その41 守るべきもの
◇◇◇
――熱い。
だが、痛みはなかった。炎に包まれながら、ロイは静かに息を吸う。灼熱は恐怖ではなく、懐かしさすら伴って身体を満たしていく。
(……そうか)
自分は、最初からここに立つためにいたのだと、今ならわかる。炎の向こうで、深紅の竜が暴れている。理性を失い、世界そのものを焼き尽くそうとする存在。
――ミイナ。
ロイは、一歩、炎の中へ踏み出した。赤竜の炎は、赤竜を拒まない。
◇◇◇
遠い記憶が、ふと蘇る。赤竜の長に指名された、あの日。
「俺は雑種だからな」
自嘲するように、ロイは笑った。
「フィリクスやダイアンみたいに、竜体にはなれない。どんなに努力したって、あいつらには敵わない」
言い終わる前に、頭に重みを感じた。ジェニファーが、無言でロイの頭を撫でていた。
「馬鹿を言うな」
低く、強い声。
「あんたは、私が見込んだ男だ」
手の温もりが、じんわりと伝わる。
「誰にも負けない力がある。ロイ、お前は強い」
ロイは、思わず泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「だがな」
ジェニファーは、少しだけ声を和らげる。
「お前は、誰よりも優しい。だからこそ――その力は、守るための力だ」
「……守る、ための……」
◇◇◇
記憶が、炎に溶けて消える。
(ああ……)
ロイは、ゆっくりと拳を握りしめた。竜体になれない?違う。なろうとしなかっただけだ。壊すための竜になりたくなかった。だから、ここまで来た。
「ミイナ……」
ロイの身体から、赤い光が溢れ出す。炎と同じ色、だが質の違う、深い赤。骨が軋み、視界が高くなる。人の輪郭が崩れ、竜の影が重なる。
――赤竜。
ミイナと同じ、炎の眷属。だが、その在り方は正反対だった。ロイは、ゆっくりと翼を広げる。炎が、まるで居場所を譲るように道を開く。
次の瞬間、ミイナのブレスが放たれた。灼熱の奔流。だが、ロイは避けなかった。炎は、ロイを焼かない。赤竜の長を、拒まない。
ロイは、そのまま前に出る。炎ごと、ミイナを包み込んだ。暴れる深紅の竜が、苦しげに咆哮する。
「大丈夫だ」
言葉はもう届かない。それでも、ロイは繰り返す。
「お前は、独りじゃない」
そのとき――
空気が、変わった。熱が、ゆっくりと引いていく。上空から、冷たい気配が降り注いだ。
「こいつはまた、派手に暴れたな。とんだお転婆だ。これ以上は、俺の出番だな」
低く、澄んだ声。銀の光をまとい、巨大な水竜が舞い降りる。竜体になったダイアンから放たれる奔流のような水が炎を包み、蒸気が空を覆う。世界が、ようやく呼吸を取り戻していく。
深紅の竜の動きが、次第に弱まった。ロイは、なおも翼を広げたまま、ミイナを離さなかった。
守るべきものは、腕の中にある。
それだけで、十分だった。
















