ち上る。
人々は誰一人、声を上げなかった。息を潜め、ただ成り行きを見守っている。
広場の中央に立つのは、人の姿に戻ったロイ。その腕の中には、深く眠るミイナがいた。
焼け焦げたはずの身体は、傷一つなく、まるで何事もなかったかのように胸が上下している。
「……魔力切れか」
背後から、気の抜けた声がした。
水音を立てて近づいてきたのは、人の姿に戻ったダイアンだった。銀髪を濡らしながら、二人を見下ろす。
「派手に暴れたもんな」
「ああ」
短く答えるロイの声には、疲労と安堵が滲んでいた。ダイアンは眠るミイナに視線を落とし、口の端を吊り上げる。
「さすがジェニファーの娘だ。末恐ろしいな」
わざとらしく肩をすくめ、震えてみせる。
「赤竜の長として、しっかり面倒みろよ?」
「言われなくとも」
即答だった。ダイアンは一瞬目を細め、それからふっと息を吐く。
「……お前も、ようやく大人になったみたいだしな」
「俺はとっくに成人している!」
「数百年前、生まれたばかりだろ?」
くつくつと笑いながら、ダイアンは肩を揺らす。
「俺たちからしたら、まだまだひよっこだ」
張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。その様子に、遠巻きに見ていた人々も、少しずつ息を取り戻していく。
――そのときだった。
瓦礫の陰から、よろよろと一人の男が姿を現す。
アレン。
青ざめた顔で、逃げ出そうとした瞬間――
「おっと」
ダイアンが、ひょいっとその首根っこを掴み上げた。
「こいつが、アイリスを海に沈めようとした張本人らしいな」
「……ミイナを火あぶりにしやがった奴だな」
低く呟くロイの声に、アレンの身体がびくりと跳ねる。二人の竜に睨まれた瞬間、アレンは情けない音を立てた。股から水が滴り落ち、そのまま白目を剥いて気絶する。
「小者が」
ダイアンは吐き捨てるように言った。
「殺す価値もない」
そのまま、アレンの頭から容赦なく水を浴びせる。
「おい!」
ロイが声を張る。
「こいつを、きちんと始末しとけよ!」
言い終わるより早く、ロイは片手でアレンを掴み――
ぶん、と放り投げた。
老王の足元へ、鈍い音を立てて叩きつけられる。だが、老王は、倒れ伏すアレンを一瞥もしなかった。目を見開いたまま、ただ――
ロイの腕の中で眠るミイナを、食い入るように凝視していた。
まるで、宝を見つけたかのように。
















